メルビル・プポーが、フレンチ・シネマ・アワード受賞 国際的な活躍に「カマンベールチーズのような存在として認知してもらえた」とジョーク【パリ発コラム】
2024年2月27日 13:00
エリック・ロメールの「夏物語」(1996)や、グザビエ・ドランの「わたしはロランス」(2012)、フランソワ・オゾンの作品群(最近作は「Summer of 85」2020)で日本でもお馴染みのメルビル・プポーが、2024年のフレンチ・シネマ・アワードを受賞した。
本賞は、フランス映画を世界に宣伝する公的機関のユニフランスにより2016年に創設され、毎年フランス映画の宣伝に貢献した俳優や監督、プロデューサーらを対象に与える栄誉賞だ。10歳から子役として活動をはじめ、およそ40年のキャリアを持つプポーは、自国で名実ともに評価の高い俳優であると同時に、ウディ・アレンやラウル・ルイス、アンジェリーナ・ジョリー、ジェームズ・アイボリーなど、海外の監督ともコラボレーションを果たしてきた。またフランス映画祭で初めて日本を訪れて以来、たびたび来日している日本贔屓でもある。
授賞式はフランスの文化省でおこなわれ、今年文化大臣に就任したばかりのラシッド・ダチ氏からトロフィーが授与された。プポーはリラックスした様子で、ジョークを交えてスピーチをおこない、「この仕事を始めた頃から、俳優なら自国で認められるだけでなく、その作品が海外にも配給されるようでありたいと思っていた。海外でも広く作品が目にされる機会がもたれるようでありたいと。ユニフランスのような団体の活動のおかげで、僕の仕事が海外の観客の目にも触れる機会があることはとても光栄なことだし、これまでニューヨークや日本など、さまざまな国の映画祭に連れて行って頂き、素晴らしい体験をすることができた。それによって僕は、たとえばカマンベールチーズのようなローカル・プロダクトを超えた存在として、認知してもらうことができたと思う」と語り、場内を沸かせた。
後日、映画.comの取材に応じたプポーは、その長く多彩なキャリアを振り返ってくれた。
「僕が初めて映画のセットに立ったのは11歳のとき、ラウル・ルイスの『La Ville des pirates』という作品で、ポルトガルで撮影をした。映画自体も夢物語のようだが、ルイスの現場はまるで宝箱をひっくり返したような楽しさに溢れていて、僕は本当にわくわくした。それが俳優になりたいと思ったきっかけだった。もちろん、その後はいつもルイスのような現場のわけにはいかなかったけれど(笑)、ドランやオゾンのような素晴らしい監督たちと出会えたことは、とてもラッキーだった。『ぼくを葬る』(2005)のときは、余命いくばくもない主人公を演じるために減量をして、役作りに身を捧げ、共演のジャンヌ・モローからきっとセザール賞をもらえる、と褒めてもらえたけれど、蓋を開けたたらノミネートすらされなくて落ち込んだ。でも逆に賞がすべてではない、やりたいことをやろうと思えるようになった。ある時点まで、僕は“感じのいいパリジャン”というイメージを持たれていて、とくに若い頃はそういう役柄ばかり話がきていた。それを積極的に変えていきたいと思い始めたのが10年ぐらい前。いまはちょっとサイコパスや影のあるキャラクターなど、暗い役柄も演じられるようになったことが嬉しい。これからもある一定のイメージにとらわれないようなチャレンジをしていきたいと思う」
昨年はマイウェンの「ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人」(2023)で、出世欲旺盛な貴族を演じたり、バレリー・ドンゼッリの「L’Amour et les Forêts」(2023)で病的な嫉妬男に扮したのが記憶に新しい。今後も多彩な役柄で我々を楽しませてくれることを期待したい。(佐藤久理子)
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。