コラム:細野真宏の試写室日記 - 第125回

2021年5月27日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)


試写室日記 第125回 「クルエラ」。アニメ「101匹わんちゃん」から、新たなディズニー実写映画の名作が誕生!

「クルエラ」
「クルエラ」

ディズニー映画としては、これまでもアニメーション映画「眠れる森の美女」のヴィラン(悪役)である“悪い魔女”のマレフィセントを主役にした実写映画「マレフィセント」が作られ、日本で大ヒットしたりしています。

ただ、正直なところ2014年の実写映画「マレフィセント」が、なぜ日本でも大ヒットをしたのかは未だに疑問ではあります。

それもあってか、ディズニーアニメーション映画「101匹わんちゃん」(1961年)のヴィラン(悪役)であるクルエラの実写映画には、企画段階では「正直あまり期待できないかも」と思っていました。

ところが、いざ公開が近付いてきて予告映像が流れ始めると、「うわっ、これは面白そう!」と期待値が一気に跳ね上がりました。

そして実際に「クルエラ」の試写を見てみると、「期待通り、いや、期待以上の完成度」でした!

「クルエラ」
「クルエラ」

ただ、1つ残念な点がありました。

まず、本作は、ようやくディズニー映画で本来の「通常の劇場公開作品」に決まっていたのです。

ところが、アメリカの新型コロナウイルスの影響によって、突如、アメリカ本社が今年の3月23日(現地時間)に本作を含めた大幅な方針転換をしてしまいました…。

それを受け、日本では、5月27日(木)から劇場公開し、5月28日(金)からディズニー公式動画配信サービス「Disney+」で有料配信という、「劇場と配信の同時公開」の形になってしまったのです。

こうなってしまうと、試写室日記 第115回【「ラーヤと龍の王国」。ディズニーと映画館の関係が激変!一体何が起こっているのか?】で解説したように、全興連の方針と異なってしまいます。

そのため、東宝系のTOHOシネマズ、松竹系のMOVIX、東映系のティ・ジョイ、東急系列の大手シネコン109シネマズといった大手のシネコンを中心に映画館で見られないという残念な状況が生まれてしまうのです。

新型コロナウイルスの影響で緊急事態宣言などが出て、ただでさえ劇場公開が厳しさを増している状況において、劇場公開規模が減ってしまうのは、本当に残念な状況と言えます。

とは言え、アメリカの新型コロナウイルスの影響はワクチン接種の進行と共に変化が出ているので、このような状況は「もうしばらくの我慢」で済みそうな希望はあります。

「クルエラ」
「クルエラ」

さて、本作「クルエラ」を見て、改めて思ったのは、やはり「ディズニー作品のクオリティーの高さ」です。

終始クオリティーが高く、久しぶりに洋画で圧倒されました。

見どころの一つは、エマ・ストーン(「ラ・ラ・ランド」でアカデミー賞主演女優賞受賞)とエマ・トンプソン(「ハワーズ・エンド」でアカデミー賞主演女優賞受賞)という「Wエマのアカデミー賞女優の熾烈な共演」でしょう。

特に主演のエマ・ストーンの“はじけっぷり”は凄いものがあります。

間違いなく本作は「エマ・ストーンの新たな代表作」となるでしょう。

「クルエラ」
「クルエラ」

1970年代のロンドンを舞台(幼少期は1960年代)とし、作風としては、ファッション業界が舞台となるため、名作「プラダを着た悪魔」と似た雰囲気もあります。

また、監督は2018年のアカデミー賞でも話題となった「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」のクレイグ・ギレスピーで、この起用が功を奏したと思います。

冒頭のディズニーのマークから「白・黒・赤」という独特な色使いがなされていたりと、とにかくスタイリッシュな映像に加えて、かなり楽曲のセンスも良く、作品のクオリティーを高めることに成功しています。

「ジョーカー」
「ジョーカー」

あえて例えると、「バットマン」シリーズにおけるヴィラン(悪役)である“ジョーカー”がなぜ生まれたのかを描いた名作「ジョーカー」。

ジョーカー」は、まさかの「アカデミー賞最多11部門ノミネート」まで果たしましたが、感覚的には、あの快挙にも匹敵するような出来栄えです。

もちろん、「ジョーカー」のようなシリアス過ぎる作品ではなく、あくまで本作はファミリー映画ですが(笑)。

「クルエラ」
「クルエラ」

私は、まず「吹替版」から見ましたが、主演のエマ・ストーン柴咲コウが吹替えをしていました。

正直、最初は違和感がありました。

ただ、これには理由あって、最初はエステラ(クルエラの本当の名前)の幼少期が描かれているからなのです。

そのため、しっくりこない面があったのですが、その幼少期がすぐに終わりエマ・ストーンが登場してからは、全く違和感がなくなりました。

というのも、元々エマ・ストーン柴咲コウは雰囲気がかなり似ていると私は思っていて、「エマ・ストーン=柴咲コウ」のように見事に同化しているのです。

私は、心地よく最後まで見られたので、この起用は正解だと思います。

そして、「字幕版」ですが、こちらも良かったです。

ただ、本作は特にエマ・ストーンの目の動きなど、演技が細部にわたって凄いので、字幕を追っていると、その名演技を見続けることができないのが残念な点としてあります。

一方、字幕ならではの良さもあり、例えば、突然出てくる「クルエラ」という呼び名には「悪い子」という訳がキチンと出ているので、「字幕ならではの分かりやすさ」もあります。

洋画ファンでエマ・ストーンの声を聴きなれている人は、やはり字幕版がいいのかもしれません。

余談ですが、私はエマ・ストーンの代表作「ラ・ラ・ランド」だけは吹替版は無理(受け付けないレベル)だと思っていました。

ところが、ふと仕事の合間に流してみると、吹替版も全く違和感を持たなかった(というより、むしろ心地よかった)経験があり、今の吹替版のレベルは侮れないと思っています。

「クルエラ」
「クルエラ」

さて、本作は本来の作品のポテンシャルで言うと、平時であれば興行収入30~40億円規模は十分に狙えたと思います。

プラダを着た悪魔」は、あれだけ出来が良かったのに興行収入17億円でしたが、こちらは完全に大人向けなので仕方のない面もありました。

一方、「クルエラ」の場合は、ディズニーブランドがあり、子供も見ることができたり対象年齢がオール世代のため、客層は広い分、興行収入が大きくなる余地があるのです。

また、アニメーション映画「眠れる森の美女」のヴィラン主役の実写映画「マレフィセント」は2014年に公開され、興行収入は65.4億円を記録しています。

「マレフィセント」
「マレフィセント」

これを基準にすると、本作は興行収入60~70億円規模でも不思議がない面もあるのです。

ただ、現実では、今回は「劇場と配信の同時公開」という形になっているため、興行収入という尺度ではそれほどの規模を狙えない面があり、非常に残念です。

少なくとも本作については、スタイリッシュな映像、楽曲、そしてエマ・ストーンの名演技などを堪能するため、映画館で見ることが望ましい作品だと断言できます。

もし映画館で見られる環境にある方は、非常にラッキーだと思います。

「クルエラ」
「クルエラ」

ちなみに、アニメーション映画「101匹わんちゃん」を知っていると、本作では、クルエラの相棒である「ジャスパー」と「ホーレス」、そして、「101匹わんちゃん」の主役の「ロジャー」「アニータ」などもキチンと出ていることが分かります。

つまり、先ほどの「ジョーカー」は大ヒットし続編が噂されていますが、「クルエラ」も大ヒットすれば続編はあるのかもしれません。

見る前は、上映時間が134分となっていて、長いのかな、と思っていましたが、体感的には、あっという間に終わって、「まだまだこのまま見ていたい」という状態でした。

もし続編ができたら、今度こそは世界中の映画館で見られるようになると本当にうれしいですね。

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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