「空青」長井龍雪監督が故郷・新潟で語る自身のキャリア、アニメーション監督を目指す若い世代へのアドバイス
2025年3月17日 18:00

新潟市で開催中の第3回新潟国際アニメーション映画祭の「世界の潮流:新潟とアニメーション」部門で3月17日、新潟出身の長井龍雪監督の「空の青さを知る人よ」が上映された。上映前には長井監督が新潟日報メディアシップ日報ホールで、自身のキャリアを振り返るマスタートークに登壇した。
新津市(現・新潟市秋葉区)出身の長井監督。「早生まれで体も小さかったのでインドア」なタイプだったと幼少期を分析。少年時代、新潟で早朝に再放送されていたアニメ番組がアニメーションへの興味のきっかけとなり、「『ベルサイユのばら』とか濃いのが朝からやっていたし、夏休みの『ガンダム』の再放送、富野由悠季さんの『Ζガンダム』も帯でやっていたので、刷り込まれた感じ」と振り返る。
しかし、「絵を描くのは好きで漫画家にはイメージがあったけれど、そんなに絵も上手くなかったし、職業としては考えていなかった」と専門学校に進学し、広告プランニング科で映像や写真技術を学び、地元で就職した。「不義理ですぐにやめてしまいましたが、サラリーマンが向いていないことが骨身にしみてわかりました。東京転勤を目指して頑張ったのですが……」と、東京に転勤しすぐに退職。東京に住む専門学校時代の同級生と同居し、アルバイト生活を始める中、制作進行のアルバイトを求人情報誌で見つけたことが、アニメーション業界に足を踏み入れるきっかけとなった。

アニメーターの描いた原画を回収する制作進行の仕事は、「当時はセルだったので、深夜や朝方を指定されて体力的にきつかった」そうだが、「よくアニメ業界は『終わらない文化祭』と言われますが、ずっとモノを作っていく流れに巻き込まれていくのが心地よかった」「デジタル制作で作品も増え、業界が盛り上がってきた時期」と当時を回想する。
その後、車の運転免許を取り消されたことで制作進行業務にかかわることができなくなったこともあり、当時仕事をしていた木村真一郎監督らからの紹介もあり制作、演出助手に転身。フリーランスとしてサンライズはじめ様々なスタジオでの仕事を経験し、「気分的にはずっとアルバイトを続けている感じ」と語る。絵コンテ制作以外に、演出処理の仕事では発想や手法の面白さを知り「ガイナックスさんではセルに直接コピックでひたすら色を足していったり……みんなで知恵を出し合っていたのは楽しかった」と振り返る。
そして、「ちょびっツ」で演出を担当し高評価を得たものの「その後の『ギャラクシーエンジェル』はぼろくそに直されて……。ギャグセンスとは、ということを学んだ。(のちに『進撃の巨人』の総監督となる)荒木哲郎さんに負けたくないな、と思った」と同世代の良きライバルとの出会いもあった。

初監督作は2006年の「ハチミツとクローバーII」。監督になりたいと思ったのはサンライズの村瀬修功監督作「ウィッチハンターロビン」で数話を担当し「1話と最終話、まるっと関われるのがうらやましかった」と作品全体に関わる権限を持つことに意欲を持ったという。翌年の監督作「アイドルマスター XENOGLOSSIA」から、監督として「コンテに力を入れるスタイルが決まったと思う」と明言。「ハチミツとクローバーII」のほか、「とある科学の超電磁砲」、ライトノベル原作の「とらドラ!」など、原作モノについての考えも語った。
監督になって、指示を出したり、全体を見る仕事に対するマインドチェンジが難しく「コンテにひたすら込めるようにシフトしていった」。コンテの描き方は「頭から描くタイプなので、まずシナリオを最初からひたすら読む。そのリズムを落とし込んでいく。ちゃんと計算したり、ロジックを積み立てるのは苦手なので、読んだ時の自分の中の印象が崩れないようにやっていく」と説明。「数をこなすと手が動くようになってくる。絵コンテは描けるアングルが増えれば増えるほど、使える手段が増える。頭の中で考えたものをそのままコンテに落とせるようになってくると手も早くなって、伝えやすくなる。抽象的なものを具体的に伝えるためにコンテに注力するようになった」と自身の仕事のスタイルを明かす。

「とらドラ!」で、その後、秩父三部作の第1作となる「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」などでも協業する田中将賀、岡田麿里と仕事をするようになった。「『あの花』では、『とらドラ!』でやった、あいまいな感情をあいまいのまま画面に出すのをさらに盛り上げたかった。『あの花』では感情が記号化されないように表現したかった」と表現での狙いを語った。
ガンダムシリーズ監督作「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」は、「新選組のようなものをやりたかった。任侠ものっぽい部分は、時代モノではない違う切り口でわかりやすさを出した。岡田(麿里)さんもVシネマで任侠ものの経験もあったので」「サンライズさんからは『Gガンダム』みたいな、正統派ではない、違う切り口ものを欲しいと言われていた」といい、「ただ勝つだけの作品はつらいので、結末が決まった上ででいかにあがくか」と作品のコンセプトについて語る。「『ZZ』と『逆シャア』までは劇場に足を運んだし、ガンプラも小さいころから身近にあって意識していたので、まさか自分がやるとは思わなかった」とコメントも。

「心が叫びたがってるんだ。」は、一から劇場版として作った作品。「長い作品の伝え方が肌感覚で分かっていなかった。テレビ3本分書けばいいんだろうと思ったけど、そうではないということがやって分かった。編集でカットが一番多かった作品。そういう意味で思い出深い作品。(映画として)なるべく引いた絵を、と意識しましたが、引けば引くほど作業量が増えましたし、豪華にしなきゃという強迫観念もあったので大変な作業だった」と振り返った。
「あの花」で脚本の岡田の故郷である秩父をロケハンし、「盆地なのでコンパクトにまとまっている感じがあり、どこからでも俯瞰の絵がとれて、広い絵が作りやすい。あとは取材に行きやすい距離感も」と三部作の舞台となり、地方を舞台とした作品として自身の思いも投影した。「当時新潟にいた自分の鬱屈感を出せるなと思った。若者はどこかに行きたいという欲望があると思うので、そういう自分のストックでやれると思った。それは岡田さんも同じだと思う」と意図を明かす。

そして「空の青さを知る人よ」で「秩父で盛り上げてくださったので、一旦は場として締めたかった。三部作という名前の響きもかっこいいですし、人生で三部作をやれる機会もないので」と完結する。その後、昨年公開された最新作「ふれる。」は、「秩父が終わったので、切り替える気持ち。秩父に海がなかったので、海のシーンから始めて『空青』のイメージとは違うものに切り替えていった」と語る。
アニメーション監督を目指す若者へのメッセージを求められると、「とりあえず“手を動かせ”と言いたいです。監督もクリエイターのひとりなので、結局手を動かした数が力になる。どれだけ線を引けたかが、自分の土台になっている」「監督という立場でいろんな人に指示を出しますが、自分で何ができるかがしっかりしないと伝える言葉に重みが出ない。絵がうまい下手はまた別の話。ひたすら自分で線を引くことで出来上がるものがある。センスがあるとかないは、うまくいったらセンスがあったという結果論にしかならない。だからとにかく1本線を引いてみたほうがいい」とアドバイス。「気負わずに業界に入ったのも良かった。こうならなきゃと思って入ってたらつぶれていたかも」とも話した。
第3回新潟国際アニメーション映画祭は3月20日まで開催、チケットは好評発売中。最新情報は随時公式サイト(https://niaff.net)で告知している。
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