【第82回ベネチア国際映画祭】社会派作品が目立つコンペティション ホアキン・フェニックスが夫婦で製作参加の「The Voice of Hind Rajab」が高評価
2025年9月6日 09:40

第82回ベネチア国際映画祭で、コンペティション作品が出揃った。下馬評がダントツに高いのは、「皮膚を売った男」(2020)「Four Daughters フォー・ドーターズ」(2023)で知られるカウテール・ベン・ハニア監督の新作「The Voice of Hind Rajab」だ。
ガザで家族と車中にいるところをイスラエルの戦車に襲われ、車内に残された6歳の少女ヒンド・ラジャブが、携帯で赤十字の救急隊に助けを求め続けた実話を、ドキュメンタリータッチで映画化したフィクションだ。実際に赤十字に残った彼女の音声データをそのまま使用し、それ以外の部分を全員パレスチナ人の俳優たちにより映像化した迫真のドラマ。公式上映には、後からエグゼクティブ・プロデューサーに加わったホアキン・フェニックスとルーニー・マーラも参加し、終映後は最長22分のスタンディング・オベーションに包まれた。
続いて評価が高いのは、パク・チャヌクの「No Other Choice」、ギレルモ・デル・トロの「Frankenstein」、キャスリン・ビグロー「A House of Dynamite」。ビグローの作品も、危機迫るドキュメンタリー・タッチで、アメリカに向けてミサイルが発射された情報をキャッチしたペンタゴンが、なんとか落下前にそれを食い止めようと攻防する姿を描く。ほとんどのシーンが軍事オペレーション・センターの室内だが、この監督らしい簡潔なダイナミズムが見られる。
他にもオリビエ・アサイヤス監督がゴルバチョフ以降のロシアを舞台に、未来の大統領となるプーチン(ジュード・ロウ)のアドバイザーとなり、運命を翻弄されることになる主人公(ポール・ダノ)を描いた「The Wizard of the Kremlin」や、フランソワ・オゾンがアルベール・カミュの「異邦人」を映画化した「THE STRANGER」といった見応えのある作品が並んだ。後者は人間の不条理がテーマながら、アルジェリアがまだフランスの植民地だった時代を舞台にしているため、人種差別や大国による搾取など必然的に政治的な問題が背景にあり、今年は社会的テーマの作品が目立つ印象だ。(佐藤久理子)
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