のんは実写映画の“ライン”を軽やかに飛び越えていった 「星屑の町」撮影現場に潜入!
2019年6月26日 08:00
[映画.com ニュース]水谷龍二、ラサール石井、小宮孝泰が結成したユニット「星屑の会」による人気舞台を、杉山泰一監督(「の・ようなもの のようなもの」)のメガホンで映画化する「星屑の町」の撮影現場に、映画.comが潜入した。
ラサール、小宮に加え、渡辺哲、でんでん、有薗芳記といった舞台版お馴染みのキャストが集うなか、新たなヒロインとして撮影に参加した女優・のん。「海月姫」(2014)以来となる実写映画への出演――生身の肉体で躍動する姿を目前にすると、ファンの誰もが投げかけたいであろう「おかえりなさい」という言葉が、心の中に自然と浮かび上がっていった。
地方回りの売れないムード歌謡コーラスグループ「山田修とハローナイツ」の悲哀を描く人気舞台「星屑の町」シリーズ。映画版では、同グループが東北の田舎町へ巡業に訪れ、そこである女性と出会うことに。その人物こそ、のんが演じる久間部愛。母が営むスナックを手伝いながら歌手になることを夢見ており、彼女が「ハローナイツに入りたい」と願ったことから、思わぬ騒動へと発展していく。
5月17日、撮影の舞台となったのは、東京台東区の鶯谷にあるダンスホール「新世紀」。周防正行監督作「Shall We ダンス?」の舞台モデルとしても知られる施設だ。数多くのダンサーがステップを踏んできた床は磨き上げられ、天井に張り巡らされた照明の光が反射する。優美なダンスフロアで撮影の準備は着々と進み、2階席に集ったエキストラたちが待ち遠しそうに、自らの出番を待っていた。
まずステージに登場したのは、注目の4人組グループ「斬波(ざんぱ)」だ。1970~80年代を彩った昭和の演歌、歌謡曲の名曲カバー、斬新なアプローチで構築されたサウンドとダンスが話題を呼び “ポスト純烈”の呼び声が高い。入念なリハーサルを行っていく「斬波」。その圧巻のパフォーマンスは、リラックスモードだったでんでんの興味を引きつけ「キレッキレだなぁー!」という言葉を引き出すほどだった。
そして、のんはボーカルとしてステージに上がった。仮音源として収録されていたオリジナル楽曲「シャボン玉」を流しながら、コーラス隊「ハローナイツ」として背後に立つラサールらとともに、何度も振り付けを確認していく。「ムード歌謡ショー」と書かれた看板の下、本番では一糸乱れぬ動き――とはいかない。それぞれの動きは、微妙にズレが生じている。しかし、この若き女優とベテラン俳優たちのコラボレーションが、不可思議なユーモラスを生み出している。
杉山監督「『ハローナイツ』のメンバーと、のんさんの年齢のギャップが生み出すアンバランスさが面白いんですよ。踊りが上手いという設定ではないので、多少(振り付けが)バラバラでも、それはご愛嬌(笑)。(のんの起用は)舞台版から続投しているメンバーが一番望んでいたと思いますよ。皆若返ったように、イキイキと仕事をしている。“おじさんたち”は良い刺激をもらっているはず」
のんへのオファーに関して、大きな要因となったのは「歌手活動」だという杉山監督。「彼女が歌っている姿を見た時、昭和歌謡を歌わせたらしっくりくるんじゃないかと思ったんですよ。独特のニュアンス、声質があるじゃないですか。歌や踊りへの挑戦、そしてベテラン俳優に囲まれるなかでの芝居、プレッシャーはかなりあるはず。でも、それをバネにして演じてくれていますよ」
楽曲ごとに切り替わっていく、のんのカラフルな衣装も見どころのひとつだ。「(衣装は)シックスティーズ・ルック、『アメリカン・グラフィティ』の世界観を出した方がいいかなと感じたんです。このテイストは、のんさんの出演が決まってから変わっていったものなんです」(杉山監督)。やがてステージを降りたのんは、ダンスフロアに設置されたお立ち台へ。響き渡る楽曲は、ピンキーとキラーズの楽曲「恋の季節」だ。
のんは、ピンクと白を基調としたワンピース&黒のハットでバッチリときめ、満面の笑みで歌唱シーンに臨む。2階席で待機していたエキストラが待ってましたとばかりに、彼女の目の前でダンスに興じる――その中には「新世紀」の常連ダンサーもいたようで、彼らの華麗なステップが際立っていた。
杉山監督「(のんが)この作品で心掛けているのは、“芝居が完成している”舞台版からの続投キャストのなかに、自分が飛び込まなくてはいけないということだと思います。僕は現場でリハーサルを重ねるというよりは、思い切って飛び込んできて、思い切ったパフォーマンスを見せてほしいという話をしました」
思い切って飛び込む――この言葉から、同日に行われたあるシーンの撮影の光景が脳裏に浮かび上がった。ステージ上で巻き起こる展開に、のんはしばらく待機した後、フレームインする。待機スペースに佇む彼女は、自身が映画の世界に“飛び込む”タイミングを計りながら、少々緊張の面持ちだった。しかし“実写映画の世界”と“現実世界”の間を区切るラインを飛び越えると、彼女の表情は一瞬で様変わりし、久間部愛としての人生を歩み始めていた。この軽やかとも言えるスイッチング――“女優・のん”の才能、そしてこれからの可能性に心が躍った瞬間だ。
「新世紀」での撮影が終わり、撤収作業が進んでいく。歓待の拍手で出迎えられ、称賛の拍手で見送られることになったのんは、映画作りに欠かせないエキストラへの感謝を、深いお辞儀とともに示す。「ありがとうございました! お疲れさまでした!」。新たな撮影地へと力強く向かっていく彼女の背中を、その場に居る誰もが見守り続けていた。
「星屑の町」は、20年に劇場公開。
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