コラム:細野真宏の試写室日記 - 第299回
2025年12月18日更新

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第299回 福田雄一監督作「新解釈・幕末伝」は、どのくらいヒットするのか?

(C)2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会
今週末12月19日(金)から福田雄一監督作「新解釈・幕末伝」が公開されます。
福田雄一監督作は、賛否が分かれる傾向にありますが、私は映画監督第1作「大洗にも星はふるなり」(2009)から好意的な立場にいることが多いです。
例えば他の監督作品を見る際にコメディ要素がある場合、「う〜ん、何か中途半端かなぁ。もっと福田雄一監督作品のように思い切りが大事では?」と、自然とコメディ映画を評価する際の基準の1つにもしています。
そのくらいの圧倒的な独自性が福田雄一監督作品にはあります。

(C)2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会
ただ、その一方で、その独自性にハマれないと、拒絶反応が出てしまうのも仕方ないのかもしれません。
とは言え、「今日から俺は!!劇場版」(2020)の興行収入53.7億円、「新解釈・三國志」(2020)の40.3億円、「銀魂」(2017)の38.4億円、「銀魂2 掟は破るためにこそある」(2018)の37億円という大ヒットの実績があるのも事実です。
ところが、“大ヒット作品連発の2020年”の後の「ブラックナイトパレード」(2022)、「聖☆おにいさん THE MOVIE ホーリーメンVS悪魔軍団」(2024)と興行収入7億円台が続きました。
ただ、これについては、福田雄一監督作を好意的に見ている私でもハマれなかったので、やや完成度に課題があったのだろうと理解しています。

(C)2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会
そんな中、アクションとコメディどちらの要素も出来が良かった「アンダーニンジャ」(2025)が公開されたのですが、制作費的に“何とか続編を作れるライン”の興行収入15億円を超えた程度で終わってしまい、伸び悩みの状況に陥っているのです。
個人的には、「アンダーニンジャ」は「聖☆おにいさん THE MOVIE ホーリーメンVS悪魔軍団」の直後での公開だったため、「アンダーニンジャ」が前作の風評被害を受けた形になったと考えていますが、今後の福田雄一監督作の興行収入の行方はどうなっていくのか大いに関心があります。
そこで、今回の「新解釈・幕末伝」について考察してみます。
まず、プラス要素としては、シリーズ前作の「新解釈・三國志」が興行収入40.3億円になっている点でしょう。

(C)2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会
ただ、これは、戦略的な結果の興行収入であったという面も踏まえる必要があるのかもしれません。
実は、2020年公開の「今日から俺は!!劇場版」と「新解釈・三國志」は、作品の完成時期は「新解釈・三國志」の方が早かったのです。
当時は連ドラの「今日から俺は‼︎」の人気が高かったので、先に夏休み映画として「今日から俺は!!劇場版」をリリースして、その際に予告編などで「福田雄一監督作品!」というのを大きく打ち出してブランド化することに成功。その流れで冬休み映画として「新解釈・三國志」を公開していたのです。
この戦略が功を奏して40.3億円という大ヒットを記録したわけです。
そのため、シリーズ作となる本作も同様に興行収入40億円に行けるのかというと、そうはならないのかもしれないのです。

(C)2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会
次に、マイナス要因になり得るのが、本作の「独特な勝負シーン」。
それは、出演者も驚く、「薩長同盟」のシーンの長さです。
脚本を書いた福田雄一監督は、本作では歴史上「薩長同盟」が最も重要だと判断して脚本の38ページ分を費やしたのです。
その結果、「薩長同盟が決まるシーン」は、和室でムロツヨシと佐藤二朗と山田孝之の3人だけが登場する長回しのシーンで、全体119分のうち30分以上にも及んでいます。
この“英断”がどのように響くのかは読み切れない面もあるのですが、静かなシーンもあるので、割と寝落ちポイントになる箇所なのかもしれません。

(C)2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会
そのため、このシーンになった際には、やや集中力が大事になる点は注意が必要です。
個人的には、最初の市村正親が扮する歴史学者のシーンや、ペリー船の来航、京都でのコンセプト茶屋まではテンポも良く、「これは当たりの作品か?」と期待感が高まりましたが、次の「薩長同盟」から失速感が見えてきました。
とは言え、「新解釈・三國志」もそこまで出来が良かったか?と問われると、似たり寄ったりな印象もあるので、「新解釈・三國志」を劇場で見た層がどれだけ見に来てくれるのかが最も重要な点なのかもしれません。

(C)2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会
では、本作の興行収入はどのようになるのでしょうか?
「新解釈・三國志」以降の福田雄一監督作の状況を見ると、まずは興行収入15億円が目処になりそうな予感がします。
歴史エンターテインメントというジャンルには一定の引きがあるため、おそらく「ブラックナイトパレード」や「聖☆おにいさん THE MOVIE ホーリーメンVS悪魔軍団」のようにはならないと思います。

(C)2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会
制作費は時代劇なので通常は割高になりますが、「薩長同盟」のシーンのように簡素なシーンも散見されるので、通常の時代劇映画の7割程度の4億円あたりでしょうか。
宣伝費などのP&A費を2.5億円とすると、劇場公開だけでリクープするには興行収入16.5億円が必要となり、やはりこの辺りが現状のビジネスモデルが成り立つ水準のようです。
果たして、冬休み映画のアドバンテージと「新解釈」ブランドで予想を超える動きが起こるのか、注目したいと思います。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
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Twitter:@masahi_hosono









