「火喰鳥を、喰う」あらすじ・概要・評論まとめ ~時空と世界、謎と怪異の交錯に幻惑される令和生まれの新感覚サスペンス~【おすすめの注目映画】
2025年10月2日 09:30

近日公開または上映中の最新作の中から映画.com編集部が選りすぐった作品を、毎週3作品ご紹介!
本記事では、「火喰鳥を、喰う」(2025年10月3日公開)の概要とあらすじ、評論をお届けします。

第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞を受賞した原浩の同名小説を映画化したミステリーサスペンス。「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」「九龍ジェネリックロマンス」の水上恒司が映画単独初主演を務め、「六人の嘘つきな大学生」「山田くんとLv999の恋をする」などで活躍する山下美月、人気アイドルグループ「Snow Man」の宮舘涼太が共演。「超高速!参勤交代」「シャイロックの子供たち」など幅広いジャンルの作品を手がける本木克英監督がメガホンを取った。

舞台設定と情景は昔ながらの奇譚の構えだが、展開と仕掛けに初めて出会うような驚きがある。原浩の原作小説を脚本・林民夫と監督・本木克英の強力タッグで実写化した「火喰鳥を、喰う」は、古さと新しさが同居する令和にふさわしいフレッシュなサスペンス映画だ。
信州の自然豊かな村の古い家に、祖父、母と同居する久喜雄司(水上恒司)と夕里子(山下美月)の若い夫婦。太平洋戦争末期に南方の島で戦死した大伯父の遺品の日記が届けられた日を境に、久喜家のまわりで不可解な出来事が相次ぐ。
原作小説は、KADOKAWA(旧角川書店)が主催する横溝正史ミステリ大賞と日本ホラー小説大賞が2019年に統合され横溝正史ミステリ&ホラー大賞となってから、初の大賞を受賞した原浩のデビュー作。かつての横溝正史原作の角川映画群「犬神家の一族」「八つ墓村」を彷彿とさせる地方の村と古い家、暗い過去につながる謎めいた出来事や怪異現象といった舞台設定と導入は、ミステリとホラーという2つのジャンルを統合した同賞にふさわしい趣だ。

ただし、久喜家のまわりで起きる出来事の描写に陰惨さが希薄なのは、まず夫婦役の俳優2人が醸し出す雰囲気によるところが大きい。水上は今年、「九龍ジェネリックロマンス」と本作、そして12月公開予定の「WIND BREAKER ウィンドブレイカー」と主演作が3作も封切られるなど若手人気俳優の地位を固めつつも、本作での穏やかな表情と口調が親しみやすさを感じさせ、緊張を緩和させる効果をもたらす。乃木坂46在籍時から映画とドラマで演技のキャリアを積んできた山下も、2024年にグループを卒業し俳優業に一層注力している印象で、今年出演の映画は「山田くんとLv999の恋をする」と本作、「愚か者の身分」「新解釈・幕末伝」と実に4本。汗ばむような盛夏の村で涼やかに夫の実家に馴染み、異常な状況にも凛とした強さを保つ夕里子を好演している。
本木監督の作風と手腕もまた、令和の新感覚サスペンスの感触とルックを生み出した要因だ。「釣りバカ日誌」シリーズなどの喜劇、「超高速!参勤交代」などの時代劇、池井戸潤原作の「空飛ぶタイヤ」「シャイロックの子供たち」など、娯楽作の大枠で幅広いジャンルを20年以上にわたり手がけてきた監督だが、映画表現の伝統に固執せず時代に合わせたアップデートも認められる。本作でも顕著なのが、人物名とその属性やキーワードを示す文字テロップの使用や、俳優たちの表情をアップでとらえてこまめに切り返すショット。これらの手法は「テレビ的」だとして映画では避けられがちだったが、配信サービスが普及し大小さまざまなサイズの画面に表示される映像コンテンツを、未成年から高齢者まで多世代が視聴することまでを視野に入れれば、大勢にわかりやすい画作りは理にかなった適応かもしれない。

村の景色や久喜家の庭、そして日記の記述から登場人物らが想像する南方の島で日本兵が孤立したジャングルで優勢な緑が、じめっとした感覚を軽減している。また、ある屋内シーンでの青の多用(服や食器の色、壁や家具に映る光)も、涼やかさを演出するだけでなく、怪異が起こり得る異質の世界を示唆するようでもある。
異常事態の謎を解くべく、夕里子が連絡を取った大学時代の先輩・北斗(宮舘涼太)が登場する中盤から、物語は次第に意外な方向へと展開する。ミステリとホラーが交わる妙味が終盤に向けて発揮されていくのだが、詳しくは観てのお楽しみ。映画オリジナルのラストが用意されており、原作を既読の観客にも驚きがあるはず。このラストを含め、日本兵の密林でのサバイバルや、時空と世界が交錯する仕掛けなど過去作に類似する要素もいくつかあるので、鑑賞した人どうしでの意見交換も大いに盛り上がりそうだ。
執筆者紹介

高森郁哉 (たかもり・いくや)
フリーランスのライター、英日翻訳者。主にウェブ媒体で映画評やコラムの寄稿、ニュース記事の翻訳を行う。訳書に『「スター・ウォーズ」を科学する―徹底検証! フォースの正体から銀河間旅行まで』(マーク・ブレイク&ジョン・チェイス著、化学同人刊)ほか。
関連ニュース






映画.com注目特集をチェック

ワン・バトル・アフター・アナザー
【個人的・下半期で最も観たい映画を実際に観たら…】期待ぶち抜けの異常な面白さでとんでもなかった
提供:ワーナー・ブラザース映画

めちゃくちゃ笑って、すっげぇ楽しかった超刺激作
【これめちゃくちゃ良かった】激チャラ大学生が襲いかかってきて、なぜか勝手に死んでいきます(涙)
提供:ライツキューブ

てっぺんの向こうにあなたがいる
【ベスト“吉永小百合主演映画”の話をしよう】独断で選んだTOP5を発表! あなたの推しは何位!?
提供:キノフィルムズ

スパイによる究極のスパイ狩り
【前代未聞の心理戦】辛口批評サイト96%高評価、目を逸らせない超一級サスペンス
提供:パルコ

レッド・ツェッペリン ビカミング
【映画.com編集長が推したい一本】むしろ“最前列”で観るべき奇跡体験! この伝説を人生に刻め!
提供:ポニーキャニオン

酸素残量はわずか10分、生存確率0%…
【“地球で最も危険な仕事”の驚がくの実話】SNSで話題、極限状況を描いた超高評価作
提供:キノフィルムズ

なんだこのかっこいい映画は…!
「マトリックス」「アバター」など数々の傑作は、このシリーズがなければ生まれなかった――
提供:ディズニー

宝島
【超異例の「宝島」現象】こんなにも早く、心の底から“観てほしい”と感じた映画は初めてかもしれない。
提供:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント