【「バッドランズ」評論】洗浄されたクラシックに、劇場で接することの意味
2025年3月9日 11:00

映画界最高の印象派にして寡作な詩人、「天国の日々」(1978)、「シン・レッド・ライン」(1998)の耆宿テレンス・マリックが1973年に発表した、才覚の鼓動を響かせる長編デビュー作。精神的に未熟なカップルの場当たり的な殺人行脚を、類稀な映像センスで捉えたこの実話の潤色は、「地獄の黙示録」(1979)のヒットで耳目をさらった俳優マーティン・シーンの未公開主演作として、我が国では控えめにテレビ放送された。
それがこのたび劇場初公開となり、加えてレストアという画質・音質の高精細化によって、現在のマリックの威厳と照らし合わせても違和感のないコンディションを得た。映画史的な評価としては、アメリカン・ニューシネマの嚆矢「俺たちに明日はない」(1967)以降に顕著な、若者の凶行を反体制的なロマンと定義するのを由とせず、同種の逃走劇の中でもその存在は出色といえる。
こうした評価の定まった映画を、原題表記に改めることの総意を得ない独断性。否、そもそも「地獄の逃避行」という邦題が妥当であったのか? などの議論はさておき。同作について現況で何を語ろうと、どこかで目にしたようなフレーズがレビューにまとわりつく。なので2025年というポジションからこの映画と向き合った、素直な思いを発するしかない。
そうした主義のもと、本作が今と重なるのは、社会という返しのトゲが身に食い込み、暗い先には進めど後には引けない、身近な若者らの姿だ。誰からも救いの手を得られず、世間から孤立して逃避行を繰り返す青年キット(シーン)と少女ホリー(シシー・スペイセク)、さしずめ罪の意識なく闇バイトに加担したり、あるいはトー横界隈に身を置くような、報道の的になる若年層のイメージが筆者の中で適合していく。これを本作が持つ鋭い予見性と解釈するのは我田引水かもしれないが、優れた古典が今の鑑賞に耐える根拠とするならば、この洋の東西を問わない過去と現在の一致こそ、大きな説得力を放つ。
併せて実感としてあるのが、自然光を巧みに活かした美しい景観ショットの数々が、リマスターによって精彩を増したことの成果だ。これによって殺人に手を染めたホリーの、「この穏やかな世界に二度と戻ることはできない」というモノローグが、より深々と胸中に迫る。どれだけタイムラグがあろうと、洗浄されたクラシックに劇場で出会う意味がここに存在する。
(C)2025 WBEI
執筆者紹介
尾﨑一男 (おざき・かずお)
映画評論家&ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「特撮秘宝」、Webメディアに「ザ・シネマ」「cinefil」などがある。併せて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、TVやトークイベントにも出没。
Twitter:@dolly_ozaki
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