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「ルノワール」早川千絵監督&石田ひかりが思いを馳せる、「少女が大人になる瞬間」【インタビュー】

2025年6月17日 12:00

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取材に応じた早川千絵監督(左)と石田ひかり
取材に応じた早川千絵監督(左)と石田ひかり

第78回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出された、早川千絵監督の最新作「ルノワール」が6月20日から全国で封切られる。日本、フランス、シンガポール、フィリピン、インドネシア、カタールの国際共同製作作品として完成させた早川監督と、主人公の少女・フキの母親役に扮した石田ひかりに話を聞いた。(取材・文/大塚史貴、写真/根田拓也)

カンヌでは最高賞のパルムドールに強く推す声があがるなど、熱い視線が注がれた本作は、1980年代後半の夏を舞台にした、闘病中の父と仕事に追われる母と暮らす11歳の少女・フキの物語。マイペースで想像力豊かなフキは、空想にふけりながら、それぞれに事情を抱えた大人たちと触れ合う。子ども特有の感情を細やかに描写すると共に、フキが関わる大人たちの人生のままならなさ、人間関係の哀感を温かなまなざしとユーモアを持って描いている。

画像2(C)2025「RENOIR」製作委員会+International Partners
■バブル経済真っただ中の80年代後半を舞台にした意図

子どもを主人公にした映画を撮りたいという思いが、早川監督には以前からあったそう。それは、早川監督の父ががんを患っていた体験を元に、家族の物語を描きたいと考えていたからだ。映画の内容は実体験ではなくフィクションだが、子どもの頃に父が入院する病院へ通った日々が強く印象に残り、それを映画にしたいという思いを募らせていたという。そのうえで、現代ではなくバブル経済真っただ中の80年代後半を物語の舞台に設定した意図を聞いてみた。

早川監督「この映画のモチーフのひとつとして、フキが伝言ダイヤルを聞くという描写があり、そこはどうしても外せない要素だったので必然的に80年代という時代設定にしました。ただ撮影をし、編集していく段階で80年代を舞台にしたのは大きな意味を持っていたなと後から気づいてきたことでした。あの時代特有の雰囲気とか、今とは全く違う価値観は、この映画の中でものすごく重要な役割を果たしてくれていると気づいたんです」

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早川組に初参加となった石田は、第75回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に選出された早川監督の前作「PLAN 75」を公開初日の初回上映で鑑賞したという。早川監督の紡ぎ出す作品世界のどこに、石田の心の琴線が触れたのだろうか。

石田「『PLAN 75』は高齢者が生きづらくなっているこの日本で、75歳以上の高齢者に安楽死する権利(通称・プラン75)が認められるような時代がひょっとして来てしまうのではないか……というリアリティと、皆さんのお芝居、監督の演出すべてが衝撃的でした。もっと激しく強めの方なのかなと思っていたのですが、お会いしてみたら植物のように静かな方で驚かされましたし、そこがまた魅力なんだと思います。そして1作目の『PLAN 75』と2作目の今作、全く違う作品を撮られたことに、私は大変感動しているんです」

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石田ひかりの怒った顔がすごく魅力的

一方の早川監督は、石田扮する詩子は作品の中で常に不機嫌な顔をしているので、怒った顔が魅力的な役者にオファーしたいと考えていたことを明かしている。「石田さんは、眉を寄せた時の表情に情緒があって、怒った顔がすごく魅力的なんです。私は中学生の頃に見た石田さんと岡本健一さんが主演の『あいつ』という映画が大好きで、明るく柔らかなパブリックイメージとは異なる魅力を感じていました。最近のドラマでは優しいお母さん役が多いですが、今回は新たな母親像を演じていただきたいと思いました。今回の撮影を経て、石田ひかりさんはやっぱり映画女優だ!と改めて感じました」。

画像5(C)2025「RENOIR」製作委員会+International Partners

原作ものではない企画が成立し難い現代の映画界で、2本続けてオリジナル作品を成立させたことは意義深い。前作と異なり、作品の根源にはない「ルノワール」というワードを作品タイトルに据えた真意を早川監督に聞いてみたところ、穏やかな面持ちで語り出した。

早川監督「今回は出来るだけ意味づけや説明から離れたところから映画を作ってみたいと思っていたんです。『PLAN 75』はコンセプトも明確で、なぜこういうストーリー展開なのかを言葉で説明出来る作品でした。今回は、自分でも分からないけれど感情に訴えかけるような、感情が動く映画を撮りたかったので、タイトルもストーリーとは関係のないものにしたいと考えていました。

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その中で『ルノワール』というタイトルはすごく覚えやすいですし、大きくストーリーとかかわりがあるわけでもない点も良いと思いました。ルノワールのレプリカ絵画って私が子どもの頃に人気があって、煌びやかなフレーミングを施した印象派の絵画がよく売られていたんです。新聞に通販広告が出ていたりして。そういった西洋の文化に憧れる気持ちや、ニセモノを飾って満足してしまうある種、無邪気なところがあの時代の日本を象徴しているように感じて、そんな空気に満ちた80年代に対する郷愁のようなものがタイトルに込められています」

■主演・鈴木唯は「誰とでも仲良くなってしまう不思議な子」

今作を語るうえで、主人公のフキ役を担った鈴木唯の存在は必要不可欠だ。好奇心旺盛かつ多感な年ごろの繊細さを絶妙に体現していたが、カンヌでも審査委員長のジュリエット・ビノシュに「演技する時に心がけていることは?」と質問するなど、強心臓ぶりを披露。ふたりにとっては、撮影現場でどのように映っていたのか聞いてみた。

早川監督「自由人ですね(笑)。フキはいつもどこかにちょろちょろ行って、『あれ? フキがいない!』と探すと、お風呂の浴槽の中に隠れていたり(笑)。天真爛漫で、誰とでも仲良くなってしまう不思議な子でしたね」

石田「興味を持ちだしたら、もう気になってしょうがないって感じでしたね。現場には、彼女が見たことがない80年代のお菓子が目の前にあるわけです。美術が気になって仕方がない感じで、よく怒られていましたね。『これ食べてもいい?』『ダメ! お願いだから触らないで。繋がりがあるから』って。そういうところは本当に子どもでしたね。でも、それでいいと思います。こっそり1個や2個、持って帰っていたんじゃないかな(笑)」

画像7(C)2025「RENOIR」製作委員会+International Partners

早川監督「そういえば、石田さんと唯ちゃんが最初にふたりで会ったとき、ちょっとリハーサルをしてみたのですが、『演技上手いね!』って言われていましたよね(笑)」

石田「そうそう、カットがかかった瞬間に『上手いねえ!』って。彼女の自由さに圧倒されっぱなしでした」

鈴木について語る際のふたりは、撮影時の情景が浮かぶようで笑みを崩さない。今作に主演したことで、最も成長した部分をどう捉えているのだろうか。

早川監督「40日近くも撮影に参加するって、大変なこと。主役としてのプレッシャーもあったでしょうし、体調を崩したらいけないという思いも持っていたと思うんです。その点を11歳の女の子が担えるのか、当初は心配していましたが全くの杞憂に終わりました。彼女はすごく責任感を持って臨んでくれていたので、そのこと自体が大きな成長ですよね」

石田「今後の彼女の人生に影響してくることだと思います。彼女が、このひと夏の体験を人生にどう反映させていくのかを見守りたいですね。この時間を忘れないでほしいし、今後も俳優を続けていくとしたらどれだけ作品、スタッフに恵まれていたのか、いつか気づくはず。今はそこまで分かっていないと思いますが、この幸運に気づいた時、彼女がどう感じ、意識を変えていくのかを、私はとても楽しみにしています」

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早川監督「石田さんが初めて映画に出演されたときのことを、思い出したりしましたか?」

石田「全然なかったですね。現場の雰囲気も、年齢も違いましたしね。私は高校3年生で、大林宣彦監督の『ふたり』という作品が初めての現場。ある意味、大林組という出来上がった世界で『今回はこの子です!』という感じで組み入れられた印象でしたから」

■少女時代の早川監督&石田ひかりが、少し「大人になった」瞬間は?

今作を説明するうえで、「うれしい、楽しい、寂しい、怖い。そして、“哀しい”を知り、少女は大人になる。」というコピーがある。この「“哀しい”を知り、少女は大人になる」のだとしたら、ふたりにとってはどのような経験、どのような局面であったのかに思いを馳せてもらった。

早川監督「すごく小さなことなんですが、哀感というものを感じたのは……、子どもの頃って父親は完璧な大人というか、万能な存在に見えるじゃないですか。そんな父が公園で一緒に遊んだ後、疲れてぐったり座り込んだ姿を見た時に、父の老いを初めて感じて切なくなったのを覚えています。

そのことを中学に挙がってから友人に話した時に、「その感覚分かる!」と共感されたんです。当時自分が言語化できなかった、誰に言うでもなく心にしまっていた出来事を友人が理解してくれたことがすごく嬉しかったんです。人間の哀切のようなものを感じ取ることができた自分が、少し大人になったような気がしたのを覚えています」

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石田「20歳の時に祖母を亡くしたのですが、それまで人の死に直面したことがなかったんです。その時に、人ってある日突然いなくなるんだ……って。元気な人だったのでもっともっと長生きすると思っていたのですが、84歳で倒れてしまって、両親はもちろん年長の親族の誰もが悲しんでいる姿が印象的で、祖母が亡くなったあの日のことは忘れられません。

私が出演していたNHK連続テレビ小説『ひらり』があと2週間で最終回、というところで亡くなったんです。何の因果か、亡くなるちょっと前に祖母から『最終回のお話を教えて欲しい』って言われたんです。『内緒だよ?』って言いながら説明したのですが、どうやら亡くなった時間も『ひらり』を見終わったくらいの時間だと言われているんです。教えておいて良かった……と思いましたし、会いたい人には会える時に会っておいた方がいいなと思いました」

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執筆者紹介

大塚史貴 (おおつか・ふみたか)

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映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。

Twitter:@com56362672


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