片渕須直監督「つるばみ色のなぎ子たち」進捗報告「人を育てる時間は削らない」人材育成に尽力
2025年12月15日 12:00

名古屋市で開催中の「第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル」アニメーション・カンファレンス2025部門で、片渕須直監督による「これまでとは違う清少納言・枕草子・平安時代を描く」と題したセミナーが12月14日開催された。
セミナーでは最新のパイロット映像とともに、片渕監督が進行状況などを語った。映画は平安時代の京都を舞台にしたオリジナル作品。「枕草子」の清少納言が生きた1000年前、疫病がまん延して数万人の死者が出て、時代が大きく変化していくなかで、日常のなかに希望を見いだしながら生きる少女たちの姿が描かれる予定だ。
片渕監督の代表作のひとつ「この世界の片隅に」には、次へ進もうとする気持ちが込められていたといい、「それを考えるとき、私の中ではかなり早い段階から『枕草子』の存在がありました。ただ、『枕草子』をそのままやる、ということではなくて、もう少し変形させるというか、別の形に変えていく必要があるな、と感じていたんです」と話す。

「枕草子」や多くの文献などをもとに、膨大な時間をかけ、中宮定子をはじめとした、主人公の清少納言を取り巻く環境と人間関係、当時の生活様式、社会状況、文化まで綿密な時代考証を行っている。疫病が蔓延した時代でもあり、その裏で「桜がきれいだとか、日常の出来事が淡々と書かれている。そのギャップが、僕にはとても重要に思えました。華やかに見える平安時代の裏側には、常に死と隣り合わせの現実があった。その中で、人はどう生きていたのか」と考え、また、清少納言の宮廷内での地位や立場を推察すると、敵やスパイのようにみなされるような時期があったとも報告する。
「時代の空気、身体感覚、生活のリアリティを、アニメーションとしてどう表現できるかをずっと考えてきました。千年前の人たちも、確かに生きて、悩んで、笑っていた。そのことを、今を生きる私たちと地続きのものとして描きたい。それが、この作品を作り続けている一番の理由です」と、「春はあけぼの」から、現代人が連想するような穏やかな平安時代の宮廷生活とは異なる物語が展開される予定だ。

最新パイロット映像は、2023年の秋に公開した最初のバージョンの後、少し改訂を加えたものであると紹介し、「この作品の企画自体は、2010年ごろから考え始めています。そのあいだに、新人のアニメーターを募集して、実際にこの映像の一部のカットを、若い人たちに描いてもらいました。うちのスタジオでは、原画を描く道を選んでもいいし、動画を極めてプロフェッショナルになる道もある、という形で育てています。今年になって、ずっと動画を描いていたアニメーターが、『原画を描いてみたい』と言って描いたカットもパイロット映像の中に使われています。こうやって、若い人たちが育ってきていること自体が、この作品を作る大きな支えになっています」と、映画の制作と並行し、人材育成を行っていると明かす。
公開時期については未定だが、製作委員会の体制を整えている最中だと報告し、「平安時代を描くにあたって、生活を感じられる感覚を持って記号的でなく描くには、通り一辺の作画では実現できない。実質を備えた、動き、絵を描けるスタッフを自分たちで作るしかない状況」だと、片渕監督が考える、人間らしい身体表現を絵で具現化するアニメーターを育てている。

「今のシステムだと、第一原画があって、それをいじって、第二原画があって、さらに動画があって……と、どんどん工程が分かれていきます。でも、それって本当に『理解して動かしている』のか、という疑問がずっとあったんです。だから今は、なるべく口で言って、最低限だけ手を入れる。全部直さない。自分で考えてもらう、というやり方をしています。もちろん、時間はかかりますが、慌てると、結局また元に戻ってしまうので」と、アニメーション制作過程の構造の問題も指摘しながら、「仕事自体は急ぎますけど、人を育てる時間は削らないようにしています」と自身のスタンスを表明し、「今のアニメーションの現場はスケジュールに追われすぎて、次の世代をきちんと育てる余裕がない。どうせ直されるんだろう、と思いながら描いてしまう、という空気もある。それを変えたかった」と願っている。

「うちに集まってきてくれる若い人たちは、すごくやる気があるんです。見た目は物静かで、おとなしく見えるかもしれない。でも、絵で自分の言葉をしゃべれる、というのは大きな力です。絵を描いて、考えて、言葉にする。その循環ができる人を、もっと見つけたいし、育てたい」と新世代のアニメーション制作者たちへの期待も口にした。
「第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル」(ANIAFF)は12月17日まで、愛知県名古屋市で開催。チケットは公式サイト(https://aniaff.com/)で発売中。
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