コラム:細野真宏の試写室日記 - 第150回
2021年12月1日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第150回 「ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ」は前作のように大ヒットするのか?
今月、来月と、いよいよ洋画が盛り上がっていきそうな雰囲気があります。
まずは今週末12月3日(金)公開の「ヴェノム」シリーズ第2弾の「ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ」。
この「ヴェノム」シリーズは、少し変わった背景のある作品となっています。
第1弾の「ヴェノム」は、今から約4年前の2018年11月2日に公開されました。この時は日本では、ほぼ知られていないキャラクターの作品で“スパイダーマンの敵”というくらいのフックの少ない情報でした。しかもホラー風な容貌だったので、私は「ヒットしてもせいぜい興行収入10億円くらいでは」と思っていました。
ところが、配給元のソニーが宣伝に意外と力を入れていたことも功を奏してか、初速の段階から勢いがありました。しかも「ヴェノム」は“見た目より愛嬌のあるキャラクター”というギャップも加わり口コミが加速して、興行収入22.5億円という結果になったのでした。
これはかなり興味深いヒットとなっています。例えば「マーベル・シネマティック・ユニバース」(MCU)関連で2017年に公開されたベネディクト・カンバーバッチ主演の「ドクター・ストレンジ」は日本でヒットしました。
一方、「ヴェノム」という、ほぼ知られていなかった“スパイダーマンの敵”の映画は、MCUのメインキャラクターである「ドクター・ストレンジ」の興行収入18.7億円を超える規模の大ヒットをしたわけです!
このように本作は、日本で「人気キャラクター」となった作品の続編と言えるのでヒットが狙いやすくなっているのです。
とは言え、やはりこの「ヴェノム」は謎が多い印象です。
例えば、第1弾の「ヴェノム」では、“マーベル作品の常識”となっている「関連映像」をエンドロール中に入れ込んでいます。
ただ、その「予告映像」の長さと、「予告作品」が異色だったのです。
少し第1弾の構造を確認すると、実は「ヴェノム」のエンドロールを抜いた本編は92分くらいで、その後エンドロールに突入します。
このように「ヴェノム」の本編は意外と短めで、「予備知識がなくても楽しくサラッと見られる」というのが人気の一つにあったと思われます。
そして、エンドロールが2分間ほど流れたところで、第2弾の予告が始まります。
トム・ハーディ扮する主人公エディが、連続殺人犯として投獄されているウディ・ハレルソン演じるクレタスを取材で訪れ、クレタスが最後に「いいか、ここを出たら――大殺戮(カーネイジ)になるぞ」と告げます。
このシーンは約2分間なので普通でしょうか。
この後に再びエンドロールが流れるのですが、エンドロールの終盤辺りで、突然“別の世界では…”として「スパイダーマン スパイダーバース」という「スパイダーマン」のアニメーション映画の映像が3分半程度も流れたのでした。
そして、ようやく終盤のエンドロールも全て流れきります。
このように、「ヴェノム」では、変則的な形でスパイダーマンも登場していました。
ただ、この「スパイダーマン スパイダーバース」は、その後にアカデミー賞の長編アニメーション部門で受賞するくらいに斬新なアニメーション映画だったのですが、そこで描かれた“マルチバース”(多元宇宙論)に近い雰囲気の世界が、1月7日公開の「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」(の現時点の予告編)では描かれている印象です。
以上のように、この「ヴェノム」という作品は、想像以上に今後のMCU作品のヒントが詰まっている面があると思います。
さて、第2弾の「ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ」の完成度ですが、これは前作に負けていません。
というより、前作ではイチからのスタートだったので、さらに内容が深まる本作の方が面白いと思います。
ただ、個人的に現時点で不思議なのは、「ヴェノム」という魅力的なキャラクターが、なぜ“スパイダーマンの敵”となるのか理解できません。
どのような背景があるのかは、約1カ月後に公開の「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」で知ることができるのかもしれませんが。(「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」はまだ見ていない状態です)
「アベンジャーズ エンドゲーム」以降、意外とMCU作品は展開が停滞気味ですが、今週末の「ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ」と1カ月後の「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」の2作品で一気に世界が動いていく予感もします。
そのため、このような相乗効果を期待できる面はプラスでしょう。
一方で、新型コロナの影響で前作からの期間が4年程度空いてしまったので、前作のファンがどれだけ劇場に駆けつけるのかという不確定要素がまだあります。
まずは、相乗効果を期待して、「ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ」には興行収入15億円以上を目指してほしいところ。このハリウッド超大作の2作品連続公開という仕組みが日本の映画市場にどのくらいの影響を与えるのか注目です!
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono