人情紙風船
劇場公開日 1937年8月25日
解説
わずか28歳で戦病死した昭和初期の名監督・山中貞雄の遺作となった人情時代劇。江戸時代。貧乏長屋で暮らす髪結いの新三は、個人で賭場を開いてヤクザから目をつけられる。そのため金に困った新三は、髪結いの道具を質屋に持ち込むが断られてしまう。一方、新三と同じ長屋に住む浪人・又十郎は、かつて父が世話した侍・毛利に仕官を頼むが全く相手にされない。ある日、偶然から質屋の娘を誘拐した新三は、娘を長屋へと連れて帰るが……。歌舞伎の演目として知られる河竹黙阿弥原作「髪結新三」の映画化。
1937年製作/86分
スタッフ・キャスト
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2021年7月25日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル
貧乏長屋に住む髪結はヤクザに睨まれても、懲りずに小遣い銭稼ぎをしている。
一方、浪人は父が世話した役人に仕官を頼もうとするが相手にされない。
ひょんなことから髪結が起こした誘拐事件が浪人の運命を変えてしまう。
死ぬのは武士だけ。
2021年3月3日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル
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新三は金のために賭場を開いていたため、この町一帯を牛耳っていたヤクザ弥太五郎源七に狙われていた。なんとも愛嬌のある新三。歌舞伎狂言「髪結新三」を元にした作品。この映画の封切り当日に山中監督に召集令状が届き、中国で帰らぬ人となった。
新三の憤りもさることながら、冒頭から始まる浪人の生活苦は、侍ではあるけど、一般庶民の生活苦と違いはない。なにしろ侍が自殺するといったら、普通は切腹であるはずなのに、刀さえも売り払ってしまったら首つりしか手段は残されてないのだ。さらに、権力に屈することない反骨精神を新三と又十郎で描いている。誘拐とは言え、金のためではない。白子屋という質屋の娘が家老の家に嫁ぐことを知って、白子屋と繋がりのある源七が謝りに来るのを待っていたのだ。結局は大家が金で解決させたが、この金のためではないことに庶民の心意気を感じてしまう。
一方、又十郎は彼の父親が仕えて出世させた毛利の家へ何度も訪れるが門前払い。士官のためとはいえ、かなりの屈辱を味わされた。しかも、ヤクザを使って追い返されたのだ。それでも武士らしく、手荒なことはしない。長屋に帰れば、妻が文句も言わず、紙風船作りの内職をこなしている・・・
白子屋の娘を返してしまったら、今度は自分の命が危ない。それでも決行した新三。又十郎にしても、その娘お駒は毛利が縁談の世話をしていることに気付いていたため復讐の意味もあったのだ。大家が金を取りたてたおかげで、長屋ではまた宴会。しかし、実家から帰ってきた又十郎の妻は夫を刺し、自分も死んで心中として扱われた・・・新三も夜道でヤクザに襲われる(多分死亡)。紙風船が雨の降った後の水たまりを流れる様子が妙に悲しくさせる。
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貧乏長屋に暮らす庶民たち、ある朝そこに住む老いた浪人が首をくくって死んだと知り、ボンクラな住人たちは迷惑そうに言い合う「なんで首を? 侍なら腹を切るもんだろう」「バカ、あいつが腰にぶら下げていたのは竹光だよ」と(大意)。
一撃で作品全体の世界観が伝わるセリフ。なんつう脚本。不勉強にして歌舞伎の元台本の時点であるのか知りませんが、とにかくうますぎる。。
この会話から、洒落者の髪結い新三と、清貧を地でいく浪人の又十郎を軸に、町人と侍、やくざ者とが絡む悲喜劇が展開していきます。
画づくりはきわめてモダンで、このまま舞台だけを現代の東京に移しても、たぶんまったく古さを感じず、普通に観られるな、という印象。
80年も前の作品のはずなのに、違和感のなさにむしろ違和感を覚えるレベル。
冒頭から、なんでこんなにしっくりくるんだろう? と驚く間もなくドラマに引き込まれました。スピルバーグか。
ストーリーはあまりに身近でやるせなく、でも湿っぽくなく切れ味鋭い。みんな貧乏のせい。
こんなに身につまされるのは、製作された昭和初期が、大恐慌のあおりを受けて現代の日本と似たような世情だったからかも知れません。
追い込まれていく住人たちがだんだんスイミーに見えてくる、お江戸版「万引き家族」。
個人的に又十郎を冷たくあしらう毛利様の言い回しに、我らが首相を連想しました。
映像や音は観られないレベルではないものの、痛んではいますので、今回の4Kリマスター版のように修復を経て、カジュアルに鑑賞されるといいなと思います。
ぜんぜん小難しいところはなく、オーソドックスで普遍的なドラマなので。
これを20代で作った山中貞雄監督は若くして天才と呼ばれたそうですが、今回そりゃ誰だってそう言うよ、普通にと思いました。
オーバーテクノロジー的な映像リテラシーの高さは一体どこから…?
きっと私が知らないだけで、戦前の映画文化はずっと豊かだったということでしょう。
そういう人たちも、才能の芽も、生まれていたかも知らない文化的財産も、あの戦争に数えきれないほど飲み込まれてしまったんだな。
人情紙風船という話を作りたいのだったら・・・相手に人情さえあればこの人は幸せになれたのに・・・という話を書かなければダメだ。サムライにしてもヤクザにしても番頭にしても彼らがどういう事情を抱えているのか全く書かれていない。なにか難しい事情があって親切にしたくてもできないかもしれない・・・と思ってしまう。それじゃあ人情紙風船にならない。娘を人質にしてどうするというクライマックスも実に中途半端。娘を返す条件に自分の賭博場を持つ許可を交渉すればいいじゃないか。上納金はちゃんと払うからって。あ、そうだと思いついてついでに浪人さんの就職も条件に出すとか・・・そうするとその一言が意外な仇になって・・・などともっと練りこめば面白くなっていたんじゃないだろうか?この映画は脚本家が楽をしすぎているように見える。傑作というよりは、むしろ失敗作だと思う。
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