【「僕らの世界が交わるまで」評論】厄介で愛おしい家族の関係はこれからも続く ジェシー・アイゼンバーグ監督が注ぐあたたかな眼差し
2024年1月21日 18:00

「ソーシャル・ネットワーク」や「ゾンビランド」シリーズなど、一度見たら忘れられない演技で、唯一無二の存在感を放つジェシー・アイゼンバーグ。俳優としての目覚ましい活躍のかたわら、「僕の人生での楽しみは書くことだけ」と語り、執筆業でも才能を発揮している。そんな彼が脚本も手がけた初監督作「僕らの世界が交わるまで」で選んだテーマは、ちぐはぐにすれ違う母と息子の物語だ。
余談だが、思えばアイゼンバーグは、ニューヨークを舞台にある家族の崩壊を描いた「イカとクジラ」では、両親の離婚を告げられる長男、カップルが新居の内見に訪れた住宅地から抜け出せなくなる「ビバリウム」では、不条理な運命を直視せず、穴を掘り続ける男を演じていた。こう振り返ると、壊れかけた家族を描く物語と、不思議な縁がある。
劇中で描かれるのは、DV被害に遭った人々のためのシェルターを運営する母エブリン(ジュリアン・ムーア)と、ネットのライブ配信で人気を集める高校生の息子ジギー(フィン・ウルフハード)。母のノックで配信を邪魔され絶叫し、部屋の前に巨大なランプを設置したり。外出時、息子の「5秒くらい待って」という言葉をそのまま受け止め、5秒カウントしたあと、声もかけずに家を出たり。親子の攻防に、クスリとさせられると同時に、身悶えするほどの共感性羞恥に襲われる方もいるだろう。
しかし本作は、そんなよくある家族ドラマの枠にはとどまらない。エヴリンは、母とともにシェルターに身を寄せる好青年カイルを息子と重ねるようになり、一方のジギーは、社会問題に強い関心を持つ、(本人は気付いていないが)母そっくりの聡明な同級生ライラに惹かれていく。家族と分かり合うことを諦めたふたりは、外の世界で、つながりを求め始めるのだ。子どもは、自分の理想とは違う形で育っていく。家族は価値観も倫理観も全く異なる人間の集まりで、必ずしも分かり合えるわけではない――アイゼンバーグ監督は、誰もが自覚しながらも直視することを拒む、家庭が抱える“密やかな地獄”に切り込んでいる。
そんなシリアスにもなるテーマを軽やかに描いているのは、アイゼンバーグ監督の手腕によるところが大きい。特に印象的だったのは、音の演出だ。エヴリンのシーンにジギーの自作曲の音が侵入し、ジギーのシーンで、エヴリンが好むクラシックの重厚な旋律が響く。ふたつの世界では全く違う音楽が流れながらも、やはりつながっているかのようだ。さり気ないこの演出に、アイゼンバーグ監督が抱く家族像、そしてこの親子に注ぐあたたかな眼差しが、存分に込められているような気がするのだ。だって、厄介で愛おしい家族の関係は、これからもまだまだ続くのだから。
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