コラム:細野真宏の試写室日記 - 第32回
2019年7月10日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
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第32回 「トイ・ストーリー4」。映画はキャッチコピーが大事だな、と改めて気付かされた誰もが知っている話題作
2019年6月19日(字幕版)、24日(吹替版)@ディズニー試写室
今年の映画市場は上半期からの絶好調(過去最高規模?)が続く中、今週末からは「夏休みアニメーション映画」の投入で、さらに盛り上がりをみせそうです。まずは今週の金曜日から公開される「トイ・ストーリー4」です。
そもそも「トイ・ストーリー」は1995年度に公開され、映画では初の“フルCGのアニメーション”でありながら“完成形”でもあり世界中に衝撃を与えた、文字通り「現在の世界のアニメーションのスタンダードを作った作品」なのです。そのため、もはや「トイ・ストーリー」という作品を知らない人はいないと思えるほどの、圧倒的な存在感があります。
2010年に公開された前作の「トイ・ストーリー3」では、映像は言うまでもなく脚本さえも最高峰の出来で、日本でも興行収入は「トイ・ストーリー2」の34.5億円から一気に3倍に増え、108億円という大ヒットを記録し、「完璧な終わり方」と呼ばれるまでの名作になりました。
そんな中での「新たな続編の登場」であったため、私も含め世の中はザワつきを見せました。前作はあくまで「3」であって「完結編」ではなかったのですが、「トイ・ストーリー3」以上の終わり方が考えにくかったからです。
「トイ・ストーリー4」は最初に全米で公開され、辛口で有名なRotten Tomatoesで批評家から98%(7月10日時点)という、前作と同様の驚異的な好評価を記録しています。私は、それなら全く心配ないと思い、最初に字幕版を見てみました。
ところが、「あれ、何か違う?」といった印象を持ち、すぐには前作のように大絶賛できない自分がいました。
「そもそも『トイ・ストーリー』は吹替版が日本では圧倒的にスタンダードだから、そこまで馴染めなかったのか?」など、いくつか理由を考えてみました。
そして、頭をリセットして吹替版で検証してみた結果、やはりお馴染みの唐沢寿明×所ジョージのコンビのほうがしっくりときました。単純に良く出来ていると思いますし、面白かったです。ただ、珍しく何かが違うという感覚だけは残りました。
そこで、さらに考察してみたところ、案外、近くに答えはありました。それは、この映画のキャッチコピー。「あなたはまだ─本当の『トイ・ストーリー』を知らない。」
確かに前作の「トイ・ストーリー3」は“完結編とさえ錯覚するほどのクオリティ”でした。
ただ、おもちゃも人間も、当然その後は続きます。
私の場合は「トイ・ストーリー3」の完成度の高さによって、「トイ・ストーリー」という作品の時間を止めていたため、作品を見る視野が狭くなっていたようなのです。
そう考えると、「トイ・ストーリー」は、本作こそが「本当の始まり」だと気付けるようになりました。
主役のウッディについても、あまりに有名でイメージが定着しすぎて時間が止まっていましたが、そもそも1995年度の「トイ・ストーリー」の段階から、バズ・ライトイヤーという(当時の)高性能なおもちゃに嫉妬もする「アンティークなカウボーイ人形」という設定でした。
本作では、その「時の流れ」をギャビー・ギャビーという初登場のキャラクターによって自然に感じさせてくれます。
「トイ・ストーリー」シリーズの面白さは、おもちゃに生命が宿っているという設定なので、前作の延長線上に“本当の「トイ・ストーリー」”があるように思えます。
新旧のキャラクターが入り混じる中、「リーダー的な存在で、おもちゃのあるべき姿をずっと模索し体現してきたウッディ」に起こる化学反応とは何なのか。
このように映画のキャッチコピーに合わせてシンプルに考えると、ようやく「前作の呪縛」から解き放たれて、素直に本来の「トイ・ストーリー」の世界を楽しめると思います!
フォーキーという本作での隠れた主役級の新キャラクターも、きっと子供を中心に人気が出るでしょうし、おもちゃの概念も変わってきます。
字幕版のほうは、キアヌ・リーヴスの“熱演”が見られるデューク・カブーンというカナダのスタントマンの人形のシーンが大きな見どころでした。
そして多くの日本人に馴染みのある吹替版は、やはり主題歌も含めて圧倒的な安心感がありました。
さて、肝心の興行収入ですが、遂にポケモンまで初の“フルCGのアニメーション”となった「ミュウツーの逆襲 EVOLUTION」も同日公開ですし、翌週の19日には「天気の子」という台風の目もありますし、翌々週の26日には「ペット2」が公開されたりと、やはり今年の夏休み映画はアニメーション映画が成否を握ることになりそうです。
「トイ・ストーリー4」は、初速は圧倒的なブランド力と、前作の完成度の効果でかなり期待できると思います。最終的な興行収入は、個人的には「天気の子」の完成度次第だと思いますが、いずれにしても何とか80億円規模には行ってほしいところです。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono