コラム:細野真宏の試写室日記 - 第58回
2020年1月29日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
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第58回 試写室日記 「ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密」。アガサ・クリスティーのファンと、出来の良い作品が好きな人は必見のアカデミー賞級のミステリー作品
2019年1月17日@松竹試写室 配給元:ロングライド
特に今年は日本の映画市場でも「アカデミー賞関連作」が好調ですが、本年度のアカデミー賞で脚本賞にノミネートされていてアメリカでも大ヒット中の「ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密」が、いよいよ今週末(1月31日)から日本で公開されます!
まず、本作の宣伝では「『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』の監督最新作」というのが使われていますが、果たしてこれが有効なのか、私は個人的に疑問に思っています。
なぜなら「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」は、“アメリカの批評家からは謎の好評”だったのですが、一般の観客からの評価は散々で、私も個人的には一般の観客と同じような評価だったからです。
ちなみに「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」は、Rotten Tomatoesでは、批評家の評価は91%で、一般層の評価は43%となっています。
その一方で、本作「ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密」は、批評家の評価は97%で、一般層の評価は92%と、両方が高評価となっています。(共に2020年1月29日時点)
私は、これらの揺れがあったのでライアン・ジョンソン監督のポテンシャルは考えづらかったのですが、「ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密」を見て改めて思ったのが、多くの監督には「得意な作風と不得意な作風があるのだな」ということでした。
要は、「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」は「不幸な事案」だったのでしょう。確かにライアン・ジョンソン監督による2012年のジョセフ・ゴードン=レビット、ブルース・ウィリス、エミリー・ブラント出演作の「LOOPER ルーパー」は斬新で良く出来たSF映画だったので、ディズニーが「スター・ウォーズ」に抜擢したのも理解はできます。ただ、単純にライアン・ジョンソン監督は超大作「スター・ウォーズ」の作風に合わなかった、と考えるのが正解だと思われます。
似たような構図としては、「(500)日のサマー」のマーク・ウェブ監督の事例があります。
私は「(500)日のサマー」は超名作だと思っていますが、マーク・ウェブ監督は初監督作であったにも関わらず凄い作品を作ってしまったので、ソニーから「アメイジング・スパイダーマン」シリーズという超大作の監督に大抜擢されました。「(500)日のサマー」が大好きな私の期待度が大きかったからか、正直なところ「アメイジング・スパイダーマン」シリーズはフォローできない出来でした。なので「アメイジング・スパイダーマン3」がソニー上層部の決断により突然の製作中止となってしまったのは仕方ないと思われます。
ただ、その後のマーク・ウェブ監督は「gifted ギフテッド」や「さよなら、僕のマンハッタン」と、得意とするヒューマンドラマで名作を作り続けているので、これも「不幸な事案」だったのだなと理解しています。
ちなみに、このマーク・ウェブ監督は「君の名は。」のハリウッドリメイク版の監督を担当することになっているので、この案件はどうなるのか注目しています。
さて、本作「ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密」こそ、ライアン・ジョンソン監督の本領が発揮できる作風なんだな、と思いました。
私は、このような見事なプロットによる上質なミステリー作品を作ったライアン・ジョンソン監督は、現代のアガサ・クリスティーになれる可能性を秘めた監督なんだと思います。
本作の大ヒットにより、すでに続編も決定しましたが、上手くいけば、映画界では「アガサ・クリスティー以上の存在」になれる可能性さえあります。
なぜなら、アガサ・クリスティー本人は小説の世界だけでしたが、ライアン・ジョンソン監督の場合は、「本人による映像化を前提に、携帯電話などがある最新の現代の脚本」を作れるので、脚本と映像の相乗効果が最大限に見込めるからです。
そのため、すでに私は続編の出来がどうなるのか今から楽しみになっています。
本作では、「推理小説の分野でベストセラーを連発しているハーラン・スロンビー(クリストファー・プラマー)」が85歳の誕生日パーティーの翌朝に屋敷の書斎で死んでいるのが見つかるところから謎解きが始まります。そこに警察と私立探偵のブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)が現れ、屋敷で聞き取り捜査を行なうという流れになります。大きな特徴としては、「ミステリー作品でありながら、コメディ要素もある映画」となっている点です。
ちなみにRotten Tomatoesで批評家の評価97%で一般層92%と、一般層の方が、やや低くなっているのは、アガサ・クリスティー原作の「オリエント急行殺人事件」のように登場人物がとても多いからだと思っています。
映画を見慣れている人は、概して登場人物が多くても情報を見極めるのが得意ですが、一般の人は、登場人物が多いと「あれ、この人はどういう立場の人だったっけ?」と少し混乱が出ても仕方ないと思います。
そのため、普段「なかなか人の顔などが覚えにくい」という人は、事前にHPなどで登場人物を把握しておくと、より楽しめると思います!
主演のダニエル・クレイグは、次回の「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」でジェームズ・ボンドを卒業すると思われますが、本作「ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密」で名探偵ブノワ・ブランという当たり役を得たので、映画界での活躍はまだまだ続きそうです。
肝心の興行収入ですが、134館規模と決して大きくはないので、最低でも興行収入2億円、作品の出来を踏まえると興行収入3億円にはいってほしいところですが、大作映画も多い中、果たしてどうなるのか注目です!
「ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密」 配信中!
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細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono