コラム:細野真宏の試写室日記 - 第43回

2019年10月23日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)

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第43回「冴えない彼女(ヒロイン)の育てかた Fine(フィーネ)」。映画.comの注目特集のコメントはどこまで信頼できるのか?

2019年10月18日@アニプレックス試写室

私は普段「映画.com注目特集」で紹介されている作品は、結果的に自分のコラムで同じ作品を取り上げることが少なくないので、自分の視点が影響を受けるのを避けるために意識的に読まないようにしていました。

ところが、初めて全く知らない作品が特集されていたので、思わず見てみました。

その作品とは、「冴えない彼女(ヒロイン)の育てかた Fine(フィーネ)」。アニメーション映画は割とチェックをしているはずだったのですが、深夜アニメで人気だったようで私は知らない作品でした。

映画.comの「冴えない彼女(ヒロイン)の育てかた Fine(フィーネ)」に関する注目特集を要約すると、「映画.comの男性の記者が突然、上司から“ライトノベルをアニメ化した『冴えない彼女の育てかた』のテレビアニメを見て、特集を作っておいて”と無茶ぶりをされて、仕事だからと割り切って帰宅後の夜に見始めた」という実録で、「最初のほうではイマイチ惹かれなかったが、次第にどんどんハマっていった」というものでした。

これを読んだ私は、「本当かな?」とは思いつつ、そこまで熱弁するには何かあるのだろうと思い、正直パッと見の画にはそれほど惹かれなかったのですが、急いで映画の試写を見てみました。

本来は、テレビシリーズをしっかり見ておかないと分からない話になっているはずなのですが、完成度の高い作品だったので、驚くことに映画だけでも十分に面白い作品でした!

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これまでも「バクマン。」のように、高校生が少年ジャンプで連載するという設定で「漫画界の実情」をリアルに描き出す、という試みはありましたが、本作では、高校生がサークルでコミケ用のゲームを作る、というものでした。

「シナリオ担当」「原画担当」「音楽担当」「プロデューサー担当」「ディレクター担当」など、それぞれのキャラクターに役割があり、「新しい作品を生み出す苦悩」などもしっかりと描かれていて、「アニメーション制作」や「映画制作」などにもそのまま当てはまるような「クリエイターの実情」がリアルに垣間見える作品に仕上がっています。

それに加えて、恋愛模様もしっかりと描かれていて、映画.comの記者も含めてハマる人が続出なのも十分に理解できました!

しかも、このアニメーションを制作したのは、「空の青さを知る人よ」と同様に(アニプレックス子会社の)「CloverWorks」であったこともクオリティーの高さに納得できるものでありました。

エンディングで製作委員会を見てみると、「空の青さを知る人よ」とそんなに違わなかったことにも驚きましたが、そもそもこの「冴えない彼女の育てかた」は、フジテレビ系の深夜アニメ枠「ノイタミナ」の作品であったわけですね。

まず「ノイタミナ」枠で2015年に「冴えない彼女の育てかた」が放送され好評を博し、2017年に続編の「冴えない彼女の育てかた♭」が放送されています。

そもそも「ノイタミナ」は2005年の「ハチミツとクローバー」から始まった深夜アニメ枠ですが、これまでも湯浅政明監督の名作「ピンポン THE ANIMATION」が2014年に放送され、2015年に東京アニメアワードフェスティバルで「アニメ オブ ザ イヤー部門」のテレビ部門でグランプリを受賞するなど、数々の面白い試みをしている注目すべき深夜アニメ枠で、実は、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」も2011年に「ノイタミナ」枠で放送されたものだったのです。

冴えない彼女(ヒロイン)の育てかた Fine(フィーネ)」のタイトルに“Fine”とあるので、「冴えカノ」シリーズは本作で終わってしまうようですが、きっとテレビアニメのファンの人たちにも納得できるクオリティーになっていると思われます。

画像2

公開規模は121館という小規模ですが、作品の中で「クリエイターの様々な苦労」を描いているように、それに負けないような作品に仕上げているので、恐らく制作費は割と高めで頑張っている気がします。

初見の私ですら作品に自然と入り込めたので、きっとテレビアニメ段階でのファンには、何度見ても飽きないようなレベルなのではと思います。

私自身も、あと数回は見ても飽きない出来ですね。

強いて言えば、「コミケ用のゲーム」が象徴していますが、主人公の安芸倫也が「筋金入りのオタク」と紹介されているようにアキバ系用語もちょっと出てくるので私のように初見の人には、すべてを完全には吸収できないかもしれませんが、本筋には影響はないので問題なく楽しめると思います!

ただ、意外と多くのキャラクターが登場するので、映画の公式HPにある「STORY」と「キャラクター相関図」だけは事前にざっくりと読んでおいたほうが、より楽しめるでしょう。

【STORY】
【キャラクター相関図】

私のように、まずは映画から見てみるのもアリだと思います。その後にテレビアニメ計25話分を見てみると、きっと「冴えカノ」の魅力にさらにハマると思われます。

それにしても近年のアニメーション作品は、「背景」の絵をリアルに描いているものが多く、「聖地巡礼」というのがブームになるのも分かる気がします。

本作でも妙にリアルで、不思議と「既視感」すら感じるものでした。

ただ、後半でようやく気付きましたが、主人公が住んでいる場所は、実は私がちょっと前まで住んでいた「学習院下」周辺そのもので、驚くほど日常の目線と全く同じ風景だったので「既視感」は当然だったのですね。

何年も毎日見ていた風景だったので「自動的・聖地巡礼」ができていたのですが、住人でさえ納得できるまで徹底的に風景も描けているわけです。

画像3

さて、肝心の興行収入ですが、本作「冴えない彼女(ヒロイン)の育てかた Fine(フィーネ)」と「空の青さを知る人よ」の2作品で改めて、アニメーション映画の展開の難しさを痛感します。

まず「空の青さを知る人よ」のほうは、実際に見てみれば「初めて出会う登場人物なのに、自然にすべてが理解できキャラクターに入り込めたり、相関関係などが分かる圧倒的な出来の良さ」だったので、「あらすじ」すら(見る人の楽しみを奪う)ネタバレになりかねないほどで、珍しく内容にはできるだけ触れないようにする自主規制が働き、レビューなどの紹介を書く難しさがありました。

そして興行的には、「空の青さを知る人よ」は他の多くの作品と同様に、すべての照準を「初速」に合わせるような展開だったのですが、「初速」で最重要な公開週末に「首都圏での史上最大級の台風直撃」に遭遇してしまいました。私の見込みでは、初速で「ブーム」さえ作れたら、あとは「作品力」で興行収入20億円程度は狙えたはずでしたが、自然災害だけはどうしようもないですね。

そういう意味では、本作「冴えない彼女(ヒロイン)の育てかた Fine(フィーネ)」のように公開規模121館という小規模でコツコツと展開していくのも現実的なのかもしれません。

とは言え、過去の「ワンピース」や「名探偵コナン」のように初速で大きな勢いがつく作品では、初速の際にスクリーンが足りないのが最大のネックになっていたので、そういう面を考えると本当に判断は難しいと思います。

本作「冴えない彼女(ヒロイン)の育てかた Fine(フィーネ)」では、少ないスクリーン数の展開ながら7週にわたって特典が付くようなので、作品の出来とテレビアニメからのファン層を考えると、割と底堅い動きが期待できそうです。

公開規模を考えると興行収入10億円までは厳しいのかもしれませんが、まずは5億円、そして8億円と、何とか底力を見せていってほしいところです。

果たして、大規模公開の「空の青さを知る人よ」と比べて、今週末10月26日(土)公開の「冴えない彼女(ヒロイン)の育てかた Fine(フィーネ)」がどういう動き方をしていくのか注目したいと思います。

見る際の注意点は、本作はエンドロール後もストーリーは続きますので、エンドロールが流れても席は立たないようにしましょう!

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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