山下達郎の生涯ベスト映画は? 「運命の出会いでした」 【あの人が見た名作・傑作】
2025年3月28日 11:00

映画を見に行こうと思い立ったとき、動画配信サービスで作品を鑑賞しようとしたとき、何を見れば良いのか分からなかったり、選択肢が多すぎて迷ってしまうことは誰にでもあるはずです。
映画.comで展開する企画「あの人が見た名作・傑作」は、そんな皆さんの映画選びの一助として、映画業界、ドラマ業界で活躍する著名人がおすすめする名作、傑作をご紹介するものです。第30回は、日本を代表するシンガーソングライターの山下達郎さんです。

「昭和100年映画祭 あの感動をもう一度」42作一挙上映のうちの1作、「人情紙風船」です。
1985年、雑誌BRUTUSで連載されていた蓮實重彦さんのコラムに「人情紙風船」が取り上げられていて、何気なしにレンタルビデオで借りて、それが私の30代で最大の衝撃映画となりました。さらにその直後、アテネ・フランセにて山中貞雄の現存する映像を全て上映するイベントが1週間にわたって開催され、通い詰めた私はそれ以後、戦前日本映画の泥沼にどっぷりとはまって、現在に至ります。運命の出会いでした。

両親が映画好きで、幼少より洋邦問わず数多く見てきました。戦後の日本映画で、巨匠といわれる監督の作品に充満する、啓蒙というか説教というか、問題意識の押し付けに息苦しさを覚えていた私は、「人情紙風船」を見て、そうだよ!これが俺が見たかった映画なんだよ!と叫んだのでした。乾いた視点。お涙頂戴でも感動物語でもプロパガンダでもない、冷静・柔和かつ冷徹な人間洞察。だからこそ、シーンのひとつひとつに胸が震えるのです。
雨上がりの朝空に暖簾が揺れる冒頭のシーン。通夜のドンチャン騒ぎ。夜店の夕立。雨に濡れて立ちすくむ海野又十郎。戦前の日本にこんな美しい映画があったのか! 以来、上映告知があるたびに映画館に足を運んでいます。ビデオでも何回見たことか。小津をはじめ、伊藤大輔、衣笠貞之助、稲垣浩……それまでの私の好きな監督たちは全員、戦前からのカツドウ屋だと認識してからは、戦前の文化にどんどん没入していきました。その結果、若いころ私が学ばされた近現代史には、実はかなりの嘘が混じっていると気付かせてもらいました。そのきっかけこそ、山中監督のこの作品です。
山中貞雄監督の作品に限らず、当時の映画評論家や新聞記者たちのインテリ然とした上から目線の論評を見るにつけ、ああ、今も昔も同じ、何も変わっていない、だから気にすることはないのだ。ノイズに惑わされず自分の心に忠実に進めばいいのだと、教えてもらいました。

妥当なところだと思います。映画は総合芸術なので、優れた脚本、映像の美しさ、革新性、娯楽性等々、それぞれまんべんなく選ばねばなりませんから。
こんなにゴタクを並べておいて申し訳ありませんが、基本的に、この種の自分の感動を人と共有したいとは思いません。人によってはつまらないとおっしゃる方もおられるでしょう。解っていただこうとも思いません。ひとりでしみじみしているだけで十分です。
わずか28歳で戦病死した昭和初期の名監督・山中貞雄の遺作となった人情時代劇。歌舞伎の演目として知られる河竹黙阿弥原作「髪結新三」の映画化だ。舞台は江戸時代、貧乏長屋で暮らす髪結いの新三は、個人で賭場を開いてヤクザから目をつけられる。そのため金に困った新三は、髪結いの道具を質屋に持ち込むが断られてしまう。一方、新三と同じ長屋に住む浪人・又十郎は、かつて父が世話した侍・毛利に仕官を頼むが全く相手にされない。ある日、偶然から質屋の娘を誘拐した新三は、娘を長屋へと連れて帰るが……。
配給大手・東映最後の直営館で、7月27日をもって閉館を迎える丸の内TOEIで「昭和」の時代を彩った名作・ヒット作42本を一挙上映する企画。期間は3月28日~5月8日。今回の特集上映で特筆すべきは、東映のみでなく松竹・東宝・KADOKAWA・日活をはじめとした配給会社・制作プロダクション・テレビ局・出版社に協力を得、配給会社の垣根を超え当時記録的なヒットを飾った、もしくは輝かしい映画賞を受賞したなど「昭和」を代表する作品がラインナップされている。入場料金は「一般1500円、学生以下1000円」。
執筆者紹介

大塚史貴 (おおつか・ふみたか)
映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。
Twitter:@com56362672
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