【世界の映画館めぐり】韓国・富川国際ファンタスティック映画祭 最新韓国映画&R18+旧作カルトムービーを鑑賞
2024年7月21日 10:00

映画.comスタッフが訪れた日本&世界各地の映画館や上映施設を紹介する「世界の映画館めぐり」。今回は休暇で韓国を訪れた編集部スタッフが、7月4日から14日まで開催されていた富川(プチョン)国際ファンタスティック映画祭(BIFAN)2024を1日体験してきました。
ソウル市の隣に位置する富川市は、国際空港のある仁川(インチョン)からもソウル中心街からも電車、地下鉄で1時間ほどというアクセスの良さが魅力です。筆者はソウルの明洞(ミョンドン)に宿泊していたので、富川に向かう前に、まずは明洞ほど近くの老舗劇場「大韓劇場」を見学に。

こちら、1958年に米20世紀フォックスの建設で、当時韓国最大の映画館として開館し、2001年の閉館を経てシネコンとして再編し、66年の歴史を誇った映画館なのだそう。聯合ニュースによると、今年の9月末で閉鎖が決まっているとのこと。記念に1本鑑賞したかったのですが、時間がなく後ろ髪をひかれながら地下鉄駅に向かいました。

ハングルは全く読めない筆者、スマホの乗り換え案内や翻訳カメラ機能を駆使しながら、それでも何度か地下鉄での乗り換えを間違え、7月13日の午後に富川に到着。ソウル市内を流れる大河、漢江を渡る時には、今や韓国を代表する若き巨匠ポン・ジュノ監督の出世作「グエムル 漢江の怪物」を思い出さずにはいられませんでしたし、街中には、韓国映画やドラマで活躍の俳優やスター歌手が宣伝する商品の広告があちこちで見られるので、テンションが上がります。


富川国際ファンタスティック映画祭では、毎年日本映画も数多く紹介されます。今年は柳楽優弥主演作「夏目アラタの結婚」(堤幸彦監督)プレミアや三谷幸喜監督の特集上映などが行われ、日本映画関係者の訪問もネットニュースやSNSで報じられていました。しかし、今回は取材ではなく、休暇で訪れているので、日本未公開の最新韓国映画やこの映画祭でしか見られない作品を純粋に楽しもう! と事前にネットで2作品のチケットを購入。渡韓5日前だったので、売り切れのチケットも多く、この映画祭の人気の高さを感じました。


“ファンタスティック”と銘打たれている映画祭ですから、作品ラインナップは主にホラー、スリラー、サスペンスやファンタジーというジャンルの世界のエンタメ作が中心です。そのほか「私の頭の中の消しゴム」や「愛の不時着」のソン・イェジン特集、短編映画特集、オールナイト上映など、幅広い作品群が楽しめます。また、日本のK-POPファンからも人気のNCT 127ジェヒョンの映画主演デビュー作「6時間後に君は死ぬ」やジェジュンが出演する熊切和嘉監督初の韓国映画「神社」もお披露目となりました。

今回、1日のみの滞在で筆者が鑑賞したのは、1940年代~70年代のセクスプロイテーション映画を紹介するセルロイドエロチカ部門、アンディ・ミリガン監督の「Fleshpot on 42nd Street」(1972/日本未公開)と、映画祭の公式部門とは別に設けられた富川市民向けの無料上映、メイン会場である公園での野外上映があり、そちらで紹介された最新韓国映画「Korean Time(英題)」(2024/Jeon Sung-bin監督)のシネコンでのトーク付き上映の2本です。


まずは映画祭の情報収集を……とメイン会場の富川市庁に向かいます。多くの作品がこの市庁内のホールで上映されます。観客向けブースにはボランティアスタッフさんによる、日本語案内コーナーも設けられており、英語も不得手な筆者は大いに助けられました。鑑賞料金は、通常の上映作が9000ウォン。円安のために食事や宿泊など旅行に節約を強いられる日本人でも、日本の新作映画の通常料金に比べたらだいぶお得に鑑賞できますね。街には、映画祭フラッグがたなびき、ほど近くの繁華街にも記念碑のようなオブジェが飾られ、映画祭の街であることがアピールされています。おいしそうなレストランやカフェがいくつも立ち並び、数日滞在すれば韓国グルメもゆっくり楽しめそうです。

会場で販売されているグッズは、映画祭オリジナルトートバッグのほか、Tシャツ、スマホケース、ピンバッジなどアバンギャルドなイラストとおしゃれなデザインが目を引きます。通常業務も行われる役所の一部が会場ということもあってか、あちこちに上映作品ポスターが張られていたりはしないのですが、面白かったのは、映画ファンが描いたであろう上映作品のワンシーンのイラストコーナーがいくつも設けられていたこと。


「富川の市民の方が描いたのですか?」と、日本語ブースのボランティアさんに尋ねたところ「すべてはわかりませんが、僕らのような映画の好きなボランティアたちも描いています」とのこと。ホラーやグロテスクなシーンも、シュールでヘタウマな味わいとなっており、ある意味、本物のポスターより「いったいどんな映画なのだろう……?」と興味が湧きます。


最初に観た「Korean Time」は、韓国を代表するシネコンチェーンCGVでの上映。メイン会場から繁華街、そして安重根の名を冠した公園を抜けて徒歩10分くらいで到着できます。商業施設の高層階に位置するので、上映開始までさまざまなショップを見て回るのも楽しい体験でした。シネコン内では日本では見たことのない、まるでプリクラのようにマーベル・コミックスの表紙に変身できる機械を発見し、思わずトライ。謎の日本人婦人がヒーローのように活躍する物語もそのうちできるかもしれません。


「Korean Time」は、英語字幕付きの上映で、貧しい村出身の5人きょうだいの母親が旧正月に亡くなり、養子に出されたりと長年つながりがなかった兄弟姉妹が葬儀のために集まるも、男兄弟はギャンブラーや反社会勢力とのかかわりなどワケあり、子供の誰一人として村の人たちとの交流もなく、参列者はゼロ、葬儀代をどうやって捻出しようか……をドタバタタッチで描く物語。
他人のようにぎこちなかった兄弟姉妹の関係の変化、迫力あるバイオレンス&アクションシーン、そして最後はほろりとさせる展開と、老若男女問わず誰もが楽しめる王道のエンタメ家族ドラマでした。上映後に監督とキャスト陣が登壇したトークも開催され、会場は大盛り上がり。日本ではまだ公開作のない若手監督のようで、今後の活躍が楽しみです。

2本目の「Fleshpot on 42nd Street」が上映されたセルロイドエロチカ部門はメイン会場の小さめのスクリーンでの上映。「保守的な性教育や政治的モダニズムから、性革命やハードコアポルノまで、さまざまな時代や社会が映画におけるセックスにおける対話や交渉について興味深い洞察を与える」(映画祭公式HPより)作品群を紹介する特集です。日本でいうところのR18+指定で、ラス・メイヤー監督作など、カルト的作品が集められているのもファンタスティック映画祭らしいところです。


筆者が観た「Fleshpot on 42nd Street」は、ニューヨークのセックスワーカーの女性が主人公。その日常と仕事、ドラァグクイーンの友人との交友関係、恋に落ちてしまった男性との出会いと別れを軽やかに描いた作品でした。「アンディ・ウォーホルの影響を色濃く受けたシネマ・ヴェリテのスタイルと詳細な人物研究を通して、70年代アメリカのインディペンデント映画の美学とセックス・プロイテーションのユニークな融合」(映画祭公式HPより)とあるように、ドキュメンタリーのように生き生きとした実験的な映像、そして音楽も素晴らしく、特にアート系映画が好きな人には是非見てほしいなあと思える1作でした。ジャンルや作品年代的に、シニア男性客が多いのかな……と思いきや、会場は若い世代の映画ファンで8割くらい埋め尽くされていたのにも驚きでした。

このように、たった1日でも日本ではほとんどだれも観たことのない、ジャンルとしても対照的な2作品を鑑賞でき大満足の富川国際ファンタスティック映画祭の訪問となりました。帰り際に、映画祭のキャッチコピーでしょうか「STAY STRANGE」の文字が目に焼き付き、再訪を胸に次の都市へ向かいます。次回は、韓国のまた別の映画祭、毎年5月に全州国際映画祭が行われる韓国の古都、全州の映画館をレポートします。

富川国際ファンタスティック映画祭公式HP(https://www.bifan.kr/)
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