橋本愛&中川大志 “同志”のような気持ちで臨んだ、恋に人生に葛藤する不器用な2人の愛憎劇
2025年3月19日 11:00

橋本愛と中川大志。共に10代の頃からこの世界に身を置き、いまでは第一線で次々と話題の作品で活躍する同世代の2人だが、意外にもこれまで共演経験はゼロ。そんな彼らが、大学のサークルでの出会いをきっかけに惹かれ合い、“腐れ縁”とも言える10年に及ぶ愛憎劇を繰り広げる男女を演じる映画「早乙女カナコの場合は」が公開された。
原作は「ナイルパーチの女子会」、「ランチのアッコちゃん」、「BUTTER」など話題作を世に送り出している作家・柚木麻子の小説「早稲女、女、男」。「ストロベリーショートケイクス」「スイートリトルライズ」「さくら」などの恋愛映画を手掛けてきた矢崎仁司がメガホンを握った。
10年にわたる物語の中で、恋に人生に葛藤し、思い悩み、走り続ける不器用な2人を演じた橋本と中川の胸に去来したのは――?(取材・文・写真/黒豆直樹)

そこに出てくる女の子たちが、傍から見たらすごくキラキラしていたり、自信にあふれているように見えても、内面にはいろんなドロドロとしたものが渦巻いているのを柚木さんは容赦なくえぐって書き出しているのがすごく好きでした。
例えば見た目のテイストは全然違うけど、麻衣子ちゃんにすごく感情移入したり、全ての登場人物に自分と重なるところがあって、それが映画でも立体的に描けたんじゃないかなと思って、すごく嬉しかったですね。

小説でもそうですけど、カナコってアンカーなんですよね(※小説の最終章のタイトルが「早乙女香夏子の場合」でカナコの視点で進む)。いろんな人たちがそれぞれに自分の着地点を迎える中で、カナコは最後に走って、走って、走り切る。
亜依子さん(臼田あさ美 /カナコの出版社での先輩で、実はカナコにアプローチする吉沢の元カノ)からは、カナコがエンパワメントされるし、逆に麻衣子ちゃん(山田杏奈/長津田に片思いする女子大生)のことはカナコがエンパワメントして背中を押す存在であったりもする。それはカナコがずっと悩み続けながらも輝いていて魅力的で、他人にエネルギーを与えられるような人間であるということで、それを自分がちゃんと表現できるのか? という部分は、現場でもずっと考えていました。
そういう映画としてのフィルターはありますが、そこで描かれていることは、決して特別な物語ではなくて、現実の世界とちゃんと地続きだなと感じましたし、そこは大事にしたかったところです。


その生き方に共感できるところがたくさんあって、自分にも身に覚えのある感覚だったし、そこはすごく大事にしていました。
男性に対して、そんな思いを持っているカナコがなんで長津田に惹かれたのか? それは、言葉では説明されてはいませんが、原作にはないシーンとして、矢崎さんが書かれたのが、2人がダンスするシーンなんです。あのシーンは、映画的言語として詩的なものが立ち上がってくるところで、カナコの実感としては、ダンスをする時って手を取り合って体が触れ合うじゃないですか。そんな時に長津田だけは、自分に対してそういう(性的な)ニュアンスを一切感じさせることがなかったのかなと。そんなふうに感じたのは、たぶん人生で初めてで、後にも先にも長津田以外にはいなかった。そこが一番大きな存在だったんだなと思いました。
なのに、こんなうだつの上がらない男で……(苦笑)。でも、だからこそというところもあって、本当に悩みは尽きなかったと思うんですけど(笑)。
監督がどういう意図でダンスのシーンを入れたかはわからないんですけど、演じている自分の実感としては、そのシーンで全てを語っているなっていうふうには、後から発見して「おぉっ!」となりました。

でも、あとから考えて見ると、確かにあの時、自分の中に流れ込んでくるものがあったんですよね、“触れる”ということで。(映画を観て)そういうことだったんだ! と閃きました。
現場に入ってからは、近くでずっとお芝居を見ていましたね。カメラの真横か真下にいました。



答え合わせをするんじゃないんですよね。監督自身「僕を正解と思わないでほしいし、僕も現場に入ってみないとわからないし、やってみてもわかったり、わからなかったりするから」とおっしゃっていて、正解ではなく、一緒にひとつの答えを導き出すという感じで、それは私にとってもすごくやりやすかったです。

でもそこで、僕の勝手な感覚ですけど、橋本さんとはそういうセンサー、アンテナみたいなもの、台本から拾ってくる情報とか、感覚、感性みたいなものが、共有できているような、近しいものがあったのかなと感じています。
お芝居もね、初めて会った人と会話をするのと一緒で、感覚がフィットするか? それともずれを感じるのか? というのがあって、決して橋本さんとは現場で多くのことを語ってはいない…というか、役やシーンについて話したことはほとんどなかったんですけど、そこは安心感があったんですよね。
お芝居の面で言うと、長津田のセリフって、ちょっと悦に入っているというか、どこか何かを演じているような――長津田自身にとっては素直な言葉ではあるんですけど――傍から見ると少し浮いているような言葉選びだったりするんです。でも、中川さんから発せられる言葉というか声が、とても生々しくてリアルで「嘘じゃないな」という感じがあって、たとえ嘘をついていたとしても、本音が言葉に乗っている感じがして、それがすごかったです。
だからこそ、長津田が「変なやつ」で終わらないんだなと。ちゃんと人間味があって、生活感もあって、生きているひとりの人間なんだなというのがあって、カナコもそこで興味がわいて、惹かれていったのかなっていうのはすごく感じました。

それはそういう道を作ろうと思ってやってきたわけじゃなくて、あくまでもひとつひとつの作品を積み重ねて、繋いでみたらこういう道になったんですけど。
誰かと比べるよりも、シンプルに自分がその時にやりたいこと、心が動いたことに変なプレッシャーとかを気にせずにやれるようになったのかなというのはありますね。
そういう実態をお話しすると、幻滅されるような空気感にも何度か遭遇したんです。なので、期待されているイメージに「ならなきゃいけないのかな?」って、まさに自分らしさと世間の目のギャップにずっと葛藤してきた日々でした。
でもいまは、カナコと同じように「自分はこう見られているだろうな」とか「自分はこう見られたいな」というふうに、あえて自分をカテゴライズして、そこに当てはめることで居場所を獲得するみたいなところもありつつ、じゃあ、そこが本当に自分にとって居心地の良い場所か? と言われたら、そうではないっていうことにも気づいてしまうところもあって。
そこで、ふと気づいたのが、“自分らしさ”というのは、ひとつじゃないってことですよね。自分の中に、いろんな人格があるし、その子たちは繋がってるようで、全然繋がってなかったりして「これが私です!」って言えないんですよね。
逆に何が言えるのか? 「これだけいろんな人格があって、これだけの多面性を持った自分が自分です」としか言いようがないんです。でも、そう思えるようになって、自分がどう思われてもしょうがないな、と良い意味でどこか潔くあきらめられるようになって、生きやすくなったと感じています。
(C)2015 柚木麻子/祥伝社 (C)2025「早乙女カナコの場合は」製作委員会
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