コラム:編集長コラム 映画は当たってナンボ - 第36回
2009年2月24日更新
第36回:アカデミー賞は、日本にとってはベストの結果に
第81回アカデミー賞が発表された。予想通り、「スラムドッグ$ミリオネア」が席巻(作品賞含む8部門で受賞)し、亡きヒース・レジャー(助演男優賞)と、ノミネート常連(今回が6回目)ながら無冠だったケイト・ウィンスレット(主演女優賞)が戴冠を受けるなど、極めて妥当な感じのする授賞式であったが、いくつかのサプライズもあった。
まずは外国語映画賞。この部門は「戦場でワルツを」が鉄板だと思われていただけに「おくりびと」は大殊勲と言っていい。私も、この授賞式の前に「戦場でワルツを」の試写を見る機会を得たが、正直、見終わった後は言葉がなかった。中東での戦争体験をドキュメンタリー撮影し、それをアニメ化してデスクトップで再構成するというアイディア。そして、最後の最後に待ち受ける衝撃の映像。
同じ「死」を描きながら、「おくりびと」に描かれる「安らかな旅立ち」とは180度逆の所にある、強制的で無慈悲な「虐殺」という主題はあまりに重く、見る者の心に深く突き刺さる。
新聞報道によると、「おくりびと」の本木雅弘も「戦場でワルツを」を見たそうで、「この映画が受賞するな」と思っていたそうである。日本では秋の公開だ。
もう1つのサプライズは、主演男優賞のショーン・ペン。もちろん「ミルク」の熱演はオスカーに相応しいのであるが、ペンは04年に「ミスティック・リバー」で同賞を受賞したのが記憶に新しい。「取ったばかり」という印象から、受賞はないものと思っていた。
とは言え、今回はミッキー・ロークが本命視されていたが、ショーン・ペンも対抗馬としてオッズは2番目に低かった。まあ、スモール・サプライズだ。
それにしても、主要部門の受賞作が、日本ではすべてこれから公開というのは喜ばしい限り。作品賞以下8冠の「スラムドッグ$ミリオネア」(4月18日公開)は、是非とも興収10億円以上を目指して頑張って欲しいもの。この映画のサクセス・ストーリーからして、日本でも大きな興行を打てると思う。
主演男優賞(ショーン・ペン)の「ミルク」(GW公開)、主演女優賞(ケイト・ウィンスレット)の「愛を読むひと」(6月19日公開)も、これから始まる興行が楽しみだ。ストーリーに加え、主演俳優の「名演を見る」という明快な付加価値が備わった。
そして「おくりびと」。何とこの作品は、公開から5カ月も経っているのに、したたかにもアカデミー賞授賞式の直前から180スクリーン規模で再拡大公開を始めていた。これが奏功して、今週のランキングでは14位から8位に浮上。今週末はさらに順位を上げそうな勢いである。
これまでの興収はおよそ32億2000万円。こうなったら、「武士の一分」の41.1億円超えを是非狙って欲しい。
日本の映画興行にとって、大当たりのアカデミー賞であった。(eiga.com編集長・駒井尚文)
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi