コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第101回

2008年5月2日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

第101回:ピクサーのすごさを再認識した“ロング・リード”取材

最近、ますますロング・リードと呼ばれる取材形式が増えてきた。ロング・リード(long lead)とはもともとは「大差(をつける)」という意味で、インタビューの場合だと、先行取材を指す。最近、ハリウッド大作のほとんどが世界同時で封切られることが多くなったから、全米公開の2週間前に行われる通常のジャンケット取材だと、各国での宣伝が間に合わない。そこで、劇場公開の数カ月前に、ロング・リード取材の機会が設けられるようになったわけだ。

ロング・リード取材のやっかいな点は、ほとんどの場合において、映画が完成していない時期に行われることだ。だから取材の席では「どんな映画なんですか?」という質問が飛び交うことになる。かくして、せっかくの貴重なインタビュー時間が、映画のストーリー説明に費やされることになる。

筆者近影 「WALL・E/ウォーリー」の取材で訪れたピクサー社にて
筆者近影 「WALL・E/ウォーリー」の取材で訪れたピクサー社にて

さらに困るのは、秘密主義の映画が増えてきたことだ。たとえば、「。インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」でシャイア・ラブーフの取材をしたとき、映画のなかでの役柄について尋ねても、マットという役名以外は一切コメントしてくれなかった。映画版「X-ファイル」の続編、「The X-Files: I Want to Believe」のロング・リード取材においても、デビッド・ドゥカブニーはストーリーに関してノーコメント。映画の封切日までストーリーを秘密にしておきたいという気持ちは十分理解できるけれど、映画に関する質問ができないとなると、ぼくは黙るしかない。俳優のゴシップには興味がないし。

そんななか、3月末、ピクサーの新作映画「WALL・E/ウォーリー」のロング・リード取材があった。映画はまだ未完成で、6月27日の全米公開に間に合わせるために、必死の追い上げをしている最中なのだが、なんと冒頭の35分間を惜しげもなく公開してくれたのだ。

WALL・E/ウォーリー」を一言で説明するならば、「R2-D2 ザ・ムービー」だ。「スター・ウォーズ」の人気キャラクターのR2-D2を主人公にして、映画を1本作ったらたぶんこんな感じになるのではないか、と思う。

WALL・E/ウォーリー」の舞台は、西暦2700年の未来だ。地球の環境汚染が悪化の一途を辿り、ついに人が住めない状態になったため、人類は宇宙での生活を余儀なくされている。そんななか、荒廃した地球でせっせとゴミの山を築いている1台のゴミ収集ロボットがいる。これが主人公のWALL・E(ウォーリー)で、人間が地球脱出時にスイッチを切り忘れたために、いまだに稼働しているのだ。ゴミの惑星と化した地球において、WALL・Eの行為ははっきり言って無意味だ。しかし、来る日も来る日も、WALL・Eはゴミをかき集め、ブロック型に圧縮し、山を築き続ける。なぜなら、それが彼の任務だからだ。

またまた傑作の予感の漂う 「WALL・E/ウォーリー」日本公開は12月
またまた傑作の予感の漂う 「WALL・E/ウォーリー」日本公開は12月

WALL・E/ウォーリー」は、無益な単調作業に明け暮れる孤独なロボットが、やがて自らの使命を見いだすまでを描いた冒険物語なのだ。

日本公開はまだまだ先なので、詳しいストーリーの説明はこのへんで控えておくが、驚くべきはその映像スタイルだ。今回の主人公は人間語を話さないロボットだから、劇中、会話がほとんどない。短編映画の分野では、ピクサーは台詞に頼らないアニメーション表現をたびたび披露してきたが、それを長編映画でやろうというのはかなりの冒険である。しかし、身振り手振りによる感情表現と、ベン・バート(「スター・ウォーズ」シリーズ)のサウンド・デザインのおかげで、見ている分にはなにも不自由しなかった。いや、むしろ、キャラクターたちが言葉を発さないぶん、こちらは彼らの感情を読み取ろうと集中するから、通常映画よりも深い映画体験ができた気がする。

35分間のフッテージ上映は、ピクサーのすごさを再認識するには十分すぎるほどだった。他のロング・リード取材でも、せめてこのくらい見せてもらえないものだろうか。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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