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主演のマイウェンを存じ上げなかったのだが、監督・脚本もこなしていて才能豊かな女性であることがうかがえ、知性的なジャンヌと通じるところがある。「マリー・アントワネット」(ソフィア・コッポラ監督)でジャンヌに魅了され、足掛け4年かけて本作の脚本を書いたそうだ。
私の中に元々あったジャンヌのイメージは「ベルサイユのばら」で登場したデュ・バリー夫人なのだが、本作のように肯定的に描かれてみると、堅苦しい様式にこだわる時代の中でかなり現代の感覚に近い自由と愛に生きた、300年という時間の隔たりを感じさせない女性に見えた。
とにかく豪華絢爛な衣装・セット・ロケ地。現代から見ればちょっとシュールだったり大変そうな王宮の慣習も丁寧に描かれていて、この辺に着目して見るだけでも面白い。国王に背を向けてはいけないということで、小刻みなステップでバックしていく動作は笑ってしまった。
ジャンヌが愛人として王宮に入るときの「健康」チェック。国王自身、毎朝起きた瞬間から親族や配下の者(?)に囲まれる中で健康チェックとメイクにお着替え。それをガラス窓を隔ててジャンヌも見るという……王様も大変だ。
公妾になるために形式的に伯爵と結婚するというあたり、特に時代と文化の違いを感じた。当然とはいえ、現代とは愛や自由の意味や形がかなり異なる。
物語は時折ナレーションも挟みつつ、王宮日常もののように一定のペースで進んでゆく。ジャンヌが王に見初められ王宮に入るまではあっさり描かれ、その後のルイ15世との愛、王宮内での豪奢な生活と息苦しい人間関係の描写に重点が置かれる。
そんな中で王の側近のラ・ボルドは、ジャンヌのフォローをするうちに彼女の利発さを理解し、最後まで偏見なく献身的に接してくれる癒しの存在だ。バンジャマン・ラヴェルネの優しさと気品のある佇まいが、見ていた私にとっても一服の清涼剤だった。
王太子ルイ(のちのルイ16世)も、ジャンヌに対しフェアに接した。ディエゴ・ル・フュール、長身小顔でめっちゃイケメンですねー。と思ったら、なんとマイウェンの息子! 父親は実業家のジャン=イヴ・ル・フュール。ファッション業界では知らない人のない名物プロデューサーだとか。セレブだ。
史実に沿って悲しい結末だが、後を引くような重苦しさはなく、マイウェンのポジティブな解釈によるジャンヌの愛情深い人となりの方が印象に残る。
最初に数分出てきた少女時代のジャンヌはかなりの美少女だったが、マイウェンの演じるジャンヌの第一印象は、彼女が読書でエロスに目覚めたというナレーションの割には正直あまり、愛人というイメージを満たすエロスを感じなかった。ただ、物語が進むうちにジャンヌのチャームポイントはウィットと情熱であることがわかり、それはこの作品を作り上げたマイウェンと重なる気がしたので、違和感は消えていった。
いろいろあったジョニー・デップを久しぶりに映画で見た。やっぱりいい俳優だなあと思う。還暦を迎えて貫禄のついた彼の姿が、国王という役にフィットしていた。このくらいの年齢で、遊びや女性が好きそうな雰囲気がありながら下品にならず、愛嬌や繊細さも醸し出す。それが出来る俳優は意外と少ないように思う。
フランス人俳優からのキャスティングの都合がつかず、国籍と言語の線引きを取り払って白羽の矢を立てたそうだが、なかなかハマり役だったのではないだろうか。