山田裕貴主演作「爆弾」は、「ラストマイル」級の大ヒット作になれるか?【コラム/細野真宏の試写室日記】
2025年11月1日 06:00
(C)呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
今週末10月31日(金)から山田裕貴主演作「爆弾」が公開されました。
本作を見て、思い出したのは興行収入59.6億円の大ヒットを記録した「ラストマイル」(2024年8月23日公開)でした。
理由は、作品の構造のようなものがどことなく似ていて、あえて言うと、「爆弾」は、“「ラストマイル」のリアリティー版”といった感じでしょうか。
ただ、「ラストマイル」の方は、映画の完成度の高さに加えて、TBSの連ドラの人気作品とコラボした“シェアード・ユニバース”という仕組みが功を奏して異例な大ヒットを記録した面もあって、同レベルの大ヒットというのは映画単体での「爆弾」には厳しすぎるハードルなのでしょう。
なので、あくまでポテンシャルの最大値として捉えるべき数値です。
(C)呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会この2作品について、どちらが良く出来ているか、どちらが面白いか、というのは、それこそ趣味嗜好の話なのかもしれませんが、私は「爆弾」の方に軍配をあげる結果でした。
まず、「爆弾」の原作は、「このミステリーがすごい! 2023年版」(宝島社)や「ミステリが読みたい 2023年版」で1位を獲得しているだけあって、物語にリアリティーがあり面白いのです。
そして、「爆弾」のメガホンをとったのは、菅田将暉主演作「キャラクター」の永井聡監督。「キャラクター」も出来は良かったですが、本作ではさらにセンスが爆発していました。
永井聡監督といえば「帝一の國」のようなコメディ作品を得意としている印象がありましたが、シリアスな「キャラクター」のように、本作のようなサスペンス作品が最も合っているのかもしれません。
(C)呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会
(C)呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会「爆弾」は、「静」と「動」の対比も見事。テレビスポットでは、取調室の会話のシーンがメインとなっていて、作品を見る前は「この映画は、取調室ばかりの会話劇なのか?」と思っていましたが、実際に見てみると、爆破シーンを中心に、現場の「動」のシーンが多くありました。
「静」の取調室のシーンは、まさに演技合戦の応酬。正直なところ、「本作の主演は誰?」と思ってしまうくらいに佐藤二朗の存在感がありました。
これまでの佐藤二朗といえば福田雄一監督作に登場する「とてもおちゃらけた人」か、「宮本から君へ」や「はるヲうるひと」などで見せる本来の体格を活かした「とても怖い人」という印象でした。ところが本作では、その中間くらいの絶妙な演技で、「国宝」が無ければ今年の日本アカデミー賞で助演男優賞を受賞するんじゃないかと思うくらいの存在感でした。
そして、主演の山田裕貴は――ひょっとしたら佐藤二朗よりも出演時間が短いのかもしれませんが――最大のハマり役でブレイクのきっかけとなった「東京リベンジャーズ」のドラケン役を彷彿させるほどに役がハマっていて、独特な存在感を放っていました。
そして、この2人以外のキャストも見事で、「静」の取調室のシーンのやり取りや緊迫感は一見の価値があります。
(C)呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会そして、その「静」から一転する「動」となる現場では、本物の火薬を使って爆発させた圧巻のシーンが多く、現場の警察官やエキストラに至るまでリアリティーに溢れていました。
内容自体も「ラストマイル」より入り組んでいるので、ミステリー作品としてのリピーターは付きやすいような気がします。
見終わった後に「もし続編があるのなら見たいな」と、漠然と思っていましたが、どうやら原作には続編があるようなので、それも期待したいところです。
(C)呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会さて、気になるのは本作の興行収入ですが、まず、ビジネスモデルとしては、制作費が結構かかっているように思えます。
仮に制作費4億円として、宣伝などのP&A費を2.5億円とすると、劇場公開だけでリクープするには興行収入16.4億円が必要になるので、目標は興行収入20億円といったところでしょうか。
個人的には、リアリティーを追求し過ぎているシーンもあるので、そこら辺がどのように受けとられるのかが成否を分けそうな気がしています。
作品の持つポテンシャルとして興行収入30億円超えはあり得るので、果たしてどのくらいまで口コミが広がるのか――大いに注目したいと思います!
執筆者紹介
細野真宏 (ほその・まさひろ)
経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
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Twitter:@masahi_hosono
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