ホラーファン注目の新鋭!「映画検閲」プラノ・ベイリー=ボンド監督がデビュー作でホラーを選んだ理由
2024年8月30日 20:00
1980年代のイギリスを舞台に、当時「ビデオ・ナスティ」と呼ばれた、低俗・暴力的との烙印を押された作品に対する検閲を題材に描いた心理ホラー「映画検閲」(9月6日公開)。
検閲のために過激な映像を見続けていた主人公が、次第に現実と妄想の境を見失っていくさまを描き、サンダンス映画祭やシッチェス・カタロニア国際映画祭など各国の映画祭で上映されて注目を集めた。本作が初の長編監督作となるプラノ・ベイリー=ボンドに、映画.comがオンラインインタビューを実施した。
ビデオ・ナスティに対する論争が巻き起こっていた1980年代のイギリス。映画検閲官のイーニッドは、それが正しいことだと信じ、暴力的な映画の過激なシーンを容赦なくカットする毎日を送っている。その揺るぎない姿勢で周囲から「リトル・ミス・パーフェクト」と呼ばれている彼女だったが、ある時、とあるベテラン監督の旧作ホラー映画に登場するヒロインが、幼いころに行方不明になり、法的には死亡が認められた妹ニーナに似ていることに気が付き……。
自分が意図せずとも多分ホラー作でデビューすることになっていただろう、という予感がありました。映像を作り始めたのが10代後半から20代くらいで、抑圧されて影にいる自分、あるいは仮の自分、そういった自分が認めたくない側面を持つキャラクターを掘り下げることが元々好きでしたから。
そういったキャラクターを描こうとすると、内に秘めていた恥や負の見たくない自分の感情も、現実世界にモンスターとして具現化してしまう。そうして意図せずホラー的な物語になりました。もともとホラージャンルは好きでしたし、この作品は伝統的なアプローチではありませんが、一種のホラー映画になったのはやはり運命的でしたね。
ハマー・ホラー(英国のハマー・フィルム・プロダクション制作のホラー作品)全盛期の記事を読んだことがあり、そこで取り上げられていたのが、ホラー、SFX、それと検閲官の話です。
当時の検閲では、女性の胸に血がついたシーンは絶対カットというルールがありました。その理由が、それを見た男性がレイプに及ぶ危険が高いからというもの。私はそれを読んで驚きましたが、おそらく当時の検閲官は男性が多かったわけです。でも、ほんのそれだけのシーンで、自制心を失うことがある――それはどういうことなんだろう、と考え、実はこの物語の最初の主人公は男性に設定していました。
男性検閲官があまりにもそのシーンが危険だと信じており、そして影響を受けてしまう。また、自分の奥底に、自分は悪い人間だという思い込みがあり、そういう映像を見たことで目覚めてしまうようなキャラクターと物語を想定していました。
そして、あの当時「ビデオ・ナスティ」と呼ばれる、暴力的なVHSリリース映画のムーブメントとその取り締まりには、女性に対する性的暴力が絡んでいたんです。でも、性的暴力の悪だけを扱うと、物語として描ける幅が狭くなってしまう。そうではなく、人間誰もが持っていて、自分の奥底にいる悪、そういうものについて描きたいと考え、主人公を女性に変更したのです。
「ビデオ・ナスティ」の作品そのものはすごく面白かったんです。自分が描こうとしているキャラクターで掘り下げようとしていることと、当時の英国ホラー映画の周囲で起きていたことは呼応してるように感じました。当時は、これらの作品がきっかけで、次の世代の新たなサイコパスや殺人鬼を生むのではと考えられ、検閲が行われていたわけですから。
それまでは映画館でなければ、そういった映像にはアクセスできませんでした。その後、ビデオで見られるようになり、家でも子供でも誰でも、そして何回もリピートとして見られることが、私たちの人間の脳にどのような影響、あるいは社会的にどんな影響を与えるのかが問われました。そのホラーにまつわる社会性が、この映画で描く舞台としてぴったりだと思ったのです。
車や家具など全部を再現するにはお金も手間もかかってしまうので、実は、プロデューサー陣とは現代ものにしようかという話も出ていましたが、今の英国での検閲の状況はやはり当時とは姿勢が違うので、物語が成立しないのです。私自身が1980年代育ちで、そういう作品に育てられましたし、また、80年代というと、例えばファッションだったら肩パッドの入った原色の派手な洋服に大きなイヤリング、そんなイメージを持つ方もいらっしゃるでしょうが――私の記憶にある80年代の、割と茶色っぽく荒涼としたグレーな感じ、そんな英国郊外を舞台にしたかったのです。
そして、それとは対照的に映像の世界はカラフルで、場合によってはおぞましいようなものが目を引きました。遊びがないような場所に住んでいる若者たちが、レンタルビデオショップでそういった作品のカバーを見ると、その世界観が豊かで楽しそうに見え、そこに行ってみたい、そう思わせるようなデザインだったのです。灰色の抑圧された世界、もう1つはカラフルな虚構の世界、最終的にその二つの世界の間に主人公が入り込んでしまう、そういう意図をもって作り上げました。
その二つの世界はいきなり転換するのではなく、少しずつ変わるように意識し、その世界を繋げているのが彼女の心のありようです。それを色彩、衣装、光の使い方などを含めて表現しました。例えば血塗られた教会のシーンの後、彼女は夢を見ます。その夢で使われた色は、実は彼女の仕事場に時折現れる、そんな仕掛けもあります。
そして、当時こういった映画を作っていた監督の作品を見て研究し、また、ポール・グラハムやマーティン・パーなど、当時の英国を切り取っていた写真家の作品を参考に、美術や衣装担当、カメラマンとアイデアを持ち寄って、その世界観をどう再現するかを考えました。
当初思ったよりお金がかかってしまいましたが、クリエイティブで乗り越えられたと思います。オフィスは倉庫にセットを組みました。そして英国の北方リーズやブラッドフォードのあたりでは、70年代から手付かずの家が残っており、内装もそのまま使えるような場所を見つけることができました。
ホラー映画の監督とは言えないと思いますが、まずはデビッド・リンチです。1番好きなのは「ブルーベルベット」で、自分にとって映画史上最も怖いキャラクターは、フランク・ブースです。そして、ギャスパー・ノエ。現代の映画作家として境界線をぶっちぎるような面白い仕事をしている監督だと思います。
今回「ビデオ・ナスティ」を描くにあたって、ダリオ・アルジェントとルチオ・フルチからのインスピレーションも受けています。2人ともワイルドな映画作りをしていたし、ビジュアルもリッチ。カラフルでいろんなものが詰まっている“デリシャス”な画作りです。メアリー・ハロン監督の「アメリカン・サイコ」にも影響を与えられました。
あとは、メロドラマになりますが、ダグラス・サーク監督ですね。それから、「呪われたジェシカ」(1971)というジョン・D・ハンコック監督の映画がとても好きです。女性主人公の周りで起きていることが現実か、自分がおかしくなっているのかわからない……そういう物語です。この映画は、おそらく直接的に「映画検閲」に影響を与えていますし、私が書いているもの全てに影響を与えている一作です。
「映画検閲」は、9月6日から新宿シネマカリテほか全国公開。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
動物園を経営するノーマンとマカリスターは、カリブ海にハネムーンで訪れた。ボートで海へ出たが沖へ流され、台風で船は沈没してしまい二人はある島へ打ち上げられた。そこでガチョウの卵のようなモノを見つけた。運よく救助された二人は卵を持ち帰るが、その卵から見たことのない“怪物”が生まれた。手に負えなくなった夫婦は経営する動物園に「パンダザウルス」として展示することに。しかし檻を破っていなくなってしまう。パンダザウルスの存在は次第に知れ渡り、大騒ぎに!精神科医は“怪物”の存在を否定しているが…果たして「パンダザウルス」とはいったい何なのか!?
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
「トランスフォーマー」シリーズで人気のジョシュ・デュアメルが主演するサスペンスアクション。消防士のジェレミーは、冷酷非情なギャングのボス、ヘイガンがかかわる殺人事件現場を目撃してしまい、命を狙われる。警察に保護されたジェレミーは、証人保護プログラムにより名前と住む場所を変えて身を隠すが、それでもヘイガンは執ようにジェレミーを追ってくる。やがて恋人や友人にまで危険が及んだことで、ジェレミーは逃げ隠れるのをやめ、大切な人たちを守るため一転して追う者へと変ぼうしていく。ジェレミーを守る刑事セラ役でブルース・ウィリスが共演。
旧ソビエト連邦史上最悪の連続殺人鬼を追う刑事の戦いを、実在の連続殺人犯たちをモデルに描いたサイコスリラー。 1991年、何者かに襲われて怪我を負った女性が森の近くで保護された。女性の証言によると、彼女に怪我を負わせた犯人の手口は3年前に捕まったはずの連続殺人犯のものと酷似しており、3年前の犯人は誤認逮捕だったことが判明。本当の連続殺人犯は10年以上にわたって残忍な犯行を繰り返し、36人を殺害していた。捜査責任者イッサは新たな容疑者アンドレイ・ワリタを追い詰め、尋問をする中で彼こそが真犯人だと確信していく。やがて、ワリタの口から驚くべき真実が明かされる。 本作が長編デビューとなるラド・クバタニアが監督・脚本を手がけ、1978年から90年にかけて50人以上を殺害した容疑で逮捕されたアンドレイ・チカチーロをはじめとする数々の連続殺人犯をモデルに、刑事や精神科医、犯罪学者にインタビューをしながら犯人の人物像を組み立てた。刑事イッサ役に「葡萄畑に帰ろう」のニカ・タバゼ。
休暇をもらって天国から降りてきた亡き母と、母が残したレシピで定食屋を営む娘が過ごす3日間を描いたファンタジーストーリー。 亡くなって3年目になる日、ポクチャは天国から3日間の休暇を与えられ、ルール案内を担当する新人ガイドととも幽霊として地上に降りてくる。娘のチンジュはアメリカの大学で教授を務めており、そのことを母として誇らしく思っていたポクチャだったが、チンジュは教授を辞めて故郷の家に戻り、定食屋を営んでいた。それを知った母の戸惑いには気づかず、チンジュは親友のミジンとともに、ポクチャの残したレシピを再現していく。その懐かしい味とともに、チンジュの中で次第に母との思い出がよみがえっていく。 母ポクチャ役は韓国で「国民の母」とも呼ばれ親しまれるベテラン俳優のキム・ヘスク、娘チンジュ役はドラマ「海街チャチャチャ」「オーマイビーナス」などで人気のシン・ミナ。「7番房の奇跡」「ハナ 奇跡の46日間」などで知られるユ・ヨンアによる脚本で、「僕の特別な兄弟」のユク・サンヒョ監督がメガホンをとった。劇中に登場する家庭料理の数々も見どころ。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。