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長い散歩
渋谷Q-AXシネマほかにて全国順次公開中
写真 人生は長い散歩。愛がなければ歩けない。
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物語・解説

物語 解説

「長い散歩」場面写真定年退職するまで名古屋の高校の校長を勤めてきた安田松太郎は、妻を亡くし、一人娘の亜希子に告げる。

「この家はお前にやる。俺は出て行くから、お前、戻って一人で住むといいだろう」

娘は応える。

「相変わらず押し付けがましいのね。ありがとうって言うとでも思ったの? この家に住むのが怖いんでしょう。…人殺し…」

松太郎は、家庭の和をうまく築くことのできない男だった。自分の出世こそが家族の幸せと思い込み、万引きで補導された娘を理由も聞かずに殴りつけるような厳格すぎる性分の松太郎は、妻をアルコール依存症に陥らせ、娘の憎しみをかっていた。

身の回りの最低限の生活道具を荷造りし、移り住んだ場所は、愛知県の片隅にある小さな二階建てのアパートの一室。彼は少ないダンボール箱の荷を解き、妻の位牌を本棚の上に飾る。愛読書の詩を流し読み、その本のページの間に挟まっていた写真に目を留める。それはかつてまだ家族の仲がいいときに行ったどこかの山の頂で、白い雲がぽっかり浮かび、鳥が空を舞っているのどかな写真。写真の裏には自筆の詩。

「おーい君、おーい天使、おーい青い空、松太郎」

自分の過去を清算するような松太郎の質素な一人暮らしが始まった。

隣室には水商売風の女が、幼い一人娘と暮らしていた。松太郎は、ボール紙で作った擦り切れた天使の羽根を背中につけたその少女をよく見かけていた。彼女は幼稚園にも行かず、いつもアパートの外で、一人ぼっちで遠くの景色を眺めていた。母親が夜の仕事に出かける時、彼女が娘に小銭を投げつける様子も目にしていた。少女はその金でメロンパンを買い、空腹を満たしていた。

「長い散歩」場面写真 ある夜、男と酔って帰宅した母親は、情事を始めると、娘を怒鳴って夜の戸外に追い出した。日ごろの隣室の物音から母親による娘の虐待を知った松太郎は、少女への同情心を募らせながらも、過去に自分が娘にした仕打ちを思い返し、自責の念に苦しんでもいた。松太郎はある日、少女の後をつけ、彼女の秘密の隠れ家をつきとめる。そこは大きな樹木の根の隙間に、万引きした絵本やおもちゃを溜め込んだ小さな空間で、少女はそこでは安心して遊び、眠ることができるのだった。そこで松太郎は少女とささやかな交流を始める。

運命の日はほどなくしてやってきた。ある日、松太郎は隣室で少女をからかっていた母親の情夫、水口を青竹の剣で叩きのめし、彼女を救った。そして松太郎は彼女に静かに語りかける。

「おじいちゃんといっしょに行くか。……青い空見に行こう。綿飴みたいな雲が浮かんで、白い鳥が飛んでる」と。

虐待され続けた少女は、他人とのコミュニケーションができなくなっていた。全てを拒絶したままの少女を連れ、松太郎は旅に出た。めざす場所はおのずと決まっていた。昔、家族と行ったあの山の頂、彼にとっての心のユートピアである。こうして心を頑なに閉ざした少女と、妻への贖罪の念を背負った男の旅が始まった。松太郎に対し、虐待によるトラウマで心を閉ざし何事にも反抗的な少女、しかし、旅のなにげない交流のなかで、少しずつ松太郎の想いを感じ始め心を開いていった。ある夜、彼女は突然、自分の名を松太郎に告げた。少女の名前は幸(サチ)。

「長い散歩」場面写真 娘の姿が見えなくなった二日後、幸の母親は警察に届け出た。同じ時にいなくなった隣人の松太郎が誘拐犯人と特定されるまでにさほど時間はかからなかった。

ひと気のない単線で旅を続ける途中、ふたりはバックパッカーの青年に出会う。ワタルと名乗る青年はしばしの間、彼らと旅を続ける。幸の心をつかみ、彼女が笑顔を見せるほどになったことに対し、安田はワタルに礼を言う。しかし、そんな束の間の安らぎは長くは続かなかった。誰知らず深く心を病んでいたワタルは、ある朝、山の湖の前で自ら命を絶つ。

深い悲しみを抱き、安田は幸をつれてその場を去らざるを得なかった。その事件が、安田と幸の捜査の網の目をいっきに狭めることになった。果たして二人は、目的の地へと辿り着けるのだろうか?
解説