【「劇映画 孤独のグルメ」評論】防ぎようがない劇場での「飯テロ」に備えよ!
2025年1月12日 22:00

「それにしても…腹が、減った…」
今や群雄割拠するグルメドラマ最大の成功作にして、メルクマールとして同ジャンルをリードするテレビシリーズの、まさに待望ともいえる映画化だ。主人公の井之頭五郎(松重豊)があてどなく飲食店をさまよい、行き着いた先で食への愉悦に浴する―。そんな本作が放つ浮遊感と場当たり的なフォーマットを、はたしてどう長編映画に変換するのかという興味も含めて関心は尽きない。
今回の映画はパリに住むクライアントから「幼少期の思い出のスープを再現してほしい」とイレギュラーな依頼を受けた五郎(松重)が、フランスを起点に長崎の五島列島から韓国へと渡り歩き、求められた味を探し回る“ロードムービー”の様相を呈していく。その展開は「飛躍や強引にも程度があるだろ」とたしなめたくなるくらい奔放なもので、テレビから映画へという移行を先んじて実践したグルメドラマ「深夜食堂」ほどストーリーを重要とはしていない。
しかし、もとからテレビシリーズ自体がそうした秩序希求をアンチとし、整合性の放棄に寛容な性質を持っている。ゆえに映画は“それもまた「孤独のグルメ」なのだ”と受け入れられる作りだ。なによりベースとなる「理想とする食への追求」に取り組もうとする主題は、グルメ映画として国際的な評価を得ている伊丹十三の「タンポポ」(1985)をなぞり、そこはアジアを中心に海外で支持されている「孤独のグルメ」なりの着地どころを見つけたというべきだろう。
加えてテレビドラマ版に長年かかわってきた松重豊が創作のイニシアチブを握ることで、この映画版は「孤独のグルメ」を改めて定義し、そして同コンテンツの総仕上げという語勢を強めている。また舞台のひとつにパリを持ってくることで、唯一の海外回がフランスだったコミックとの同期がはかられ、そこには原作への敬意すら感じられる。ドラマ版が向かった先としては、オーディエンスの間でディスカッションが騒然と交わされるかもしれないが、谷口ジローが生前に描画した最後の「孤独のグルメ」に言及してくれたことで、この映画は自分にとって、とても印象のよいものとなった。
ただし冒頭で挙げた五郎の決めゼリフは観客に波及するので、鑑賞前にはコンセッションでポップコーンやホットドッグなど腹埋めできるものを買い求めておいた方がいい。自宅ならいざ知らず、シネコンにおける「飯テロ」は、作品が終映を迎えるまで解決のしようがないのだ。
執筆者紹介

尾﨑一男 (おざき・かずお)
映画評論家&ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「特撮秘宝」、Webメディアに「ザ・シネマ」「cinefil」などがある。併せて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、TVやトークイベントにも出没。
Twitter:@dolly_ozaki
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