きみの鳥はうたえる

劇場公開日:

きみの鳥はうたえる

解説

「そこのみにて光輝く」などで知られる作家・佐藤泰志の同名小説を、柄本佑、染谷将太、石橋静河ら若手実力派俳優の共演で映画化した青春ドラマ。原作の舞台を東京から函館へ移して大胆に翻案し、「Playback」などの新鋭・三宅唱監督がメガホンをとった。函館郊外の書店で働く“僕”と、一緒に暮らす失業中の静雄、“僕”の同僚である佐知子の3人は、夜通し酒を飲み、踊り、笑い合う。微妙なバランスの中で成り立つ彼らの幸福な日々は、いつも終わりの予感とともにあった。主人公“僕”を柄本、友人・静雄を染谷、ふたりの男の間で揺れ動くヒロイン・佐知子を「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」で注目された石橋がそれぞれ演じる。

2018年製作/106分/G/日本
配給:コピアポア・フィルム
劇場公開日:2018年9月1日

スタッフ・キャスト

監督
原作
佐藤泰志
脚本
三宅唱
企画
菅原和博
製作
菅原和博
プロデュース
菅原和博
プロデューサー
松井宏
撮影
四宮秀俊
照明
秋山恵二郎
録音
川井崇満
美術
井上心平
衣装
石原徳子
メイク
石川紗織
小道具
平野藍子
VFXスーパーバイザー
大萩真司
サウンドエディター
伊藤裕規
音響効果
大塚智子
音楽
Hi'Spec
助監督
松尾崇
ラインプロデューサー
城内政芳
アソシエイトプロデューサー
寺尾修一
キャスティング
神林理央子
スチール
鈴木淳哉
石川崇子
制作主任
小林大地
タイトル題字
佐藤泰志
クレジットデザイン
可児優
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映画レビュー

4.0若手実力派3人は佐藤泰志の世界観から何を感じたか

2022年3月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会、映画館

夭折の作家・佐藤泰志の著書を映画化し続けてきた菅原和博氏いわく、函館・新3部作と銘打った1作目。最初の3部作は熊切和嘉、呉美保、山下敦弘という映画界で認知された実力派を監督に起用してきたが、今回は若手の三宅唱を起用することで、どのような相乗効果をもたらすか……。

果たして、出来上がった作品は良い方へと転んだ。それも、柄本佑、染谷将太、石橋静河という若手実力派が実に瑞々しい存在感を函館の街に違和感のない速度で馴染ませ、佐藤泰志の思いに寄り添っている。この3人が上手いのは誰もが承知しているだろうが、それにしても石橋静河という俳優の一挙手一投足から目が離せなくなるような強烈な個性に震える。

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大塚史貴

5.0何者でもないから自由になれる

2018年10月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

幸せ

この映画の3人は何者でもない。それが心地良い。主人公に至っては名前もわからずクレジットも「僕」表記である。何者でもないからこそ、何にでもなれる自由がある。

男2人、女1人の人間関係なのに、彼らの関係は恋人なのか友人なのかもわからないほどに曖昧だ。でもだからこそ恋人にもなれるし、友人にもなれる自由がある。セックスがあっても主人公と佐知子の関係はひどく曖昧なまま進む。恋人になれば関係は強固になるかもしれないが、同時に友人の距離感の自由を失う。

それはただのモラトリアムかもしれない。いろんな所属や肩書きや関係性の役割を引き受けて人は大人になるが、そうしたものを受け入れれば入れるほどに人は不自由になるのかもしれない。モラトリアムな瞬間は不安定だけれど一番自由な瞬間でもある。

それにしてもシネマアイリスは偉い。地方のミニシアター文化を守るだけでなく、佐藤泰志原作の素晴らしい映画を4本も世に送り出した。それだけで大拍手だ。

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杉本穂高

4.0クラブ音楽のBGMに馴染めるかどうか

2018年8月29日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

楽しい

故・佐藤泰志が80年代初頭に発表した小説の映画化で、当時の東京の話を、現代の函館に舞台を移して脚色している。原作にはビートルズのレコードが登場し、"And Your Bird Can Sing"を歌うシーンもあって、曲名の訳が小説の題になっているのだが、映画ではカットされているので、映画の題としては意味がよくわからなくなっている。そして音楽も今風にということなのか、Hi'Specを起用し(劇中のクラブのシーンで本人も登場)、クラブ音楽などデジタル寄りのサウンドトラックが流れるのだが、個人的には佐藤の小説世界と相性が悪いように感じた。80年代を知る世代ゆえのノスタルジーかもしれないが。

柄本佑の鬱屈した感じはキャラクターによく合っている。明るく笑顔の多い染谷将太とのコントラストもいい。石橋静河のダンスにはもっと見たいと思わせる力があった。

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高森 郁哉

4.5難解すぎる

2024年5月7日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

難しい

この作品は難解で考察しにくいものの、若者たちの心を丁寧に描き出している。
まずタイトルの意味 それが象徴だというのはわかるが作品からはうまくつかめなかったのでWikiを利用した。
ビートルズの曲 それを知り益々難解度が上がった。そもそも割愛されているのでわからない。
村上春樹のノルウェイの森と同じ。そこに明確な意味などないのだろうか? 割愛した理由はどこにあったのだろうか?
しかしこの作品は起承転結というものが主人公の心境の変化としてだけ描かれていて、純文学を映画にした作品だ。難解さのなかに「わからないでもない雰囲気」がある。それが「若さ」の特徴のひとつなのだろう。あの3人の中に「私」を存在させて、考えてみるのだ。
さて、
この作品の特徴の一つが、主人公に名前がないことだ。小説をそのまま付け加えずに映画化したのか。
誰もがそうであるように、主人公もまた、自分自身の正義というのかポリシーをはっきりと持っていて、それが店員のモリグチに「なんかお前、わかってないな~」と言って殴りつけたことに現れている。
主人公は自分を縛ることはしたくない。だから他人も縛らない。
そんな主人公を誘い出したサチコの意図は明かされていないが、彼女は店長との関係に辟易していたと思われる。店長の雰囲気から神経質で粘着質なのが想像できる。彼女は主人公の不真面目な自由さに惹かれたのだろう。
男女関係を仕事場でしか見つけられないという閉塞感がこの作品に出ている。小説の舞台が東京で、それを函館に変えている理由がこの閉塞感の演出だったのかもしれない。
主人公は最初「よくわかんない女」からの誘いを受けるべきかどうか悩むが、そもそもその日仕事をさぼっていることで、仕事場の傍まで出かけるのが億劫だったはずだ。
そして1.2.3…と140まで数えて彼女が来なかったら帰ることにした。
彼女は来たが、あえて一度自宅に戻って出直す約束をしたのは、おそらく自分の予想が外れ、本当に彼女が来てしまったからなのではないかと思った。
主人公は日常的に嘘をつく。それはおそらく他人との衝突を避けているからだろう。その場限りの体裁としての嘘は、人を傷つけたくないという意味もあるのかもしれない。逆に言えば、それだけ頭が回り、人の気持ちをよく気づいているということだ。
彼は誘ってきたサチコの心がわからず、行くという約束を破ったが、実はお金がなかっただけかもしれない。
そんなことも忘れたように平気な顔で彼女に話しかけるが、そんな不誠実ながらも自由な生き方をしている主人公を好きになる。店長と真逆。
同じ店員の女性とサチコが話すシーンがあるが、彼女はSexに興味があり、簡単にそんな話をしている。その裏にあるのが20代後半の「焦り」であり、恋愛という最も興味あるものは「ウソつき」つまりお互い嘘の中で駆け引きしていることが伺える。
そして「若さって、なくなるものなのかな?」というこの作品の核となる言葉。
主人公はシズオと一緒に暮らしているが、そこにサチコが加わり、夜な夜な3人で遊び始める。
彼らの遊びには嘘がなく、今しかない青春を取りこぼさないようにして遊ぶ。
「オレはカラオケって好きじゃないんだよ」という主人公のセリフには、本心を言えない自分自身を暗示しているようにも感じた。
サチコが歌った「オリビアを聴きながら」も、女が男をフる歌詞で、二人の今後を暗示している。
「人の楽しみを邪魔しない」主人公は、サチコの店長との関係を終わらせる相談にも向き合わない。「どうにでもなる」  だから、したいようにすればいい。万引きだって見逃す。主人公にとって「どうでもいい」ことなのだ。
仲のいい三人だが、それぞれ少しずつ性格や考え方に差があることがわかる。
「めんどくさいのは嫌」 最初そう言ったサチコだが、何にも介入しない主人公とに間隙ができる。シズオと一緒に映画に行くことやキャンプに行くことも自由にさせる。
シズオには家庭内の問題がある。病気の母と兄、それに無関心なシズオ。誰もそれ以上のことはわからないが、冒頭にシズオと母が一緒に飲んでいるシーンがある。「お前は優しい子だ」 母はお金がない。会えばお金を渡すことになる。シズオはおそらくそれが嫌なのかもしれない。
サチコとシズオのデートで、シズオが主人公を「何を考えているのかわからないけど、何も考えていないのかも。でも裏表がない」と話している。
サチコに「さっき嘘ついたでしょ。帰って来た時起きてたでしょ」と聞かれ、投げ捨てるように「ああ、嫉妬した」 サチコにはそれが本音なのか当てつけなのかわからない。だからシズオとキャンプに出掛ける話を持ち出して本心を確認したが(私の妄想)、彼は「二人で行けば」のように言ったのだろう。
その間、冒頭に主人公が帰宅したのと同じようなシーンになる。本屋に新人が入り、女子店員のウキウキした様子、モリグチの無断欠勤、主人公は行く当てもなく一人散歩。
モリグチに棒で襲われ、シズオの母の訪問。おそらく彼女はお金を借りに来た。
当てが外れた代わりにリンゴを持たされ帰る母。人々の心のすれ違う様子が象徴的に描かれている。
母が倒れても何も動揺しないシズオ。シズオにとっては家族などあまり気にしなくてもいい存在なのかもしれない。そんな時に3人はまた飲みに出掛ける。プールバーで遊ぶ。
朝になってもまだ遊び足りない女子店員と新人。モリグチを説得した店長。
寝ていなかった主人公はひとり何を考えていたのか? 結局シズオは一人で病院へと出かけた。
そしてサチコの告白 「あのね、私、シズオと恋人として付き合うことにしたよ」
主人公「オレは二人がうまくいけばいいと思ってた」
彼女をいつもの駅まで見送ると、主人公は冒頭の時のように数を数え始めた。しかし、140まで数えることなくサチコを追いかけた。
「全部嘘、嘘ついた」
「やめて」
「オレはサチコが好きだ」
困惑するサチコの表情で作品が終わる。

難解なのは、主人公の心がわからないからだ。自分自身にもおそらくはわかっていないのだろう。これが「若さ」なのだ。独特のポリシーを掲げてプライド高く生きているつもりでも、自分が他人と関わる時、そのポリシーやプライドを捨てなければならない場合がある。
主人公はようやくそれができたということだろう。その自分勝手さは、それまでの彼の生き方と真逆になっている。

タイトルの意味を考え、ビートルズの曲を調べてみると下記のような言葉があった。
「この歌詞は、愛の失敗や人間関係の複雑さを描いており、鳥が歌うことができるが、人々はその歌を理解できないという意味を持っている。これは、愛や感情が他人には理解できないことを表しているとも言える」

この作品は、そもそも理解できないように作られている。

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