コラム:映画食べ歩き日記 - 第3回
2020年1月22日更新
第3回:代々木「cafe & DINE in nope」壁一面を埋め尽くす圧巻ディスプレイ&こだわりの“シャイニングトイレ”
映画とおいしいごはんに目がない映画.com編集部員が、映画をコンセプトにした飲食店や、映画のロケ地となった場所をめぐるコラム「映画食べ歩き日記」。第3回目は東京・代々木にある「cafe & DINE in nope」に足を運んだ。(映画.com編集部/飛松優歩)
代々木駅の北口から徒歩2分、新宿駅の東南口から徒歩8分という、映画の街・新宿に近い場所にたたずむ「cafe & DINE in nope」。店内に一歩足を踏み入れると、壁という壁にはりつけられたおもちゃの山、山、山! スター・ウォーズ、マーベル、DC、ゴーストバスターズなどの映画グッズから、シリアルのパッケージやおまけまで、1980~90年代初頭のアイテムが中心となっている。アメリカで放映されていたというシリアルのCMがモニターで流れるなか、お宝が所狭しと並ぶ圧巻の光景に、しばし言葉を失う。オーナーのMoyaさんとKenさんが「おもちゃが並べてあるお店ではなく、店ごとおもちゃにしたかった」と語る通り、並々ならぬ情熱が伝わってくる。
趣味でおもちゃを買い集めていたKenさんが、自宅に眠るコレクションを見た友人から「おもちゃの美術館か博物館をやった方がいいよ」とアドバイスを受け、カフェバーという形でオープン。当初はおもちゃ屋さんも検討していたそうだが、「販売用におもちゃを仕入れても、欲しくて自分のものにしてしまいそうで(笑)。おもちゃ屋は向いてないですね」とほほ笑む。店舗に飾ってあるものはコレクションの半分以下だそうで、「同じように、あと2、3店舗は作ることができますね」と胸を張る。一方のMoyaさんは「スター・トレック」が大好きで、大ファンだったMr.スポック役のレナード・ニモイさんの死が、人生のターニングポイントになったという。「いつかニモイに会いたかったので、亡くなった時はショック過ぎて、2週間くらい寝込んだんですよ。そこから見たいもの、会いたい人、欲しいもの、やりたいことを全部やらなきゃ時間がないと思って」。カフェバーのアイデアを思いついてから、わずか3カ月で開店にこぎ着けたという驚異のスピード感もうなずける。
インディ・ジョーンズ、バイクにまたがったスパイダーマン、「チャイルド・プレイ」の箱入りチャッキー人形……壁に飾られたおもちゃは、挙げ始めるとキリがない。ちょうどクリスマスシーズンだった取材日には、スター・ウォーズのキャラクター・オーナメントが飾りつけられたクリスマスツリーもあった。実際に手にとったり、写真を撮ったりするのもOK。「古いおもちゃは良い意味で狂ったギミックが多いから、触ってもらいたいんですよね」(Moyaさん)、「『Don’t Touch』が1番冷めるので、『ご自由にご覧ください、いじってもらって構いません』という感じ。皆さん遊んで帰りますよ」(Kenさん)とのこと。専門業者に発注してゼロから作った世界にひとつの宇宙人ポール人形(原寸大)や、店頭プロモーション用のグッズだったと推測できる、スティーブン・スピルバーグ監督のサインが入ったE.T.など、目を凝らせば貴重なお宝の数々が潜んでいる。
おもちゃの並べ方にもこだわりがあるというKenさん。「なるべく現行品は置かないようにしています。ジャンル、色味、サイズ、パッケージに入っているものと出ているもの、全てのバランスを考えながら飾っています」。さらに、分かる人には分かる小ネタも仕掛けられている。
「マニアックなところだと、ピーウィー・ハーマンの人形の左上に、(米カリフォルニア・アナハイムのディズニーランド・リゾートにある人気アトラクション)『スター・ツアーズ』のドロイドと、『バットマン』の悪役ペンギン(オズワルド・チェスターフィールド・コブルポット)が飾られていますよね。これは全て、ポール・ルーベンスつながり。彼がピーウィー・ハーマン役でブレイクし、『スター・ツアーズ』でナビゲーターの声を務め、ドラマ『GOTHAM/ゴッサム』でペンギンの父を演じていることにちなんでいます」
さらに、Moyaさんが「1番キュンと来る」というレイアウトは、ジャック・ニコルソン扮するジョーカーのメイクアップキットと、「ポパイ」のオリーブのフィギュアの2ショット。「ロビン・ウィリアムズがポパイを演じた実写版『ポパイ』で、オリーブを演じたのがシェリー・デュバル。ニコルソンとデュバル、『シャイニング』で夫婦役を演じたふたりを静かに並べているという小細工ですね(笑)。果たしてお客さんはいくつ見つけられるか……映画検定ができるかもしれませんね」(Kenさん)。遊び心たっぷりに配置されたおもちゃを眺めながら小ネタを探したり、友人とクイズを出し合ったりするのも楽しそうだ。
そんな“シャイニング愛”は、店内のトイレにも及ぶ。当初Moyaさんは237号室の緑色のバスルームを再現したいと考えていたが、緑のトイレと洗面台がなかなか見つからなかった。そこで「レディ・プレイヤー1」のVR世界をヒントに、入る前は237号室、中に入ったらラストシーンのジャックの部屋という形でユニークな世界観を作り上げていった。扉のデザインやドアノブは表裏それぞれ異なる仕様で、劇中のものと近いクラシックなスタイルのトイレと洗面台を海外から仕入れ、ウェンディが逃げる窓や、一瞬しか映らないシャワーカーテンも再現。内装業者も映画を見返しながらMoyaさんの徹底的なこだわりを形にしていったそうで、「チーム・シャイニング」のような体制でトイレの造作が進められた。アイテムだけではなく、施工や塗装などもオーバールック・ホテルが建てられた年代に合わせるという念の入れようだ。
おなじみのじゅうたんが敷かれたトイレに向かう廊下は、血をイメージした赤いネオンで照らされている。「レディ・プレイヤー1」から抽出し、鋳造したという237のプレートが怪しい光を放つ扉のノブには、海外から取り寄せたプロップサイズの鍵が差し込まれている。扉を開けると「シャイニング」の音楽が流れるようになっており、トイレに腰掛ける形で振り返ると、実際に斧で破壊した(!)というすき間からジャックの狂気じみた顔がのぞき、隅には包丁を片手に怯えるウェンディの姿も。背後に広がるタイルも、劇中のウェンディの身長から割り出し同じサイズで作るなど、極限までこだわり抜いている。(次ページに続く)
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