【「ノスフェラトゥ」評論】ムルナウ版にはない「音」が恐怖を補完する
2025年5月18日 18:00

1838年の北独ウィスブルク。新婚の不動産業者トーマス・ハッター(ニコラス・ホルト)は土地取引を命じられ、カルパティア山脈の奥域にある古城の主人・オルロック伯爵(ビル・スカルスガルド)のもとを訪れる。しかしハッターに課せられた真の役割は、この忌まわしき存在を、全土に放つ触媒となることだった。いっぽう彼の帰りを待つ妻エレン(リリー=ローズ・デップ)は、そんな夫の危機に感応するかのごとく、伯爵が送り出す幻像に呑まれていく…。
F・W・ムルナウが1922年に発表したサイレント映画「ノスフェラートゥ:恐怖の交響曲」(a.k.a「吸血鬼ノスフェラトゥ」)は、作家ブラム・ストーカーの古典小説「吸血鬼ドラキュラ」の非公式な潤色ながら、本家と伍するヴァンパイア・ストーリーとして評価が高い。ドイツ表現主義を活かした独特のゴシックスタイルや、ノスフェラトゥこと吸血鬼オルロックの禍々しき存在感など、その容姿は「ブレイド2」(2002)の吸血族リーパーズや、「アイ・アム・レジェンド」(2006)の変異体ダークシーカーなどに受け継がれている。
本作はそんな影響力ある名編をベースに、賢才ロバート・エガースが魔女伝説をリアルに定義したデビュー作「ウィッチ」(2015)や、ヴァイキングと北欧神話を漆黒に染め上げた「ノースマン 導かれし復讐者」(2022)と同様、リアリスティックな変換を成功させている。
呪縛にとらわれた女性と、彼女に迫らんとするオルロックの執着が、戦慄の事態を引き起こす—。そんなオリジナルが示した怪奇を、より沈むような闇で醸成させた本作からは、近年に遭遇したことのない、おぞましい雰囲気を感じることができる。特に不気味なのはリリー=ローズ・デップが披露する演技で、その狂気と憑依ぶりは、劇場内の空気が一転するのを肌で察するレベルだ。もう誰も彼女を軽々しく「ジョニー・デップの娘」呼ばわりしなくなるだろう。
加えてムルナウ版にない不穏な「音」が恐怖を補完し、映画は物語や演出でオーディエンスを震え上がらせる以上に、作品全体から得体の知れない邪悪さがノイズと共に滲み出ている。またビジュアルにおいても、19世紀絵画を思わす筆致が、文明化された東欧に土俗的な異物が浸透していく不可知な感覚を正当づける。
ネズミの大群を媒介に、オルロックがもたらす疫病の蔓延は新型コロナウイルス感染拡大を思わせ、我々はこの映画から、パンデミックがもたらす社会混乱や人間関係の分断などへの追考をうながされていく。古典の精神を現代に伝えるのがリメイクの役割ならば、本作は充分、その務めを果たしている。
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