【第82回ベネチア国際映画祭】日本勢も大きな存在感 細田守「果てしなきスカーレット」に大喝采、藤元明緒にNETPAC賞特別表彰賞、仏名門校で学んだ畑明広
2025年9月6日 13:00

今年のベネチア国際映画祭はコンペティションこそ日本映画はなかったものの、他部門に骨太で個性的な作品が並び、それぞれ注目を集めた。
海外でも高い人気を誇る細田守監督の新作アニメーション映画「果てしなきスカーレット」は、アウト・オブ・コンペティション部門に入選。細田監督とともに、ヒロイン、スカーレットと、彼女を助ける現代から来た青年、聖(ひじり)の声を務めた芦田愛菜、岡田将生が現地に駆けつけた。レッドカーペットの周辺や正式上映の会場は、細田ファンと見られる多くの若者で混み合い、終映後は10分以上のスタンディング・オベーションとなった。3人は感激した面持ちで、とくに細田監督は自ら周囲の人々に握手をしに回り、観客に感謝の念を伝えずにはいられない、といった様子だった。本作に込められた平和への祈り、そして「他人を、自分を赦す」というメッセージが多くの人々の心に響いたようだった。

オリゾンティ部門に入った藤元明緒監督による日本、フランス、マレーシア、ドイツの合作「LOST LAND ロスト・ランド」は、アジアの優れた映画に与えられるNETPAC賞の特別表彰賞に輝いた。本作はミャンマーと縁の深い藤元監督が、「世界でもっとも迫害を受けている民族のひとつ」と言われるロヒンギャの9歳と4歳の姉と弟が、難民キャンプを脱走しマレーシアを目指す放浪を描く。

「ミャンマーではいまだに彼らのことを語るのはタブーで、僕自身、見て見ぬフリをしてきた罪悪感があり、それが本作を作るきっかけとなりました」と語る藤元監督は、実際にロハンギャの子供を配役し、生々しいドキュメンタリー・タッチで語る。虐げられた声なき人々の願いを届ける本作に、ほぼ満席の会場は張り詰めた空気に満ち、終映後は歓声もあがるスタンディング・オベーションとなった。藤元監督は、「体感したことのない熱量が会場に充満していて、映画がしっかりと届いたことを実感しています。主演のふたりはいまも市民権もパスポートもなく、海外に来ることはできない。いつか彼らも皆さんと一緒に映画を観ることができるようになればと思います」と、思いを噛み締めていた。
同部門ではもう一本、純粋にヨーロッパの合作であるものの、長年パリに住み、映画学校の名門FEMISで学んだ畑明広監督の「Le Grand ciel」が披露された。大規模な地域開発による高層ビル建築を手掛ける作業員たちの舞台裏を描く。多くの労働者が違法滞在者であることが多いこの世界では、彼らが不当に安い賃金や社会保険のない立場に甘んじる現実がある。そんな人々のリアルな日常を見つめつつ、不可思議な現象が起こるファンタジーやスリラーの要素も。主演は黒沢清がフランスで自らリメイクした「蛇の道」(2024)に出演したダミアン・ボナール。脱ジャンルの個性的な作品で、観客を魅了した。

畑監督は、「国籍にこだわらない作品を目指したい。FEMIS時代は日本人というだけで、(小津安二郎のように)カメラを低い位置に設定しないのか?などと訊かれることが多かった。自分自身でも一時は、フランスでやり続けるより日本に戻って映画を作った方がいいのか、などと迷う時期がありましたが、いまは自分の居場所を見つけた気がしています」と語り、現地での手応えに満足しているようだった。
純粋な日本映画としての枠組みに縛られず、撮りたいものを実現させ、海外に進出する日本人監督が増えていくのは頼もしい。(佐藤久理子)
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