コラム:細野真宏の試写室日記 - 第54回

2020年1月8日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)

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第54回 試写室日記 「フォードvsフェラーリ」。実は、本作もアカデミー賞級の名作! 日本では「オデッセイ」級のヒットもあり得る?

2019年11月19日@TOHOシネマズ新宿(IMAXレーザー字幕版)  配給元:ディズニー

今週末公開作はアカデミー賞を意識した布陣が並んできて、ようやく良質な作品を多く見られる季節がやってきました。

1月10日(金)公開の本作「フォードvsフェラーリ」は、タイトルだけを見ると少しインパクトに欠ける気がしますが、実際に見てみると、興奮しっぱなしになるほどの超大作なのです!

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アメリカでは昨年の11月に公開され、大ヒットを記録しているのにも頷けました。

とは言え、実は私はこの作品を見る際に心配がありました。

というのも、監督がジェームズ・マンゴールドだから、でした。

ジェームズ・マンゴールドというのは、私の中では未だにポテンシャルが見えにくい監督で、なぜか作品のアタリとハズレの落差の大きいのです。

とりあえず分かりやすく有名な作品だけを挙げると、「17歳のカルテ」(1999年)、「ウォーク・ザ・ライン 君につづく道」(2005年)、「ナイト&デイ」(2010年)、「ウルヴァリン:SAMURAI」(2013年)、「LOGAN ローガン」(2017年)といった辺りでしょうか。

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まず、「17歳のカルテ」(1999年)はアンジェリーナ・ジョリーをアカデミー助演女優賞に導いた名作で、「ウォーク・ザ・ライン 君につづく道」(2005年)もゴールデングローブ賞で作品賞、ホアキン・フェニックスを主演男優賞、リース・ウィザースプーンを主演女優賞(すべてミュージカル・コメディ部門)に導いた名作(リース・ウィザースプーンはアカデミー主演女優賞も受賞)で、しっかりした骨太なヒューマンドラマが非常に上手い監督だと分かります。

ただ、トム・クルーズキャメロン・ディアスが共演した「ナイト&デイ」(2010年)や、X-メンのスピンオフでヒュー・ジャックマン主演の「ウルヴァリン:SAMURAI」(2013年)は、私の尺度ではハズレに属して、アクション系は苦手なんだな、と思っていました。

ところが、同じくX-メンのスピンオフでヒュー・ジャックマン主演の「LOGAN ローガン」(2017年)は、日本では興行の面だとややコケましたが、これは「見ないと損する!」というレベルの傑作で、「ヒューマンドラマを基調としたアクション映画」も得意なのか、という印象でした。

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そんなアタリとハズレを繰り返すジェームズ・マンゴールド監督作だったので、正直、見るまでは不安がいっぱいでしたが、見てみたら「ヒューマンドラマを基調としたアクション映画」で、退屈する間もなく2時間33分が、あっという間に過ぎ去ってしまい“悔しいほどの傑作”でした!

珍しく“悔しい”と思ってしまったのは、「ここまで出来が良いのなら、アカデミー賞の最有力にもなり得て、イチオシの『ジョーカー』を脅かす存在になってしまうかも」と思ったからです(笑)。

実際に、辛口の評価で有名なRotten Tomatoesでも、批評家の評価は92%で、一般層の評価は98%と驚異的な高さになっています。(2020年1月8日時点)

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本作は、マット・デイモンクリスチャン・ベールのW主演映画なので、どちらが主演男優賞の対象になり、どちらが助演男優賞の対象になるのか、あるいは二人とも主演男優賞の対象なのかは、賞によって分かれるところでしょうか。

そして、やはり2人とも演技派として知られているだけあって、流石の演技でした。

ちなみに、「クリスチャン・ベールは、レーサーにしては年齢が上過ぎないか?」といった素朴な疑問もあるでしょうが、それにはちゃんとした理由があるので本作「フォードvsフェラーリ」で確認を!

私は本作で初めて可愛らしいクリスチャン・ベールを見た気がします。「H・A・P・P・Y(わぁ~い)♪」と自然に無邪気に歌うクリスチャン・ベールは、まさにカメレオン俳優そのものですね。

とは言え、アカデミー賞の主演男優賞は、やはり「ジョーカー」のホアキン・フェニックスだと思いますが(笑)。

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現時点で少しだけ気になるのは、アカデミー賞の前哨戦と言われる「ゴールデングローブ賞」で、本作「フォードvsフェラーリ」は、作品賞にノミネートされず、クリスチャン・ベールが主演男優賞(ドラマ部門)にノミネートされただけだったのです。

ただ、実際のアカデミー賞では、作品賞も含めてノミネートされるべき作品だと思っているので、実際にノミネートされるのか注目したいところです。

本作は、世界中が熱狂した伝説的な「1966年のル・マン24時間レース」を終盤で描いていますが、ドキュメンタリー映画が好きな人から「それなら実際の1966年のル・マン24時間レースを見ればいいのでは?」という声も聞こえてきます。

私は、それについては、断固として「NO」を唱えたいです。本作の面白さはそのレースの結果などではありません。マット・デイモンが演じる敏腕レーサーだったキャロル・シェルビーが、どういう経緯でカー・デザイナーに転身したのか。また、クリスチャン・ベールが演じる小さな自動車工場を経営していたケン・マイルズが、どういう経緯で大舞台のレーサーに抜擢されたのか。そして、その2人が巻き起こす数々の化学反応が面白いのであって、レースが主役ではないと思うからです。

もちろんレースシーンも迫力が凄いので見どころなのは間違いないのですが、フォードとフェラーリとの因縁や、フォードという会社の社員の力学など、様々な要因が重なり合ってのストーリー展開なので、実話を論理的に自然に凝縮してもらい圧倒的な爽快感のあるスピードで味わえるのが本作の醍醐味なのです!

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さて、肝心の興行収入ですが、私は、本作と同様にマット・デイモンが主役だった「オデッセイ」と似た感じの推移をするような気がしています。

それは、「オデッセイ」はアカデミー賞で作品賞、主演男優賞 、脚色賞など7部門もノミネートされ、まさにアカデミー賞級の出来の作品だったからです。

しかも、日本の公開日も2016年2月5日(金)と、本作「フォードvsフェラーリ」とそれほど変わらないアカデミー賞に備えた公開日(今年のアカデミー賞は例年より1ヵ月ほど前倒し)なので、同じ「FOXの作品×アカデミー賞級の作品×マット・デイモン主演作」ということで、上手くいけば「オデッセイ」の興行収入35億4000万円を基準にした30億円規模のヒットを生み出せるポテンシャルはあると思っています。

ただ、アニメーション映画で世界興行収入が遂に歴代1位となった「アナと雪の女王2」もまだまだ強いので、とりあえずは20億円くらいが目途なのかもしれませんが、本作「フォードvsフェラーリ」を大きく後押しするのは、やはりアカデミー賞のノミネートだと思われるため、アメリカ時間で2020年1月13日に行なわれるアカデミー賞のノミネート発表を注視したいと思います。

いずれにしても、アカデミー賞にかかわらず非常に出来の良い傑作なので、純粋に日本でもヒットしてほしいですね。

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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