映画.comでできることを探す
作品を探す
映画館・スケジュールを探す
最新のニュースを見る
ランキングを見る
映画の知識を深める
映画レビューを見る
プレゼントに応募する
最新のアニメ情報をチェック

フォローして最新情報を受け取ろう

検索

「ひとつの机、ふたつの制服」あらすじ・概要・評論まとめ ~地震による破壊と再生が人間関係の崩壊と修復を対比させる~【おすすめの注目映画】

2025年10月30日 09:00

リンクをコピーしました。
「ひとつの机、ふたつの制服」
「ひとつの机、ふたつの制服」
Renaissance Films Limited (C)2024 All Rights Reserved.

近日公開または上映中の最新作の中から映画.com編集部が選りすぐった作品を、毎週3作品ご紹介!

本記事では、「ひとつの机、ふたつの制服」(2025年10月31日公開)の概要とあらすじ、評論をお届けします。


画像2Renaissance Films Limited (C)2024 All Rights Reserved.
【「ひとつの机、ふたつの制服」あらすじ・概要】

1990年代の台北を舞台に、高校の夜間部と全日制でひとつの机を共有する2人の女子生徒の友情と成長を描いた青春ドラマ。

受験に失敗した小愛(シャオアイ)は、母親の強引な勧めで名門校「第一女子高校」の夜間部に進学する。コンプレックスを抱えながら通う中、全日制と同じ教室と机を使うため、成績優秀な全日制の敏敏(ミンミン)と机に手紙を入れて交流する「机友(きゆう)」となる。夜間部と全日制では制服は同じだが、胸の刺繍の色が違う。小愛は敏敏に制服交換を提案され、ふたりは行動をともにするようになるが、やがて同じ男子校生に恋心を抱いていることに気づく。

無聲 The Silent Forest」で金馬奨の最優秀新人俳優賞を受賞したチェン・イェンフェイが小愛役で主演を務め、敏敏役で「愛という名の悪夢」のシャン・ジエルー、ふたりが恋する男子校生役で「台北アフタースクール」のチウ・イータイが共演。台湾最大の脚本コンペティション「優良電影劇本奨」で特別優秀脚本賞を受賞したシナリオをもとに、「よい子の殺人犯」「High Flash 引火点」のジャン・ジンシェン監督がメガホンをとった。


●地震による破壊と再生が人間関係の崩壊と修復を対比させる(執筆:松崎健夫
画像3Renaissance Films Limited (C)2024 All Rights Reserved.

 高校内での<スクール・カースト>と呼ばれるヒエラルキーを描くことは、「ブレックファスト・クラブ」(1985)や「ミーン・ガールズ」(2004)など、ハリウッド製青春映画の十八番。「ひとつの机、ふたつの制服」(2024)は1997年の台湾が舞台だが、<制服>が校内の格差を可視化させながら、物語を転がしてゆく機能をも担わせているのがポイント。冒頭の入学式場面では、学生番号を記した制服の識別証の色が、全日制の生徒は “太陽”をイメージした黄色、夜間部の生徒は“月”をイメージした白と異なっていることを視覚的にも観客へ伝達させている。校長は戸惑う生徒たちを前に「全日制だろうと夜間部だろうと、同じ第一女子校の生徒」と語るが、それは建前なのだ。実際には「夜間部はまがいもの、ニセの第一女子だ」と、全日制の生徒から蔑まれているからだ。

興味深いのは、全日制と夜間部の生徒が同じ机を共有することから、同じ机・椅子に着席する生徒同士を<机友>と呼んでいる点。夜間部の小愛(チェン・イェンフェイ)は全日制の敏敏(シャン・ジエルー)と顔を合わせた際、彼女から「桜木花道か流川楓なら?」と問われ、「流川楓」と答えたことから、ふたりは<机友>として親睦を深めるきっかけを得るのだ。今作は1990年代の高校生を描いているという点で、「あの頃、君を追いかけた」(2011)や「私の少女時代 Our Times」(2015)などの台湾製青春映画との共通点を見出せるが、劇中で井上雄彦の漫画「SLAM DUNK」が引用されているという共通点もあり、小愛と敏敏のやり取りからも当時の台湾でどれほどの人気があったのかを推し量れる。

画像4Renaissance Films Limited (C)2024 All Rights Reserved.

もうひとつ、この時代の台湾で重要なのは1999年9月21日に起こった921大地震。同時代を描いた「ひとつの机、ふたつの制服」でも物語の転機となる出来事として登場するが、「あの頃、君を追いかけた」や、男女5人が大学生から30代の大人になるまでを描いた台湾のテレビドラマ「16個夏天」(2014)でも、人々にとって“共通の記憶”である921大地震が人生の転機として描かれていた。これらの作品内で地震がもたらす破壊と再生は、人間関係における崩壊と修復との対比になっているのだ。一方で、「あの頃、君を追いかけた」や「私の少女時代」、「16個夏天」といった作品では、成人した登場人物たちの視点から青春時代を追憶することによって、時代の対比を導くという物語構成になっていたが、今作の場合は小愛の1997年から4年間の成長に特化して描くことで、“共通の記憶”を考察してみせているという違いがある。

画像5Renaissance Films Limited (C)2024 All Rights Reserved.

ひとつの机、ふたつの制服」の物語は、小愛と敏敏が同じ男子生徒・路克(チウ・イータイ)に好意を寄せるという王道の展開によって、学内のヒエラルキーが再び顔を覗かせはじめる。戒厳令下を経て、民主化のプロセスにあった1990年代の台湾。自由を謳歌できるようになりつつあった時代であるからこそ生じる軋轢が、政治に対してではなく、今や己の間に生まれているという皮肉が描かれているのだ。小愛の母親は、戒厳令下に青春時代過ごした世代。1980年代の青春群像を描いた<台湾ニューシネマ>と呼ばれる作品群よりも、今作が未来の展望の方に重きを置いているのも、その物語構成ゆえだと解せる。映画の終盤では、小愛が敏敏と、或いは小愛と路克とが邂逅するシークエンスで、階段の高低差を利用しながらお互いのヒエラルキーに対する推移・変化を可視化させているという何気ない演出が見事だったりする。原題の「夜校女生」や英題の「The Uniform」と比べて、物語を端的に表現した日本版タイトルの美麗な言葉のリズムと響きが素晴らしいのも一興だ。

執筆者紹介

松崎健夫 (まつざき・たけお)

 映画評論家。東京芸藝術大学大学院映像研究科映画専攻修了後、テレビや映画の現場を経て執筆業に転向。ゴールデン・グローブ賞の国際投票権を持ち、キネマ旬報ベスト・テン選考委員、田辺・弁慶映画祭審査員、デジタルハリウッド大学客員准教授を務めている。「そえまつ映画館」「シン・ラジオ」など、テレビ・ラジオ・配信番組に出演。劇場パンフレット等に多数寄稿し、共著に「現代映画用語事典」がある。

Twitter:@eigaoh


チェン・イェンフェイ の関連作を観る


Amazonで関連商品を見る

関連ニュース

映画.com注目特集をチェック

関連コンテンツをチェック

おすすめ情報

映画ニュースアクセスランキング