チェ・ミンシク、気鋭監督の挑戦を後押し「大切なのは、自分がこう撮りたいと考えた表現を貫くこと」【「破墓 パミョ」インタビュー】
2024年10月20日 10:00
2人の巫堂(ムーダン=朝鮮半島のシャーマン)と風水師、葬儀師が掘り返した墓に隠された恐ろしい秘密と対峙するサスペンス・スリラー「破墓 パミョ」が10月18日から公開中だ。韓国では「アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」「パラサイト 半地下の家族」を超える約1200万人を動員し、「犯罪都市 PUNISHMENT」「インサイド・ヘッド2」を抑えて7週連続で第1位を記録する大ヒット。第74回ベルリン国際映画祭で上映されたのちに世界133カ国で公開が決定し、韓国のゴールデングローブ賞と称される第60回百想芸術大賞では監督賞/主演女優賞/新人男優賞/芸術賞を受賞するなど、世界中で大旋風を巻き起こす話題作である。
監督・脚本は「プリースト 悪魔を葬る者」(2015)や「サバハ」(2019)を手掛けるなど、ジャンル映画を得意とする気鋭チャン・ジェヒョン。「シュリ」(1999)や「オールド・ボーイ」(2003)などで知られる韓国を代表する俳優チェ・ミンシクが主人公の風水師サンドクを演じるほか、「トッケビ ~君がくれた愛しい日々~」(2016~17)のキム・ゴウン、「コンフィデンシャル 共助」(2017)のユ・ヘジン、「ザ・グローリー 輝かしき復讐」(2022~23)のイ・ドヒョンら、人気と実力を兼ね備えた俳優が脇を固める。
チェ・ミンシクがこれまで挑戦したことのないジャンル映画への出演を決めたのはなぜなのか。その決め手や、撮影現場の雰囲気、「オールド・ボーイ」撮影当時と比べた韓国映画業界の働き方の変化について語ってもらった。(取材・文/ISO)。
映画監督をはじめ、ジャンルに限らずなにかを創作する人々は自分の思うがままに表現するべきではないでしょうか。そうしてこそはじめて、それが良い道なのか悪い道なのかを見極められると思うんです。大切なのは「こうすれば観客に喜ばれるだろう」といった考えや既存の枠にとらわれるのではなく、自分がこう撮りたいと考えた表現を貫くこと。そういう心構えでつくった結果なら、もし観客から賛同を得られなかったとしても、私は拍手を送りたいです。
私の場合は、子供の頃に仏教徒である両親や祖父母とよくお寺に行っていたことが関係していると思います。そのお寺の僧侶の方々は東洋哲学に通じていたことから、自然と人間の相互作用についてよく知っており、自然のパワーが左右する人の幸や不幸、もたらす福や災いをまるで診断するかのように理解していました。つまるところ風水というのは人を幸せにする学問であり、哲学でもあるのです。私が風水に親しみがあったのは、お寺で両親と僧侶がそういう話をしていたのをよく見聞きして育ったからですね。いつも役をもらって演じる際には馴染みがないなと感じることがほとんどなんですが、今回はほとんど違和感なく演じることができました。
各自演じる役を認識し、このアンサンブルで作品にどんな影響を与えられるのかということも常に考えていました。そして演じる際には、みな自分ができる最高のパフォーマンスを目指して演技をしていました。俳優の後輩たちがそうやって切磋琢磨していたので、年長者である私も怠けてなんていられませんでしたね。そのようにプロフェッショナルであるがゆえの素晴らしいチームワークを発揮することができたと思いますよ。
巫堂という役を演じて、あのようなパフォーマンスを見せることはゴウンさんにとってかなりの重圧だったと思います。でも彼女はキャラクターを深掘りするために身を粉にして、ディティールまで突き詰めて表現していました。俳優としては後輩ですが、そんな彼女の姿には心から尊敬の念を抱きましたね。
「オールド・ボーイ」のクライマックスで、ウジンというキャラクターがエレベーターで自殺する前に「俺たちはすべてを知って愛し合った。お前たちはどうだ」と言うシーンがあります。私が演じたデスはその言葉を聞いて泣きながら地面にひれ伏すんですが、実はそのとき私は寝ていたんです(笑)。なにしろ3日間徹夜が続き、一睡もしていなかったので。
以前はそんなふうに根性でやれるとこまでやろうとしていましたが、今思えば本当に無謀でしたよね。そう考えると、今の労働環境は本当によくなっていると思います。最初は変化に戸惑うこともありましたが、その働き方が定着した今では、以前よりも効率的に仕事ができるようになりました。
Amazonで関連商品を見る
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。