コラム:細野真宏の試写室日記 - 第49回
2019年11月27日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
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第49回 「ドクター・スリープ」。40年前の名作「シャイニング」の“傑作的な続編”は、今の興行ではどう動く?
2019年11月27日@ワーナー試写室
今から40年前の1980年に公開され、大きな話題となり映画史に名を残す「シャイニング」。もちろん、私も何年も前から早く見ようと思っていましたが、DVDを見るタイミングをずっと逸していて、本作「ドクター・スリープ」が今週の金曜日(11月29日)から公開されるのを機に、ようやく見てみました。
「シャイニング」の率直な感想は、「40年前では画期的な作品だったんだろうけど、今公開されても、そこまでの驚きはないのかな」と言った感じでした。
というのも、例えば昨年公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督作の「レディ・プレイヤー1」でも、有名な「双子の女の子の幽霊」や「237号室の女」などのシーンが出ていたりと、これまで何度も象徴的なシーンを見ていたので、いろんな既視感があったのも理由の1つなのかもしれません。
ただ、名匠・故スタンリー・キューブリック監督作であって、現在もヒットしている「ITイット THE END ”それ”が見えたら、終わり。」のスティーヴン・キング原作でもあるので、「名作」と言われる部類に属するのはよく分かりました。
ジャック・ニコルソンの怪演も含め、良い意味での「知的なホラー映画」でした。
さて、そんな伝説的な作品の続編が40年ぶりに公開されるのですが、大まかな設定は「シャイニング」で主演のジャック・ニコルソン扮するジャック・トランスの子供で、あのホテルの惨劇を生き延びたダニー・トランスの40年後を描き出していて、前作では謎だらけだったホテルの真相が明かされていきます!
そもそも「シャイニング」とは、通常は「輝かしい」「優れている」といった意味で、映画では「輝かしい特殊な才能」という意味で使われています。
例えば、「テレパシー」や「予知能力」などができる能力だったりするのですが、今だと「超能力」といったほうが通じやすいですね。
まさに、続編の本作「ドクター・スリープ」では、「超能力」×「ホラー」といった感じでしょうか。
では、作品の出来はどうだったのか、というと、(いつものようにお世辞は一切抜きで)とても面白かったです!
最初の10分ちょっとは40年前の1980年を描いていて(もちろん新作の映像です!)、その後に2011年で髭を生やし過去のトラウマと戦っているダニー(ユアン・マクレガー)が登場し、その後で8年後の「現在」が描かれています。
前作の「シャイニング」は、やはり「40年前の作品」ということもあり少々地味でしたが、本作では、かなり現代的で進化していると思いました。
「超能力」×「ホラー」といった大きな枠組みは両作品とも同じですが、本作「ドクター・スリープ」では、どちらかと言うと前者の「超能力」に重きが置かれ、最初は「上映時間が152分だと、ちょっと間延びしてしまうのかな」といった心配もありましたが、テンポが良く、あっという間に終わった感じです。
前作の“赤い羊”(レッドラム)の意味も分かりましたし、登場人物が多く、バトルも面白かったですし、私は前作よりも圧倒的に本作「ドクター・スリープ」の方が好きでした。
そして本作「ドクター・スリープ」では、前作の「シャイニング」で、原作者と監督が揉めた事案などを上手くアクロバティックにまとめたりと、原作ファンからの支持も高いようです。
余談ですが、2013年に「ジャンゴ 繋がれざる者」の公開に合わせレオナルド・ディカプリオが来日し、「めざましテレビ」の取材でジャック・ニコルソンの簡単なモノマネをして、その上手さに驚きましたが、そういう目で前作の「シャイニング」を見てみると、そもそもジャック・ニコルソンとレオナルド・ディカプリオは、意外なことに演技も顔も実はかなり似ていることに気付きました。
これまでアカデミー賞で12回もノミネート(3回受賞)という男優で最多の記録を誇るジャック・ニコルソンが、今は俳優業を引退してしまったのは非常に残念ですが、いつの日にか「映画界のレジェンドであるジャック・ニコルソンの伝記的映画が製作され、その作品でレオナルド・ディカプリオがジャック・ニコルソンを演じてアカデミー賞を受賞!」という感慨深い将来も現実味があるのかもしれないですね。
さて、本作「ドクター・スリープ」の興行収入ですが、やはり「アナ雪旋風」が吹き荒れている中での公開なので、少し抑えめに考えざるを得ないのかもしれません。
とは言え、「アナと雪の女王2」は今年最高の初速を出しましたが、メガヒット作の公開で日本中で映画館へ向かう意欲がわいたようで、他の作品も好調を維持できていた、というのは興味深い現象でした。
なので、話題作同士、意外と「共存共栄」できるのかもしれないですね。
ただ、やはり本作は「シャイニング」の続編なので、40年前の「シャイニング」を見ているかどうか、で面白さの度合いが大きく変わってくるのが最大の心配です。
冒頭の音楽に加えて最後のテーマ曲が流れるなど、やはり本作を最大限に楽しむには「シャイニング」を事前に見ておくことが重要になります。
私の感覚値では、前作を見ておかないと、せっかくの面白さが半減してしまう気がします。
そのため、私の一番のおススメの鑑賞方法は、まずは前作「シャイニング」を見て、その直後に本作「ドクター・スリープ」を見ると、かなり面白い体験ができると思います!
以上のようなことも関係しているのか、配給元のワーナーの期待値はそれほど高くないような様子です。
とは言え、「ITイット THE END ”それ”が見えたら、終わり。」のような軽い”ホラーブーム”が日本に来ている面もあるので、まずは興行収入10億円を目指してほしいところです。
「アナ雪旋風」の行方に加えて、「40年前の名作を超えるような傑作的な続編」という珍しい作品がどのように評価され興行的に動いていくのか、今週末はかなり興味深い現象が見られそうで注目です!
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
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Twitter:@masahi_hosono