【「白日青春 生きてこそ」評論】世代や民族の違いを背景に心の交流と贖罪を描く人生の“中継地”香港
2024年1月28日 20:30
世界経済(国際金融センター)のハブのひとつとしての地位低下が囁かれる香港は、難民の国際中継地でもあり、毎年、数千人の難民が香港で政府の承認を待っているという。「白日青春 生きてこそ」は、そんな香港の街を舞台に、孤独なタクシー運転手と難民の少年の心の交流を描いたヒューマンドラマだ。
この初老のタクシー運転手バクヤッを香港の名優アンソニー・ウォンが演じている。アクション映画「ハード・ボイルド 新・男たちの挽歌」(1992)、ホラー映画「八仙飯店之人肉饅頭」(1993)、傑作「インファナル・アフェア」(2002)、そしてジョニー・トー監督「エグザイル 絆」(2006)などの数々の作品で、アクの強い独特な存在感を放ってきたウォン。近年は「淪落の人」(2018)で半身不随となり人生に絶望した中年男性を演じるなど、円熟味を増した演技を披露している。
少年は、パキスタンから香港へやってきた難民の両親のもとに生まれ香港で育ったハッサン。家族とともにカナダへ移住することを夢見ていたが、ある日、父親が交通事故で亡くなってしまう。偶然とはいえ自身の起こした事故でハッサンの父親を奪ってしまったバクヤッは、ギャングに加わって警察に追われる身となったハッサンの逃亡を助けることにする。そしてお互いの関係と共に、世代や民族の違いを背景にしたドラマが描かれる。
バクヤッは罪悪感からだけでなく、自身も1970年代に中国本土から密入境した身であり、その際に妻を亡くし、本土に置き去りにして今は香港で警察官になったひとり息子との関係が上手くいっていないことも、ハッサンへの償いに重ねられる。本作が初めての映画出演となるパキスタン出身で香港在住の少年サハル・ザマンが、ハッサンを演じているのも重要な意味を持っていると言えるだろう。
1997年にイギリスから中国へ返還され、2000年以降から徐々に勢いを失いつつある香港だが、バクヤッの密入境から約半世紀近く経っても難民は押し寄せ、難民申請から承認までに10年かかることもあり、承認を得られなければ強制送還されてしまう。香港は人生の“中継地”とも言えるだろう。バクヤッは交通事故を起こした後に、タクシー運転手を廃業して、故郷の本土へ帰ることを口にする。そしてタクシーと営業権を売った金でハッサンを密航船で外国へ逃がそうと奔走する。
本作の脚本と監督を手掛けたのは、マレーシア生まれで香港に移住して活動しているラウ・コックルイ。自身の気持ちや経験もこの作品に活かされており、「父の愛を渇望する息子と、息子を理解しようともがく父親の物語」であると述べている。
バクヤッは乱暴で無知で、自分勝手であり、衝動的で本能的に行動し、善意から悪いことをしてしまう男。だが悪人ではなく、多くの後悔を抱えて償いたいと思っており、そんな人間をウォンがリアルにユーモアを交えて演じている。ラストにバクヤッが下す決断は深い余韻を残し、新世代監督による第2の香港ニューウェーブの到来を決定づける1本だ。
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