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【亀山千広氏が語り尽くす、「室井慎次」2部作誕生秘話Vol.1】柳葉敏郎×君塚良一×本広克行と膝を突き合わせた会談の場で“事件”は起こった

2024年11月27日 12:00

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取材に応じた亀山千広氏
取材に応じた亀山千広氏

日本映画界で数々の伝説を打ち立ててきた「踊る大捜査線」シリーズが、実に12年ぶりに再始動し、柳葉敏郎扮する人気キャラクターの室井慎次が主人公を務める2部作「室井慎次 敗れざる者」「室井慎次 生き続ける者」として製作されることが発表されたのが、今春。それ以降、後編にあたる「生き続ける者」が公開された現在をもってしても、長きにわたりシリーズを支え続けてきたファンのざわめきが止まない。

映画.comでは、シリーズの生みの親ともいえるBSフジの亀山千広社長に緊急インタビューを敢行。今回の2部作が製作されるまでに水面下で何が起こっていたのか、亀山氏がプロデューサーとして現場復帰するに至った経緯などを、何ひとつ隠すことなく語り尽くしてくれた。全3回のうち初回のテーマは、文字通り「製作秘話」。柳葉が首を縦に振るまでの“物語”をお楽しみいただきたい。(取材・文/大塚史貴、写真/間庭裕基)


――本題に入る前に、確認させてください。「室井慎次 生き続ける者」の警察無線のシーンで声を入れていませんでしたか?

亀山:入れています。よく気づきましたね。「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」の終盤に登場する無線「警視庁から各局…」の声も僕ですし、今回の警察無線も採用していただきました。縁起物です(笑)。


■「終わらないと始まらない」の真意

映画.comでは、「踊る大捜査線」が完結するに際し、2012年にシリーズ総括という名目で亀山氏のロングインタビューを実施している。それだけに、いや、だからこそ、現在に至るまでの12年間とシリーズのリスタートについて亀山氏の口からつまびらかにしてもらうことにした。

亀山:一度は総括したんですよね。ただ、最初に結論を申しますが、終わらないと始まらないんです。12年前に僕らは終わらせたつもりだったんです。当時もお話ししたと思いますが、あまりにも船が大きくなりすぎて、望まれるものも自ずと大きくなり、これは自分たちでちゃんと線を引かないとダメだね…ということで、映画2本(「踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!」「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」)とドラマ1本(「踊る大捜査線 THE LAST TV サラリーマン刑事と最後の難事件」)で終わりにしようと。

あの時点で室井は組織改革審議委員会の委員長になり、事件はすぐに起こるから青島は現場へ飛んでいく。全員が明るい未来へ向かう形で終わらせたわけですが、でもそれって、よくよく考えると終わっていないんですよね。

画像2(C)2024 フジテレビジョン ビーエスフジ 東宝
■これ以上やっても、同じことを繰り返すことになる…
――「室井慎次」2部作については、脚本の君塚良一さんから届いたメールがきっかけだったとうかがっています。

亀山:一昨年の12月にメールが届いたんです。普段そんなに頻繁にやり取りをしているわけではなく、君塚さんが手がけられた作品を観たときは感想を送るなど、年に1回あるかないかで12年間過ごしてきたわけです。そんな君塚さんから、「室井慎次の終焉を書きたい。もう一度、3人(君塚・本広克行監督・亀山)で仕事をしませんか?」という内容の短いメールでした。これは会わなければならないと思って、すぐに会って話をしたら、「僕らは終わらせたつもりだけど、終わらせていないんじゃないか。一緒に作ってきた仲間はみな、今もそれぞれ背負っているんじゃないか」と言うわけです。

「踊る大捜査線」って組織論を描いてきたわけです。官僚たちは制度を作る側だから、自ずと制度に縛られる。ただ、それだと捜査は前に進まない。だから所轄はそこから逸脱して自由に動き犯人を逮捕するものの、褒められないという構図。このファンタジーとリアルのせめぎ合いが面白かったんだと思うんです。

やめた理由も、そこにあるんです。“本店”と所轄という図式が色々な形で扱われ始めて、やり尽くしたとは言わないけれど、青島たちが偉くなっていくことが果たして面白いのだろうか、否、そうではないだろう。室井だって昇格や降格を繰り返している。これ以上やっても、同じことを繰り返すことになってしまう。

また、君塚さんは「教場」の脚本を手がけられていますが、風間公親の生き方を書いていますから、同じレイヤーにいるわけです。孤独に自分を律して信念を突き通す男に触れるうち、室井のような男をあのまま放っておいていいのか。リアルな人たちに対して、決着をつけないとまずいのではないか…というのが君塚さんの主張でした。

実際に僕の耳にも入ってきていましたが、柳葉さんは室井を背負ったまま完結後の12年間、オールバックで出るような役、スーツ着用の役は全て断っていたらしいんです。僕らが柳葉さんの役者人生に制限をかけてしまっているのではないかと……。そういう背負わすものを作ってしまった責任は亀山さんにも本広監督にもある。だから3人で仕事がしたい。柳葉敏郎が背負っているものを、楽にしてあげたいんだと。

君塚さんも12年間、背負ってきたんですよ。現場を離れて久しい僕にしたって、「踊る」のキャスト陣がドラマで活躍しているのを見ると、「織田くん、こういう役もやるのか」「深津さんはますます綺麗になっていく。すみれさんは傷が癒えたのかしら」なんて思うわけです。君塚さんだけじゃない、僕も背負ってきたんだな。じゃあ、わかりました。やりましょう、ということになったんです。


■古巣フジテレビが提示してくれた映画という方法論
――その後も、順風満帆だったわけではないですよね。柳葉さんの了解を取らないと進みようがないですし……。

亀山:柳葉さんがちょうど「ブギウギ」を撮っているときにオファーをしてしまったんです。事務所さんを介して「もう無理だよ。何をするんだ。やれっこないよ。しんどいからやめてくれ」と断られてしまいました。それでも、君塚さんと僕は淡々と進めていったんです。公開された作品の事件がないバージョンと思ってください。君塚さんがロシア映画みたいな作品を撮りたいっていうんで、それはちょっと…って(笑)。

そして、「踊る」のキャラクターのIPは当然ながら、フジテレビにあるわけです。君塚さんは当初、BSで30分ドラマを6本と言っていましたが、BSにこれだけのキャラクターを使って四季を追いかける…というプロジェクトをまとめるだけの体力はない。ただ、室井の人生の終焉を描くのならば、それくらい必要だなと思ったので、フジテレビへ相談に行ったんです。

すると、ありがたいことに映画という方法論を提示してくれました。ただ、おそらく観に来てくれるお客様の年齢層は高いでしょうから、3時間の大作では持たないだろう。室井という27年間も付き合ってきたキャラクターの最期を見せるのに、2時間では終わらせたくないから前後編でやれないかと改めて相談をしたら、フジテレビも東宝さんも承諾してくれました。

画像3
■不意打ちだった「亀山さんの最後の作品になると思うから」
――そこで、亀山さんと君塚さんのスイッチが“オン”になるわけですね。

亀山:ところが柳葉さんはOKしていないし、監督は「コメディがどこにもないので撮れません。僕に何をしろっていうんですか」と逃げまくり、悩みまくる。ふたりが首を縦に振らないなかで、僕と君塚さんは淡々と話を進めていく。本打ちに監督を呼んでも、ほとんどしゃべらない(笑)。君塚さんが「何か言えよ、監督」と振っても、「うーん、僕じゃないんじゃないですか」と下を向いている。さらに「柳葉さんがやらないって言っているんだから、いいじゃないですか」と言うので、必ず俺が口説くと。それで、柳葉さんに会うことになったんです。

でも、説明してみたけど色よい返事はもらえず、「なぜやるんだ」「室井に決着をつけたいんです」「室井をやるのがどれだけしんどいか考えてくれ」「それが分かっているからこそ、楽になりましょうよ」「考えさせてくれ」というやり取りが続いたんですが、僕には柳葉さんが絶対にやってくれるという確信があったんです。それには、まず監督を含め、こちらの3人が一枚岩にならないと…と思っていたら、監督が夏場に考えすぎと熱中症で入院してしまった。

それで君塚さんに相談をしたら、「監督が乗らない理由は、事件がない、コメディがない、パトカーやヘリコプターが出てこないからだと思う」とおっしゃられて、「室井の家の前の池を挟んで逆側で死体が発見されるという設定はいかがですか?」と提案してくれたんです。なるほど…と思い、誰の遺体なんだと話をしていたら、僕の座っていた席の真横に「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」のポスターが置いてあったんです。

「君塚さん、この作品はいまだに日本の実写映画で一番観られた作品ですよね。ここから引っ張ってきましょうよ」とひらめいたんです。あの犯人グループも刑期を終えて全員出所しているはずだし、詐欺グループとしてまた悪さをしているというのは無理がない。日向真奈美の娘・杏については当初、監督が「それはやめましょう」と反対していたんですが、ここに日向真奈美が絡んでくるとしたらより面白くなるんじゃないかということで、今のスタイルに固まりました。

倒れた監督に「ヘリを飛ばすぞ!」と話をしたら、もう逃げられないと思ったんでしょうね。「わかりました」という返事を受けてから、今度は監督を連れて柳葉さんに会ったんです。改めて「監督はなんでやるんだ」と柳葉さんに詰められたら、本広監督が「亀山さんの最後の作品になると思うから」とか言いだして(笑)。

柳葉さんが「えっ、そうなの?」って聞いてきたんだけど、僕も「俺、最後なの?」ってビックリしちゃって(笑)、柳葉さんに「わかんない…、最後らしい…」って。一度も最後なんて言ってませんし、最後って自分で決めるものなんじゃないか?と思いましたが、本広監督がそう決めたので、僕の最後の作品みたいです(笑)。


画像4(C)2024 フジテレビジョン ビーエスフジ 東宝
■まさかの応酬「だったらやめようぜ」「じゃあ、やめよう!」
――ここでようやく柳葉さんを含む4人が同じ方向に進む機運が高まってくるわけですね。

ところが、僕と柳葉さんのあいだで齟齬があって、彼が納得していない部分がまだあったんです。それは、あとあと解決できる話だったんですが、僕と柳葉さんの長年にわたる関係性のなかで、二度も三度もお願いして「そりゃあないだろう」と思っちゃったんでしょうね。僕が完全に悪いのですが、「だったらやめようぜ」って言っちゃったんです。

そうしたら、「じゃあ、やめよう!」って言って、柳葉さんが席を立たれて帰っちゃったんです。やばい! と思ったんですが、翌日には「やります」という返事をいただいた。直接謝れないまま衣装合わせの日になって、その日はもう必死に頭を下げました。「もういいよ、やめようよ」「いやいや、俺が悪いんだから謝罪させてくれ」みたいなやり取りを、監督たちはずっと苦笑しながら見ていましたね。本当に、始めるにあたって、色々なドラマがあったんですよ。

柳葉さんには、君塚さんから届いた最初のメールを秋田の現場がクランクインする日に見せました。柳葉さんと君塚さんの関係性は、「欽ドン!」の頃から続いている。あれだけコメディがやれて、“ギバちゃんスマイル”と言われていた爽やかなキャラを僕らが封印させてしまった。

本人はそれが嫌で仕方がなかった。室井を殉職させてくれとも言われた。それでも、ずっと背負ってきたなかで、君塚さんが「柳葉、楽になれ」と言っているんだと思いました。「室井慎次 敗れざる者」の初号を観終わった後、君塚さんと会った柳葉さんは崩れ落ちていましたよ。脚本を通して会話をしていたんでしょうね。

それにしても、「室井慎次 生き続ける者」のロケが終わって、柳葉さんに向けた打ち上げをやったんですが、あのときの明るさったら…。「楽になるわあ」「でも親友みたいなもんだから寂しくなるぜ」とか言い合いながらね。ただ、ここのところ宣伝も兼ねて出演してもらっているバラエティ番組での弾け具合を見ると、本当に嫌だったんでしょうね(笑)。

僕はまだ見られていないんですが、大阪の番組で浜田雅功さんと一緒に(織田裕二が歌う今シリーズの主題歌)「Love Somebody」を歌っているらしいんですよ。室井を背負っていたら、絶対に歌わないですよ(笑)。製作決定から僕は沈黙を貫いてきましたけど、ここに至るまでにこんな物語があることを公開するまでは話せませんでした。


亀山氏の話はまだまだ続く――。次回、第2回では社長としての務めがあるなかで亀山氏がプロデューサー復帰する経緯、そして「踊る」完結後にフジテレビ社長に就任し、現場を離れていた頃に思いを馳せてもらった。

執筆者紹介

大塚史貴 (おおつか・ふみたか)

X(Twitter)

映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。

Twitter:@com56362672


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