コラム:細野真宏の試写室日記 - 第85回
2020年8月5日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
第85回 試写室日記 「映画ドラえもん のび太の新恐竜」は歴代最高興行収入を叩き出せるのか?
2020年8月5日
今週末は、引き続き好調な「今日から俺は!!劇場版」と「コンフィデンスマンJP プリンセス編」が映画館・映画業界を盛り上げていきそうですが、8月7日(金)から新たに夏休み映画の本命「映画ドラえもん のび太の新恐竜」が加わります。
とは言え、そもそも「映画ドラえもん」は第1作目の「映画ドラえもん のび太の恐竜」が1980年3月15日に公開されて以降、これまで39作品はすべて「春休み映画」でした。
ただ、今年は新型コロナウイルスの影響で、「夏休み映画」となったのです。
新型コロナウイルスは早くも第2波がやってきつつありますが、「映画ドラえもん」はファミリー層を中心に集客し、近年は興行収入が50億円規模を狙える作品になってきているので、映画業界の復活に大事な作品なのです。
加えて今回は「ドラえもん(連載開始)50周年記念作品」ということで、いつにも増して宣伝等にも力が入っているように思えます。
毎年の恒例となった「映画ドラえもん」ですが、さすがに毎年、新しい作品を生み出すのは難しい面もあり、2006年から「リメイク作品」を作る、という流れができたのは注目すべき点です。
要は、過去の名作を、さらに現在の技術を加え内容も含めて進化させる、という試みで、実際に「映画ドラえもん のび太の恐竜2006」は、かなりの名作でした。
2006年以降も、オリジナル新作に加えて、2007年の「映画ドラえもん のび太の新魔界大冒険 7人の魔法使い」、2009年の「映画ドラえもん 新・のび太の宇宙開拓史」、2011年の「映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 はばたけ天使たち」、2014年の「映画ドラえもん 新・のび太の大魔境 ペコと5人の探検隊」、2016年の「映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生」と1~3年おきにリメイク作品を投入してきていました。
ただ、私が未だに不思議なのは、これらの「リメイク作品」は、どれも(通常の新作より)良く出来ていたのですが、なぜか興行収入が落ちてしまうような傾向にあったのです。
これは、リメイク作品だと、「あ~あれは前に見たからいいや」という判断が出ているとしか思えないのですが、せっかく、より名作になっているのに惜しい気がします。
いずれにしても、これらの傾向を踏まえ、2017年の 「映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険」からオリジナル作品が続くようになってきています。
そんな中、本作はこれらの「ハイブリッド的な作品」という意味で注目されます。
まず、「映画ドラえもん のび太の新恐竜」というタイトルからも分かるように、基本は第1作目の「映画ドラえもん のび太の恐竜」と似たような構造にあります。
ただ、このリメイク作品はすでに2006年にやっているので、今回は、あくまでモチーフにして新たなオリジナル作品を作った、ということになっています。
本作は、作画がいつもよりクオリティーが上がっているように思います。
また、Mr.Childrenによるテーマ曲が「Birthday」と「君と重ねたモノローグ」の2曲というのも良かったと思います。
その一方で、いくつか気になる箇所もあって、例えば、最初にのび太が恐竜の博覧会で驚いて逃げ出すのですが、これは脚本に混乱があるように思えます。
なぜなら、第1作目であれば問題はないのですが、すでにのび太たちは本物の恐竜を何度も見てきているので、この立て付け(実際に「映画ドラえもん のび太の恐竜」の〇〇も登場します)における初期化は違和感が出てきます。
また、効き目が1時間の道具なのに、すぐに切れていたり、明らかに1時間を超えていたりと、設定の統一性なども少し気になりました。
とは言え、あくまでメインターゲットは子供なので、通常の映画のような緻密さは要らないのかもしれませんね。
さて、本作は「ドラえもん(連載開始)50周年記念作品」ということで、通常の「入場者プレゼント」もパワーアップされていて、「のび太の新恐竜まんがBOOK」は5種類もあって、種類が選べないようになっています。
これはファミリー層に響けば、より集客が見込めるような仕掛け(多くの人数で行けば、多くの種類が集められる)なので、かなりの力の入れ様だと感じます。
通常であれば、興行収入50億円は見込める(ちなみに過去最高は「映画ドラえもん のび太の宝島」の53億7000万円)流れではありますが、果たして新型コロナウイルスの影響がどうなるのかが気になるところです。
夏休みの期間も通常より短くなる傾向があるため、短期決戦の様相を見せるのかもしれません。
目下、8月から夏休みに入っているところもあり、平日も(子供に人気の)「今日から俺は!!劇場版」を見に来る観客が増えてきているので、現状だと新型コロナウイルスの影響は(感染対策をキチンとしている)映画館にはそれほど大きくないようです。
お盆期間も帰省等が難しくなっている中、近場の娯楽施設としての映画館の役割が、むしろ増しそうな気がします。
そのため、8日から10日までの3連休を中心に映画館はいつも以上の賑わいを見せ、14日、15日公開作品に良い流れを作ってくれると、経済的にも見通しが良くなりそうです。
梅雨が明けて猛暑がやってきて「猛暑の中でマスク」という信じられないような環境が生まれつつありますが、映画館のように「換気ができている上に涼しい場」も珍しいので、映画館への脚光が大きくなっていきそうな予感がします。
この3連休に「映画ドラえもん のび太の新恐竜」がどれだけの爆発力を見せ、好調な「今日から俺は!!劇場版」と「コンフィデンスマンJP プリンセス編」も含めてどんな状況になるのか、久しぶりに景気の良いニュースになりそうで注目したいと思います。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono