ジョン・クラシンスキー監督がコロナ禍で愛娘たちに伝えたかったこと ケイリー・フレミングと“空想の世界”の舞台裏を語る
2024年6月8日 13:00
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子どもにしか見えないお友達=イマジナリー・フレンド。日本だと「となりのトトロ」でさつきとメイにしか見えないトトロのイメージだろうか。世界中の子どもたちの空想の世界にだけ存在するそれに、もし寿命があるとしたら。子ども達に忘れられることで消えてしまうのだとしたら? その仮定をテンポの良いファミリー向けファンタジーに仕立てたのが「ブルー きみは大丈夫」(6月14日公開)。監督のジョン・クラシンスキーと主演のケイリー・フレミングの2人に、製作の裏側などを聞いた。(取材・文/よしひろまさみち)
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――かつて、もしくは現在。イマジナリー・フレンドがいたんだと思いますが、その思い出を聞かせてください。
ケイリー・フレミング(以下ケイリー):私にはいなかったのよね。
ジョン・クラシンスキー(以下ジョン):マジ! ウソだろ!? 僕にだって、つい最近まで実在の人物だと信じてやまなかったってくらいリアルなイマジナリー・フレンドがいたのに……。そいつ、サム・ブレイスって名前なんだけど、なんで最近まで覚えていたかっていうと、サムが見えていた当時、僕の兄貴が歯科矯正用のブレイスをしてたから覚えやすかったんだよね(笑)。
まぁともかく、その当時のことを話すと、家の前の道をまっすぐ行った突き当たりに、レンタルビデオ屋があって、僕とサムはそのビデオ屋に行く道すがら、いつも2人で映画のシーンを演じていたんだ。基本はアクション映画で、ホラー映画も何本かやったな。その頃、怖い映画が苦手で、ホラー映画なんて見たこともなかったくせに、狼男の役とか真剣に演じてたよ(笑)。
僕にとってサムは、アクション映画の大スターで、言うなればシルベスター・スタローンみたいな存在。スタローンには全く似てなかったんだけど(笑)。見た目的にはむしろ、「サタデー・ナイト・ライブ(SNL)」のあのキャラクター……えーっと、何だっけ? ど忘れしちゃった。ともかく、サム・ブレイスは犯罪や悪、そして時には狼男を相手に戦う最高にクールなアクションスターで、僕たちは向かうところ敵なしの最強コンビだったんだよ。
――「SNL」のキャラ(笑)。
ジョン:そうそう。あ、思い出した! Mr.ビルだ!(SNL初期の人気キャラで、子どもが作ったようなクレイ人形。ひたすらひどい目にあっては“Ooh voodoo!”と叫ぶのがお約束)え、ちょっと待てよ……てことは、僕のイマジナリー・フレンドはロブ・シュナイダーかアダム・サンドラーってこと!?(笑)
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――さておき……、イマジナリー・フレンドを映画にするアイデアは、あなたの個人的な体験がきっかけですか?
ジョン:アイデア自体は、幼い娘たちを見て10年ほど前に思いついたものだ。彼女たちが空想の世界で楽しそうに遊んでいるのを見ては、いつも“いいなぁ、楽しそうで。どんな世界に行っているんだろう? その世界に僕も入っていけたら”って、羨ましくて仕方なかったんだ。
その後、新型コロナウィルスの感染拡大で世界中がパンデミックに突入したわけだけれど、娘たちもコロナ禍で幼いながらも不安や恐怖を抱えていたんだろうね。想像力を思いきり羽ばたかせて空想ごっこに耽る姿を目にすることが、以前より少なくなっていたんだよ。
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それに気づいて“これはいけない!”って思ったんだ。人生楽しいことだけじゃなく、辛いことや悲しいこともたくさんあるし、これから困難にぶち当たることも多々あるだろう。だけど、子どもの頃に戻ろうと思えば、いつだって戻れるんだよ、って娘たちに教えなきゃいけないと思った。この映画は、彼女たちにそういったことを伝えたいがためだけに作ったと言っても過言じゃない。そこで、コロナ禍に本作の脚本を書き始めたわけ。
――本作にはイマジナリー・フレンドが見える唯一の大人として、ビーの隣人カル(ライアン・レイノルズ)も登場しますね。
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ジョン:大人に彼らが見えるという設定に関しては、脚本執筆に向けたリサーチの過程で得たアイデアだ。児童心理学など調べていくうちに、子どもたちは自分に欠けているものを補うべく、自分にとって必要な存在をイマジナリー・フレンドとして生み出すというのが基本概念だということがわかった。つまりは深層心理というか、心の奥にある願望が形になったものが、イマジナリー・フレンドだね。
例えば、学校でいじめられている子は、いじめっ子から守ってくれたり、いじめられて悲しい時にハグしてくれる、大きくてガタイのいいイマジナリー・フレンドを創造することが多い、とか。そういった興味深い事実を学ぶなかで“それって、子どもに限ったことじゃないよね? 大人も誰しもが、その時の自分に必要な存在といったものを求めているだろうし、それをイマジナリー・フレンドとして具現化したとしても、おかしくないんじゃないか”って思い始めたんだ。
さらに、リサーチをしているとき、サー・ケン・ロビンソンがゲストの回の「TEDトーク」を見たんだ(イギリスの教育家の大家。TEDのプレゼンは億単位の視聴回数を誇る)。そこで彼は“人間は皆、無限の想像力・創造力を持って生まれてくるが、残念なことに大人になるにつれ、その天賦の能力が失われていく。だがそれは、歳をとるに従い自然と失われていくのではなく、個人が生きていくなかで、大人になろうと決断し、自ら大人になる選択を下すことで失われるものなのだ”という話をしていて、考えさせられちゃったんだよね。
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――それによって、大人でも小さい子どもでもないビーとカルのコンビになったんですね。
ジョン:そう。ケイリーが素晴らしい演技で体現してくれた主人公の少女ビーは、様々な問題を抱えて“大人にならなきゃ!”と、自ら大人になる選択・決断を下す、言うなればとても重要な過渡期にある。そこから“なにも無理して大人になる必要などない。誰だって、自分をハッピーにしてくれる存在を常に求めていて、それがイマジナリー・フレンドだったりしてもいいんじゃない?”というこの映画のメッセージと主題が明確になってきたんだ。
――ケイリーさんは、先ほどイマジナリー・フレンドはいなかったとおっしゃっていましたが、それ故に本作での演技がより難しくなったというようなことはありませんでしたか?
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ケイリー:う~ん、そんな風に考えたこともなかったけど、確かに難しい部分はあったかな。7歳で演技を始めてもうすぐ17歳になるところだから、10年近く俳優をやってきたなかで身につけたスキルをフル活用したって感じ。プラス、ジョンが私がテニスボール相手に演技をしなくてもいいようにあれこれ工夫を凝らしてくれたことも、大きな助けになったと思うんだよね。
ジョン:あー、良かった。インタビューの前にお金払っといて(笑)。
――なにいってんすか(笑)。
ケイリー:(笑)。イマジナリー・フレンドと絡むシーンでは、ほぼ必ず人間かパペットが相手役を務めてくれたのよね。
ジョン:そうそう。普通、そういう撮影はテニスボールをキャラクター位置のターゲットにしているんだけど、今作では基本的に人間かパペットを用意した。ブルーのような大きいイマジナリー・フレンドの代わりとして、どデカいパペットをいくつか作って常にセットに置いておくようにしたんだけど、そいつらを抱えて突進するんだ(笑)。
パペットを使って、僕自身が相手役を務めることもあったな。僕にとって撮影中の最大の喜びは、ケイリーが大笑いする姿を見ることだったから、とにかく彼女を笑わせたい一心でね。
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――では、撮影が一番困難だったシーンは?
ケイリー:私が演じたビーが住んでいる家は、なぜかやたらと階段があったんだけど、ある日の撮影ではひたすらその階段を登ったり下りたりしなきゃいけなかったのね。今考えても、あれは本当に辛かった。その合間合間に衣装替えとかもあって、息つく暇もなかった。そのうえ1テイクで終わらせてくれなかったものだから、最後のほうにはもうグッタリ(笑)。
ジョン:ごめん。ホント悪かった!
ケイリー:私も蹴つまずいたり、何度もドジってたしね。
ジョン:何だかまるで、役者をしごきまくるひどい監督みたいじゃないか(笑)!
ケイリー:そんなことないわよ。辛かったのはあの日だけ。
ジョン:よかった……。僕が一番苦労したのは、ケイリー演じる主人公がありったけの想像力を解き放ち、老人ホームをイマジナリー・フレンドだらけにしちゃうっていうシークエンスの撮影のとき。僕はもう「マジカル・ミステリー・ツアー」的なノリで、“はい、ここで奴らがわーっと入ってきて、そうするとこうなって!”とか、興奮気味にまくしたててたんだ。
そのうちスタッフが不安な面持ちになってきて“彼、大丈夫? 水とか飲ませがほうがいいんじゃない?”って(笑)。僕がドラッグとかでぶっ飛んでるって、現場のスタッフが心配してたんだよ(笑)。それで、素ですよ、素!ってことを信用させるのが大変だった。
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それ以外で大変だったのは、何といってもダンスシーンだね。予告編にもチラッとあるシーンで、イマジナリー・フレンド全員とケイリーが揃ってダンスするんだ。それは30のイマジナリー・フレンドの代わりに、超一級のプロダンサー6人に踊ってもらうことにしたんだ。準備がどんだけ大変だったか……。
でも、そのリハーサルの途中で、振付を担当してくれたマンディ・ムーアから、“知ってた? ケイリーはダンサーなのよ”って言われて、ケイリーが踊っている動画を見せてもらったんだ。マジですごかった。しかも丸々1シーンのその振り付けを、たった37秒で覚えたって言うんだよ! 主演俳優が1歳からダンスをやっていたプロだったおかげで、最高のシーンが撮れるぞ!って気分を変えて、彼女のおかげで最も困難なシーンを最高のシーンに変えることが出来たんだ。
――ライアン・レイノルズとは現場でどのような関係だったのですか?
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ケイリー:なんて言ったらいいか……出会えただけでラッキーとしか言いようがないよね。とびきり優しくて面白くて、褒め言葉しか見つからないくらい。そんな彼との共演を通して、俳優として成長する機会を与えられたことは、本当に幸運だったと思う。いつも全力投球で、私が知るなかで一番仕事熱心な人だったわ。
ジョン:僕は、デビュー当時から彼のファンだったんだ。彼が出ていたシットコムの「Two Guys, a Girl and a Pizza Place」の頃から。一般的には、陽気で元気いっぱいの、めちゃくちゃ面白いコメディ俳優として知られている彼だけど、それだけじゃない。ライアンには、とてつもなく深いハートとソウルがあるんだよ。この映画では、彼のそういった側面を、みんなに見てもらいたいという気持ちがあった。
特に、ケイリーとの共演シーンは本当に素晴らしいのひと言。これまで僕が一番好きなスクリーン上でのコンビはブッチ(・キャシディ)&サンダンス(・キッド)だったけど、今ではライアン&ケイシーがダントツのお気に入りってくらい、最強のコンビだと思うよ。
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――脚本執筆にあたって、一番難しかったことは?
ジョン:ペンやPCで書き始める前にまず、頭の中で脚本を書き進めつつ、監督目線で演出も同時につけていく、というのが僕のいつものやり方。そのプロセスを毎日毎日繰り返して、徐々に仕上げていくわけだけど、今回はアイデアを思いついてから頭の中で脚本を書き上げるまでに、おそらく1年ちょっとかかったんじゃないかな。
頭の中で映画の全編が見えた時点で、一気に書き上げるから、実際の執筆作業は12日くらい。ただその過程で、重要な選択や決断を迫られることが何度かあって、そこが一番苦しかったかな。最高にハッピーになれる映画であると同時に、辛く厳しい現実や事実に根付いているという部分もあるから、そこをきちんと描かなきゃいけない。
イマジナリー・フレンドは、単に愛くるしい空想上の存在ってだけじゃなく、子どもにとって、そして時には大人にとっても、辛い現実と向き合うための対処法でもある。そういった事実を真摯に受け止め、そこにある感情も含めてきちんと描き切らなきゃいけない。“人生楽しいことばかりじゃなく、辛くて悲しいこともたくさんあるけど、きっと乗り越えられるから大丈夫”というこの映画のメッセージを伝えるためにもね。
――ケイリーのキャスティングのプロセスは?
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ジョン:実はライアンと僕とでオーディションを行ったんだ。ケイリーは確か初日の2番手か3番手。ケイリーが部屋に入ってきて15秒で、まだ演技も何も見ていないのに“この子だ!”って直感したよ。
とりあえず1シーンの半分ほどを演じてもらったんだけど、彼女が部屋を出ていくなり、ライアンが僕に“あの~……オーディション続ける必要あるかな?”って聞いてきた(笑)。で、僕は“一応、体裁としてもう何人かに会った方がいいとは思うけど、僕的にはもう決まったから、オーディション終了ってとこだね”って、2人で顔を見合わせて合意したのを覚えているよ。
半シーンを演じてもらった時、僕が相手役を務めたんだけど、ケイリーは当然、映画のストーリーも知らなければ、それがどういうシーンなのかも分かっていない。にもかかわらず、ビックリするほど感情の込もった演技を見せてくれた。どれだけ工夫を凝らして入念に脚本を練り上げようとも、それを完璧に体現してくれる俳優がいなければはじまらない。だから全てはケイリーのおかげだと感謝しているんだ。
ケイリー:ありがと(かなり塩対応ぽく)。
ジョン:あれ、泣いてるの? ティッシュとかいる(笑)?
――監督のお子さんだけでなく、パートナーのエミリー・ブラントさんに助けを求めたことは?
ジョン:今までで、そしておそらくこの先も、僕にとってこれほど私的で思い入れのある作品はないと思う。それはスタートの段階から娘たちと一緒に作り上げていった映画だからだ。脚本に着手する前に、まずアイデアを娘たちに聞いてもらうことにした。それまで娘たちは、僕がどんな仕事をしているのかも、今ひとつ分かっていなかったんだよね。だって、僕が出かける時は“パパ、お仕事頑張ってね。何してるのかわかんないけど”って笑顔で見送ってくれるから(笑)。
かたやエミリーは「メリー・ポピンズ リターンズ」や「ジャングル・クルーズ」などファミリー向け映画で主演しているから、娘たちは彼女が何者なのかちゃんと分かっているし、ママ大好き。それが悔しくて、ここらで一発アピールしとかなきゃ!って思ったんだよね(笑)。
ともかく、この映画のアイデアとストーリーを説明したら、娘たちはとても気に入ってくれた。イマジナリー・フレンドのキャラクターを考案するときは、初期のラフスケッチを見せたし、セットや何かのデザイン画などもその都度見せたし、ケイリーが主演に決まった時も、真っ先に紹介したのが娘たちだった。
「クワイエット・プレイス」はエミリーのおかげ、この作品は娘たちのおかげで、僕にとっての“家族映画”を作ることが出来たと思っている。その一方で、自分の映画を誰かに見せるのを、これほど怖いと思ったことはないってくらい、娘たちからのリアクションに怯えまくっているんだよ(笑)。娘たちのために、娘たちが、そして娘たちと一緒に作り上げた映画だからね。今は彼女たちが気に入ってくれるよう、ただ祈るのみだね。
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