【「チャレンジャーズ」評論】ブロマンスを撹拌していくゼンデイヤの妖気
2024年6月9日 10:00

ダリオ・アルジェントのクラシックを衒学的に加工した「サスペリア」(2018)に続き、グール(人喰い)種族の逃避行をマイノリティの悲哀に掛け合わせて描いた「ボーンズ アンド オール」(2022)と、近年ホラーの再定義に余念がなかった監督ルカ・グァダニーノ。新作はハーレクイン・ロマンスのごときテニス選手のラブトライアングルを材にとり、ある意味ホラー以上に緊張をはらむストーリーに着手している。
作品は将来を嘱望されたダブルスパートナーのパトリック(ジョシュ・オコナー)とアート(マイク・ファイスト)が袂を分かち、チャレンジャーズ・トーナメントで差し向かう試合模様を始終捉えたものだ。その合間に非クロノジカルな過去回想を挟み、長年を経た2人の確執が、元女性テニスプレイヤーのタシ(ゼンデイヤ)に起因することが浮き彫りとなる。
物語はパトリックとアートの間に、タシの奔放だが支配的な感情が介入することで分断を生じさせていく。三角関係なんて総じてそんなものと思うかもしれないが、本作はタシの野心が2人のBLな関係を引き剥がしていくところに特殊性が感じられる。膝の負傷で選手生命を絶たれた彼女がテニスの世界で生き存えるため、彼らがキャリアの別なく犠牲を強いられていくところ、この映画はタシのドラマとしてもクセ強めな香気をただよわせる。ゼンデイヤの放つ妖気とパフォーマンスはそれを体現するに、もはや主役にふさわしいクラスのものといえよう。
なにより先述した構成上、我々は3人の愛憎関係の行方を、パトリックVSアート戦の勝敗とパラレルで追う形になる。そのため試合がもたらす加熱性がほどよく全編をヒートアップさせ、最後の最後まで観る者の集中を途切れさせない。加えてトレント・レズナーとアティカス・ロスによるアンダースコアが、劇中キャラクターたちの緊張と鼓動を代弁するかのように響きを上げていく。グァダニーノのアプローチとしては通俗的で威嚇に満ちているが、それは決して見境いのないジャンル移行ではなく、かつての代表作「君の名前で僕を呼んで」(2017)のブロマンス属性を共有しつつ、彼らしいメソッドを引き出すのに新たな方向性があることを示している。ときにゼンデイヤに目配りしたスパイダーマン関連のネタをひょっこり採用するなど、意外に遊び心もあるようだ。
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