佐藤嗣麻子監督が語り尽くす「陰陽師0」製作秘話 アクションで参考にしたのは羽生結弦
2024年2月14日 08:00
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山﨑賢人が主演する映画「陰陽師0」のメガホンをとった佐藤嗣麻子監督がこのほど、映画.comの取材に応じ、今作を製作するに至った裏話や原作者・夢枕獏氏との長きにわたる親交を語り尽くした。
夢枕氏による原作小説「陰陽師」は、平安時代に実在した“最強の呪術師”安倍晴明の活躍を描いたベストセラーシリーズ。1988年に刊行されて以来、定期的に新刊が発売され、現在までにシリーズ累計発行部数は680万部を突破している。映画は夢枕氏が全面協力するほか、呪術監修には、「呪術廻戦」に登場する数々のキャラクターや呪術を、実在した呪術の歴史から独自考察した書籍「呪術の日本史」監修の加門七海を迎えている。
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佐藤監督は、夢枕氏と約40年前に知り合ったそうで「もともと獏さんのファンだったので、ファンレターを持って講演会へ行ったんです。獏さんが32~33歳、私が19歳くらいの時期で、『陰陽師』をまだ書いていないころ。私は当時、日本SF大会の運営委員をやっていたこともあり、SF関係の方々とはもともと仲が良かったんです。そういう文脈の中で獏さんがサークルみたいな集いに呼んでくれたので、獏さんがいようがいまいがそこに入り浸るようになりました(笑)」と述懐。その後も交流は続き、「獏さんから『陰陽師』をやってよ! と言っていただいたので、『やるやる!』みたいな口約束もあったんですよね」と明かす。
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この口約束から約35年、佐藤監督は「アンフェア the end」を公開した2015年から脚本を書き始めたという。仕上げていくなかで、美術や衣装など細部に至るまでの考証には一切の手を抜かなかったようだ。そのうえで、最大の見どころとして「呪術」を挙げる。
「調べなければ分からなかったことがたくさんありました。映画だから、全て採り入れるわけにいかないこともあるのですが、無視するにしても、理解したうえで無視したいと。理解せずにやりたくはなかったんです。
呪術に関しては、監修の加門七海さんに当初『え、こんなに本格的にやるの?』って引かれたくらいなんです(笑)。完成した作品を観た加門さんから、『ここまで呪術に真正面から立ち向かった映画は日本では初めてでしょう』ってコメントをいただきました。初稿を書き上げたのが、16年11月。この頃って、“呪術”はポピュラーな言葉ではなかった。でもその後、18年に『呪術廻戦』が始まって。超ありがたいと思いました。以前、『アンフェア』というテレビドラマをやったときに、『アンフェア』という単語が世間ではほとんど知られていなくて、それを説明するのに苦労した経験があるので」
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映画化にGOサインが出たのは新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた20年だったそうだが、脚本に着手し始めた時期も含めて佐藤監督は大きな意味があると話す。
「ドナルド・トランプがアメリカの大統領になったとき、フェイクニュースという言葉が頻繁に使われるようになりました。ヒラリー・クリントンを陥れるため、そして自分に都合の悪いことは全てフェイクと呼ぶようになった。こういったことを信じるということが『呪(しゅ)』にかかっているのではないかと感じるんです。
『呪』とは、思い込みや心の問題。XになったTwitterなんて、『呪』の塊ですよね。こういうフェイク、まやかしを呪術で退散祈祷した人物こそが安倍晴明なわけで、今の世情にこそ晴明のような存在が必要なんじゃないかと思ったんです」
映画の舞台となるのは、呪いや祟りから都を守る陰陽師の学校である省庁「陰陽寮」が政治の中心だった平安時代。呪術の天才と呼ばれる若き安倍晴明(山﨑賢人)は、陰陽師を目指す学生とは真逆で、陰陽師になる意欲や興味が全くない人嫌いの変わり者。ある日、晴明は貴族の源博雅(染谷将太)から皇族の徽子女王(奈緒)を襲う怪奇現象の解決を頼まれる。2人は衝突しながらも共に真相を追うが、ある学生の変死をきっかけに、平安京をも巻き込む凶悪な陰謀と呪いが動き出す……。
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佐藤監督は、主演の山﨑を「すごく不思議な人」と評する。
「人間離れしている人なんで、すごく安倍晴明に向いていると思うんです。獏さんの原作でも、晴明は美形キャラなので、そういう面でも合っていると感じました。彼は撮影中、もう全く文句を言わず、淡々と撮影に挑むんですね。不平不満を一切口にしない。とてもストイックです」
一方、源博雅に扮した染谷についても、嬉々とした面持ちで話し始める。
「物語として、晴明と博雅の友情については原作通り、きちんと描きたかったんです。映画では凸凹コンビにしたくて、山﨑さんのキャスティングが決まった後、すぐに染谷さんにオファーをしたんです。難しい注文が好きだっていうから遠慮なく無理難題をつきつけたら、的確に演じてくれました」
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取材時に設定画やデザイン画といった資料を惜しげもなく見せてくれたが、細部にいたる考証とともに創作部分にこそ注力したことがうかがえるこだわりが垣間見えた。その中で、どういった部分に困難を覚えたのだろうか。
「映画に出て来る陰陽寮なんて、誰も見たことがないですよね(笑)。寺社仏閣以外、平安時代の建物なんてほぼ残っていないなかで、作り込まなければいけないわけです。さらに夢の中の世界にまで範囲が広がったので、何もないところから作っていくのはとにかく大変でしたね」
仕上がった本編からは、「和」と同等以上に「洋」のテイストを感じさせる世界観が、観る者の目を楽しませてくれる。ここにも、佐藤監督ならではの根拠が見え隠れする。
「(奈良・平安時代の重要物品を納める東大寺の)正倉院を見てみると、意外と洋風のものが含まれていたりするんですよ。それでも平安中期のものってあまり残っていなくて、源氏物語絵巻にしても紫式部が『源氏物語』を書いてから150年後に作られたものです。現代に置き換えてみても、今から150年前の日本って服装も何もかもが違う時代ですよね。当時は写真もない時代ですから、どれが正しいと断言できない世界。映画というエンタテインメントを描くうえでは、外国のものも入ってきていたであろう世界にしたんです」
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最後にアクションについても言及しておく。今作には園村健介がアクション監督として参加しているが、武士道などが存在する前の時代を描いているだけに、インスピレーションの題材として意外な人物の名前が浮上した。
「『アンフェア』や『K-20 怪人二十面相・伝』などを作った際は、重力のあるアクションを取り入れていました。ただ今回は、浮遊感のあるアクションが相応しいのかなと思いました。アクション監督は、プロフィギュアスケーターの羽生結弦さんにインスピレーションを得て作っていったと言っていましたよ」
「陰陽師0」は4月19日全国公開。ムビチケカード(一般:税込1600円)は2月16日より一部の劇場を除く全国の上映劇場で販売される。ムビチケ前売券(オンライン)も同日発売予定。
(C)2024映画「陰陽師0」製作委員会
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