映画会社ではない“あの超有名企業”が、映画を本気で製作・配給…なぜなのか? “感動への尋常じゃないこだわり”を取材してきた
2025年6月12日 20:00

auなどで知られるKDDIが、映画を製作・配給していることをご存知だろうか?
映画会社ではない企業が「製作委員会」(複数の会社による共同出資)を通じて映画製作に参加することは一般的だが、「単独での製作」や「配給」となると非常に珍しい。KDDIは2021年に中川大志主演「Funny Bunny」を製作、23年には東出昌大主演「Winny」を配給し、業界内で大きな話題となった。
同社の配給最新作は、6月13日公開の「ラブ・イン・ザ・ビッグシティ」。試写会でひと足早く鑑賞した観客から「今年度上半期No.1」「こんな映画が観たかった」「今年のベストがまた出てしまった」「愛しくて愛しくて涙が止まらん」「大切な人に“ありがとう”を伝えたくなる、心に響く名作」など、多くのアツい感想が伝えられている注目作だ。
しかし、ここで疑問がうかんでくる。一口に「KDDIが映画を製作・配給」「最新作は韓国映画の配給」と言っても、
気になる事柄を知るために、同社映画事業の中心人物である金山(キン・サン)氏にインタビュー取材を実施。「なぜKDDIが映画を?」という素朴な疑問からスタートしたが、話を聞くうちに「映画業界の未来を切り拓く」壮大なビジョンが見えてきた。
本題の前に、KDDIの映画製作・配給の歩みと、金山氏の経歴を簡単にご紹介しよう。

・2010年にKDDIが映画「ゴールデンスランバー」に出資し、これを皮切りに映画事業を本格化。ほか出資作は「花束みたいな恋をした」「犬鳴村」など。
・2021年に映画「FUNNY BUNNY」が公開。同作はKDDI初めての単独での製作出資作品である。映画館での公開と、KDDIが提供する定額制サービス「Pontaパス」(当時のサービス名はauスマートパスプレミアム)での配信の同時リリースという、異例の封切りとなった。
・2022年、「KDDI Pictures」を立ち上げ、映画の製作・配給を本格的に開始。
・2023年に映画「Winny」が公開。KDDIにとって初の劇場映画配給となった(ナカチカと共同配給)。
・2024年に韓国映画に特化したレーベル「Kシネマ」を立ち上げ。「aespa: MY First Page」や「満ち足りた家族」を配給(ともに日活と共同配給)。
・2025年5月、KDDIと韓国の大手映画配給会社「Plus M Entertainment」が、日本と韓国での映画共同マーケティングにおけるパートナーシップを締結。両社作品の相互配給および同時公開など、日本における韓国映画の供給を強化。
・2025年6月、韓国映画「ラブ・イン・ザ・ビッグシティ」を劇場公開。日活とKDDIの共同配給で、250館という、近年の韓国映画としては異例とも言える大規模公開となる。

KDDI株式会社 パートナー事業本部 サービス・商品本部 サービス戦略部 エキスパート。日本への留学を経て、2003年に同社へ入社。EZwebの営業開拓や電子書籍事業、ワンセグ事業などを担当し、2010年ごろに映画の出資事業を立ち上げる。映画鑑賞料金の割り引きなどを特典とする「Pontaパス」(旧・auスマートパスプレミアム)を含めKDDIの映画事業を推進し、上記の「FUNNY BUNNY」「Winny」などでプロデューサーも務めた。

さて、本題だ。KDDIが映画を製作・配給していることは、映画ファンにとっても意外な事実かもしれない。しかし、邦画や洋画、アニメなどさまざまなジャンルがあるなかで、直近では韓国映画に特化したレーベル「Kシネマ」を立ち上げるなど、“韓国映画の配給”に狙いを定めている理由とは何か?
聞くと、KDDIの映画事業を立ち上げた金氏は、実に興味深いことを語ってくれた。

実際、韓国発のポップカルチャー(いわゆるKカルチャー)は日本においても非常に高い人気を博している。音楽やアイドル、コスメ、グルメをはじめ、Netflixなどの配信サービスやテレビ放送を通じた韓国ドラマも活況をみせ、特に若年層や女性ファンが多く熱中している印象だ。
にもかかわらず、「韓国映画だけが盛り上がっていない」と金氏は指摘する。

一方で「なぜ男性向けの韓国映画ばかりが劇場公開されるのか」という疑問もわいてくる。金氏は「日本における韓国映画の展開は効率化されている」と言及する。

拡大するKカルチャーのファンを映画館へ呼び込むためには、そうした“韓国映画の効率化されたサイクル”に取り組むのではなく、思い切った大規模公開に踏み切らなければ、というのが金氏の考えだ。
それにはリスクが伴うし、広く宣伝・広告する予算や体力も必要となる。だから「大手が参入すべきだと考えています」と金氏は言う。

さらに金氏は、「これだけ消費するお客さんがいるなかで、お金を使うならば私は『映画に使ってほしい』と思うんです」とも語っていた。
ここで次の疑問がわいてくる。Kカルチャーのなかでも、すでに盛り上がっているコスメや音楽、ドラマではなく、なぜわざわざ“盛り上がっていない”とわかっている映画や映画館に注力するのだろうか?

また、金氏がKDDIの映画事業を本格化させたきっかけには、彼自身の体験が深く関わっている。

さて、そうした思いをもって劇場公開される「ラブ・イン・ザ・ビッグシティ」(6月13日)は、繰り返しになるが250館という大規模公開。果たしてどのような興行になるか、目が離せない……金氏は同作の成功に全力を注ぎながらも、チャレンジの歩みを止めていない。
観客の鑑賞体験に強く影響する“字幕”や“吹き替え”についても、追求に追求を重ねる予定だという。

たとえば20代の心情を描いた作品であれば、20代の人々が実際に使う表現が字幕になっていたほうが、没入感を損なうことなく感動できる。理にかなっているが、言われてみれば「その発想はなかった」とハッとさせられる、意外な視点だ。
徹底した消費者視点と感動への情熱で、“感動させるためには何が必要なのか”というロジックをひとつひとつ積み重ねる。そこに「映画業界のど真ん中にいる人間ではないから」生じる発想を加え、金氏は従来の映画業界の常識を覆さんばかりに進み続けているようにみえた。
この先のビジョンにもいくつか質問をしてみると、「映画館は進化しなくちゃいけない」とヒントを示してくれた。その言葉を可能な限りお伝えしよう。


――KDDIとして、金さんとして、ゆくゆくは映画館を手がけるビジョンがあるのでしょうか?

最後に、今後のKDDIピクチャーズや、6月13日公開「ラブ・イン・ザ・ビッグシティ」をはじめ韓国映画配給の挑戦について、展望を聞いた。

執筆者紹介
尾崎秋彦 (おざき・あきひこ)
映画.com編集部。1989年生まれ、神奈川県出身。「映画の仕事と、書く仕事がしたい」と思い、両方できる映画.comへ2014年に入社。読者の疑問に答えるインタビューや、ネットで話題になった出来事を深掘りする記事などを書いています。
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