コラム:細野真宏の試写室日記 - 第130回
2021年6月30日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第130回 「ゴジラvsコング」。そろそろハリウッド映画の復活となるか?
このところの映画市場の動きを見ていて、如実に感じるのは「それぞれの作品の動きが少し鈍くなっている?」ということです。
緊急事態宣言も明けて、ようやく映画館も全国的に動けるようになったのに、少しだけ客足の鈍さのようなものを感じるのです。
具体的には、本来は20億円を狙えるはずのポテンシャルを持つ作品が、なぜか15億円くらいになりそうな縮小のイメージです。
(これの解消のカギは、ロングランの実現くらいしかないのが現状です)
これは、おそらく以下の2点が関係していると思われます。
1点目は、緊急事態宣言がほぼ解除されても、「まん延防止等重点措置」により、「レイトショーができなくなっていること」。
これによって仕事終わりの人たちを中心に観客を逃しています。
2点目は、本来は望ましい話である、「出来の良い作品が多く公開されていること」です。
「出来の良い作品が多く公開されていること」は、映画業界の活性化にとって良い話のはずですが、これも新型コロナウイルスの影響で、「多すぎる」という水準にまでなっているのです。
例えば、先週末の動員ランキングベスト5の作品は、1位「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」、2位「るろうに剣心 最終章 The Beginning」、3位「キャラクター」、4位「シン・エヴァンゲリオン劇場版」、5位「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」ですが、どれも“必見レベルの作品”となっています。
しかも、動員ランキングベスト10にもまだ“必見レベルの作品”はありますし、ランク外にもある状態なのです。
そのため、紹介する側も、「多すぎて紹介しきれない!」といったような異常事態が起こっているのです。
そうなると、多様な情報が溢れすぎて、実際に見た人の「口コミ」も散漫になってしまい、ブームができずに潜在的な観客を取り込みにくくなっているわけです。
6月は緊急事態宣言解除の影響で現状の「過当競争」を生み出していますが、幸い今週末7月2日(金)公開では300館以上の大型作品は「ゴジラvsコング」の1本だけになっています。
まず「ゴジラvsコング」も緊急事態宣言の影響によって「公開延期」をしています。
そのため、結果的にアメリカなどより3カ月ほど公開が遅くなりました。
とは言え、元々ハリウッド映画が日本に来るのは半年後とかでも普通なので、その意味での影響は小さいのかもしれません。
ただ、3回目の緊急事態宣言発令前の日本では5月14日が公開日と決まっていて、そこに向けての宣伝をテレビCMなどで投下していたので、その際の宣伝費は無駄になってしまう面がありました。
このように、「公開延期」にも種類があって、興行成績への影響も異なります。特に「公開直前での延期」だとダメージが大きくなるものなのです。
さて、本作は、ワーナー・ブラザースとレジェンダリー・ピクチャーズが(東宝と協力し)共同で手掛けるゴジラやキングコングなどの一連の怪獣映画を中心とした“モンスターバース”シリーズの第4作目です。
第1作目は2014年公開の「GODZILLA ゴジラ」で、日本のゴジラが世界に打って出ることになりました。日本の興行収入は32億円、世界興行収入は5億2907万ドルとなっています。
第2作目は2017年公開の「キングコング 髑髏島の巨神」で、キングコングが未知の島・髑髏島で発見され、圧倒的な強さを見せつけてます。日本の興行収入は20億円、世界興行収入は5億6665万ドルとなっています。
第3作目は2019年公開の「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」。タイトルのように、ゴジラがキングギドラなどに打ち勝ってモンスターたちのキング(王)になったのでした。日本の興行収入は28.4億円、世界興行収入は3億8660万ドルとなっています。
そして、第4作目となる本作「ゴジラvsコング」では、タイトル通り、“破壊神”のゴジラと“守護神”のキングコングが遂に対決するのです!
この“地球最大の究極対決”は、CGのクオリティーが高いため、かなりの迫力があり「最大の見どころ」と言えるでしょう。
ただ、ストーリーについては、“地球空洞”などが出てきたりと、やや難しいのかもしれません。
いや、「難しい」というより、「必然性がどこまであるのかが見えにくい」という感じでしょうか。
要は、「キチンと考えられた舞台の下、全ての論理を追えるようになっているのか」、あるいは「必然性の乏しい偶然が重なるような構成になっているのか」がすぐには読み取りにくい感じでした。
具体的には、最初に字幕版を見た際には判断しにくく、吹替版の方で、ようやくストーリー展開を、どのように理解したら良いのかが分かりました。
そのため、私は本作については、丁寧な吹替版の方を推したいです。
そもそも本シリーズは、第3作目の「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」が象徴的ですが、1人のマッドサイエンティストの暴走さえ認めてしまえば(認めるまで頭の中で葛藤があるのは理解します)、純粋に日本のゴジラシリーズへのリスペクトを感じられる怪獣バトル映画だとして楽しめました。本作でも、細かいところは目をつぶった方が楽しめると思われます。
ちなみに、日本版主題歌はMAN WITH A MISSIONの「INTO THE DEEP」で、これが日本の予告編では使われていますが、この楽曲はかなり本作にピッタリで、むしろ「これを世界バージョンで使って!」とさえ思えました。
ただ、現実は厳しく、この「INTO THE DEEP」は、吹替版の最後にだけ「日本の吹替版のスタッフ紹介」の際に流れて、最後に再度作品を引き締めてくれます。
その点からも、吹替版を推したいです。
もちろん字幕版も良くて、アカデミー賞で作品賞を含む5部門にノミネートされた名作「フロスト×ニクソン」や「それでも恋するバルセロナ」などで魅力的なヒロインだったレベッカ・ホールが本作でも実質的なヒロイン。キャスティングは、小栗旬も含めて良かったです。
さて、肝心の興行収入について。
新型コロナウイルスの影響でハリウッド大作映画の供給が再開したばかりだからでしょうか。2020年以降の日本では、興行収入27.3億円という異例なヒットを記録した「TENET テネット」以外、ハリウッド大作が興行収入20億円を超えられていません。
そこで、日本で実績も十分な本シリーズに期待がかかります。
第1作目と第3作目で、日本のゴジラが関係している時は、興行収入は安定的に30億円規模を叩き出しています。
そのため、本作も通常であれば、興行収入30億円規模は狙えるはずなのです。
しかも、本作は、海外での一般層のウケが非常に良いので、日本での興行にも期待がかかっています。
ちなみに、これまでの“モンスターバース”シリーズでは、ラストに「次回への導入」のようなものがありました。
しかし、本作は最後の作品だったので、これまでのような導入がないのです。
ところが、本作は世界中で公開され、すでに大ヒットを記録したので、異例のスピードで第5作目の製作が検討されているのです!
結果的にゴジラを生みだした日本が“大トリ”での公開となる「ゴジラvsコング」。
果たして、日本では、(本来はラストだった)本作がどのような成績となり、次の“第5作目実現”への後押しとなるのか注目が集まります。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
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Twitter:@masahi_hosono