コラム:細野真宏の試写室日記 - 第13回
2018年10月31日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
第13回 「華氏119」。いつ世界は、この悪夢のような面白すぎる状態から目を覚ますのか?
2018年10月25日@GAGA試写室
マイケル・ムーア監督作品といえば、アカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した「ボウリング・フォー・コロンバイン」でアメリカの銃社会に警告を発し、カンヌ国際映画祭でパルムドール賞を受賞した「華氏911」でアメリカ同時多発テロ事件(9.11)へのジョージ・W・ブッシュ大統領の対応を批判し、そして(本作にも登場する)「シッコ」でアメリカの医療体制の問題をテーマにしてきたりと、特にこの初期の3作品の出来は良かったと、私は思います。
ただ、「シッコ」以降の作品は、どうも論理展開のバランスの悪さが目立って見え、正直、関心を失いかけていました。
そんな中、今やアメリカでは、かつてムーア監督が「華氏911」で痛烈に批判したブッシュなど、どうでもいいとさえ思えるような、あの「ツイッター大統領」の登場です。
そこで、今年の11月6日のアメリカの中間選挙に向けて、マイケル・ムーアが仕掛けたのが、本作です。
「シッコ」から11年目で、ようやく本質を抉るマイケル・ムーア作品が復活しました!
ちなみに、「華氏119」の119は、2年前の11月9日にアメリカで新大統領が誕生した日を示しています。
アメリカは「自由の国」の象徴的な存在でしたが、まさか「自由すぎる大統領」が生まれてしまうとは。私には皮肉を通り越して笑いしか起こらないような状況です。
今のアメリカの状態は、「映画の世界以上に面白い」と思っています。
まさに「インクレディブル・ファミリー」のブラッド・バード監督と対談をした際にも、私が「今後の作品は?」と質問をしたら、「構想では、かなり笑えるものになっている政治コメディが一個あった。でも今、アメリカ大統領を含めて、政治がフィクションより非常に誇張されている荒唐無稽なものになっていて、現実と比べると面白くないな、と思って諦めた」という答えが返ってきました。
このような映画監督泣かせの状況が続いていますが、まずは、「アポなし取材」で有名なマイケル・ムーア監督が「現アメリカ大統領」がなぜ生まれたのか、に迫りました。しかも、珍しく直球で「アポなし取材」も封印しています。
そもそもトランプがなぜアメリカ大統領選に突如として出馬しようかとしたのか、は非常に衝撃的で面白いです。
さらに、前大統領オバマの意外な振る舞いにも驚きがありました。
その舞台となっているミシガン州のフリント市は、こんな場所が本当にあるの?と疑ってしまうほど、アメリカでは信じられないほどの状況になっていると映像で見せつけられました。
来る11.6の中間選挙の結果によっては、トランプ大統領の弾劾裁判もあるでしょう。
ただ、「フェイクニュース!」と「you are fired!(お前はクビだ!)」でやり過ごしてしまいそうなくらいアメリカは病んでいるように思えます。
これから何年かすれば、このドナルド・トランプという人物が題材となる映画は無数に作られるようになると思います。
とは言え、それがいつになるのかは、本当に読めません。
「インターネット社会で情報は拡散し、正しい情報が共有されるようになる」という論があります。
これは、戦時中の「大本営発表」などと言われていた時期と比べれば、大まかには正論でしょう。
ところが実際には、人は「自分に都合の良い情報」にしか興味が向かない傾向があるため、「正しい情報」でも、そんなに簡単には「常識」にならないのです。
例えば、今から10年以上前までは全メディアが「年金」について「未納者が増えれば年金制度は破綻する」と言い続けていました。
それが、単なる「誤解」だと、一般の国会議員でもわかるようになってきたのは、おそらくわずか6年ほど前の以下の2012年2月27日(月)の衆議院の予算委員会からだと思います。
(以下の国会中継のHPで、9時45分から20分解説し、その後に12時までの午前の部で各党の議員からの質問に答えています)
この映画「華氏119」には、気付きを与える力があると思います。
とは言え、80館という小規模での上映なので、どこまで一般の人たちの興味が向くかは読めませんが、事件は「歴史」ではなく、「今」起こっているんだ!ということに気付いてほしいですね。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono