コラム:若林ゆり 舞台.com - 第100回
2021年8月17日更新
歌への情熱をますます燃やす海宝は、シンガーとしても活躍中。20年12月にミュージカルナンバーを集めてリリースした「Break a Leg!」はこの7月から配信でも聞けるようになったし、8月18日には彼がボーカルを務めるロックバンド「シアノタイプ」のミニアルバム「PORTRAITS」(http://yoshimoto-me.co.jp/sp/artist/cyanotype/)もリリース。この10月に、「シアノタイプ」のコンサート(10月9日 千葉・行徳文化ホールI&I)(https://www.tekona.net/gyotoku/event_detail.php?id=1395)と、春の開催から延期となっていた「海宝直人 CONCERT 2021 『Break a Leg!』with オーケストラ・アンサンブル金沢」の東京公演(10月29日 東京・Bunkamuraオーチャードホール)の両方を開催する予定だ。
「全然違う表現ができるので、ミュージカルとバンドが僕にとっては両輪になっているんです。『シアノタイプ』はロックポップのような感じで自分たちの思いでやっているので、作曲も作詞も歌う表現も臆することなくやれて、とても楽しいです。新しい挑戦をしているので、自分たちにとっても新しい可能性を感じることができたアルバム製作でした」
また、現在公開中(東京・ヒューマントラストシネマ有楽町ほか)のドキュメンタリー映画「a hope of NAGASAKI 優しい人たち」では、主題歌(「坂道」)に挑戦。すべてを浄化するような歌声で、映画の印象を深くする。
「この映画でお話しをされている、長崎での被爆体験のある方々の笑顔がとても印象的で。誰ひとり恨み言を言わず、本当に清々しい顔をしていらっしゃる。それにすごく胸を打たれまして。たとえ敵国の人でも人間同士で話をし、音楽を通してわかり合えるんだという感覚は、現代人にも大事だと思います。被爆者のみなさんが持つ“平和への祈り”みたいなものを乗せて、感じてもらえたらいいなと。みなさんの笑顔や言葉を思いながら歌いました」
さわやかで誠実。そんなイメージは少しも崩れそうにないが、ちょっと意外なのは、彼にはかなりオタクな部分があるということ。
「ずーっと家にいてNetflixでマーベル映画とかを見ているのが好きですし。基本、全然オタクですよ、生活が(笑)。ミュージカルにしてもそうですけど、自分の好きなことしかしないので、仕事がなかったらジムに通うとか体調を維持するみたいな面倒なことは絶対にしないだろうなと思います。仕事があるから真人間でいる、みたいな(笑)。でもオタクな生活が本業に役に立つこともあって。ワクチンを打つために『王家の紋章』の稽古がお休みになったときも、『十戒』とか『エクソダス 神と王』などを見て、その空気感を感じようとしていました。その前にはHuluで『ツタンカーメン 呪われた王家の血』も見ましたし。仕事に関係なく見て最近面白かったのは、SF映画の『ガタカ』。昔の映画も好きで、ラグタイム音楽を好きになるきっかけをくれた『スティング』は、部屋にポスターを貼っているほどお気に入りです」
来年7・8月には、20年に主演予定だったが稽古途中で中止となった「ミス・サイゴン」が、改めて上演されることも決定。ぐんぐん魅力を増していく海宝が、いま、抱いている夢は?
「映像はチャレンジしてみたいなと思いますし、ストレートプレイにも出演したい。それと、またロンドンでミュージカル作品をやりたい、というのが大きな目標になっていますね。でもいま思うのは、こんな状況の中で、見てくださった人に前向きになっていただけるような作品作りをしていきたいということです。無観客での作品や配信にもいいところはありますが、そういうものも経験して、やはり舞台はお客様とともに作っていくものだなとすごく思うんです。もちろん劇場にはまだ足を運べないというお客様のために配信などの方法も考えつつ、とにかく作品を届けて、それを楽しんでいただけたら嬉しいです」
「王家の紋章」は8月28日まで東京・帝国劇場で上演中。9月4日~26日には福岡・博多座で上演される。詳しい情報は公式サイト
(https://www.tohostage.com/ouke/)で確認できる。
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka