「ベッドシーンはアクションシーン」荒井晴彦監督特集上映オールナイト 5歳から知る柄本佑登場に荒井節さく裂
2025年12月8日 18:00

日本を代表する脚本家・荒井晴彦の監督最新作で、吉行淳之介の同名小説を綾野剛主演で映画化した「星と月は天の穴」が12月19日から公開される。これを記念して、16日に同監督の「火口のふたり」(19)「花腐し」(23)、新作「星と月は天の穴」を上映する先行オールナイトが行われ、荒井監督と柄本佑がトークを繰り広げた。
最新作「星と月は天の穴」は、荒井監督の長年の念願だった吉行淳之介による芸術選奨文部大臣受賞作品の映画化。過去の離婚経験から女を愛することを恐れる一方、愛されたい願望をこじらせる40代小説家の日常が、エロティシズムとペーソスを織り交ぜながら綴られている。

荒井と「花腐し」(23)でもタッグを組んだ綾野が矢添克二を演じ、過去のトラウマから女を愛することを恐れながらも求めてしまう、心と体の矛盾に揺れる滑稽で切ないキャラクターを体現する。そして、女子大生の紀子を演じるのは、咲耶。女性を拒む矢添の心に無邪気に足を踏み入れる。矢添のなじみの娼婦・千枝子を演じるのは、荒井作品3作目の出演となる田中麗奈。さらに柄本佑、岬あかり、MINAMO、 宮下順子らが脇を固めている。
荒井監督との出会いを聞かれた柄本は、「おそらく湯布院映画祭の荒井晴彦脚本特集の時だったと思います」と振り返り、「5歳の時。鮮明に記憶にあるのですが、湯布院映画祭って毎晩パーティーがあるんですね。お客さんも交えて一緒に映画の話をするんです。そのパーティーに親父(柄本明)と一緒に車で向かっているときに、とぼとぼ歩いている荒井さんがいて(笑)あの人大丈夫かな、って遠くから見ていました。それがまさかこんなに(作品で)お尻を見せることになるとは思っておりませんでした(笑)」と会場の笑いを誘った。

一方、MCから柄本がどんな俳優か問われた荒井監督は、「天才」と断言。続けて2人がタッグを組んだ「火口のふたり」で、柄本の妻の安藤サクラがキャスティング候補に上がっていたという裏話を披露したが、「でも撮影が延びてしまって、その間に子どもができて、朝ドラも決まってしまったから……(笑)」と独特の荒井節に柄本もタジタジに。
その時を振り返って「荒井さんが僕が出てる舞台を見にきてくださったんです。『アライさん来てるよ、アライハルヒコさん』って言われて、えー! 荒井さん見に来てくれたの!? と行ったら開口一番『おまえ、嫁の尻拭えよ』『火口だよ、やれよ』って(笑)」と楽屋に押しかけられたエピソードを明かした。なお、荒井脚本作品にも参加したことがなかった柄本は、以降の荒井監督作に欠かせない俳優となっている。

荒井脚本の魅力を聞かれた柄本は、「ご本人を前にしてちょっと恥ずかしいし失礼かなとも思うんですけど、“可愛い”と思うんですよ。真ん中がすごくまっすぐなイメージがあります」と分析。続けて、荒井監督が、この日のMCを務め「花腐し」「星と月は天の穴」にも出演している俳優の吉岡睦雄に「吉岡はどうなんだよ」と話を振ると、台本を持ってきていた吉岡は「花腐し」の食事シーンの一節を読み上げ、「食事シーンが事細かに書かれているじゃないですか。ベッドシーンでも体位まで書かれている。ほかの作品だと抱き合っているとか一言で書かれていることが多いじゃないですか。それであとは現場でやってみようということが多いと思うんですけど」と逆に荒井監督に公開質問。荒井監督が「どういうもの食べているかっていうのはキャラクターにとって重要じゃない?セックスもどういうふうにしているか、キャラクターにとって重要だから書いてるんだよね」と脚本作りについて語ると、客席から深い感嘆の声も漏れた。
またベッドシーンについて聞かれた柄本が、「もちろん触れ合うことだったりするから相手の女優さんに対して気を遣うということはあるけど、アクションシーンという捉え方ですかね。『火口』は特にアクションを作っていく感じでした」と振り返ると、荒井監督は「この人の親父は、俺が初めて監督やった『身も心も』(97)でかなりハードなベッドシーンでカット、オッケーと言ったら直後にサンダルを引っ掛けて、『どこ行くの?』と聞いたら『ちょっと子どもたち迎えに行ってきます』と。パッと切り替えがすごいです」と俳優の力について語った。
映画知識の広さで知られる柄本は、オススメの荒井作品を問われ、「ダブルベッド」(83)と「ベッド・イン」(86)の2作を上げたが、それを聞いていた荒井監督は「『ベッド・イン』は初めて字幕を入れた。今度(『星と月は天の穴』)もなんか字幕ばっかりだね」と意外なつながりを発見していた。

最後に「星と月は天の穴」の魅力について柄本は、「荒井さんの大胆さを感じました。どんどん大胆になっていっているなと感じます」と指摘すると、吉岡は「『花腐し』の撮影が終わったあとに、荒井さんがみんなへの挨拶で『また最高傑作を作ってしまいました』とおっしゃったんです。かっこいいと思って。で、実際見たら本当に最高傑作だったんです。そして『星と月は天の穴』を見て、荒井さんまた更新してしまった!と思いました」と荒井の手腕に最敬礼だ。
さらに、吉岡が「今後他にまた撮りたい作品はあるんですか?」と荒井監督に尋ねると「あるよ、あるけどね、寿命が…」と照れ笑いを見せたが、「急いで撮らなきゃいけませんね」と返されると、「ちょっとお金持ってきて!」と即座に応じ、最後まで荒井節の効いたトークで締め括った。
「星と月は天の穴」は、12月19日から東京・テアトル新宿ほかで公開。
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