【2023年の映画界を振り返るVol.3】宮崎駿監督作の宣伝なしの興行展開とバーベンハイマー問題
2023年12月30日 12:00
2023年の映画界は、実にさまざまなニュースが駆け巡りました。異例の興行を展開して大ヒットした作品の話題から、長年にわたり活躍してきた映画人たちの訃報、海外の映画祭における日本勢の大健闘など、挙げ出したらきりがありません。映画.comでは、23年の映画界を象徴するニュースを10本ピックアップし、本日から3日連続で読者の皆様とともに振り返ってみようと思います。Vol.3では、3本のトピックスをご紹介します。
公開までほとんどの情報が伏せられ、宣伝も一切しないという前代未聞の状態のまま7月14日に全国で封切られた宮崎駿監督の最新作「君たちはどう生きるか」。マスコミ試写会も一切なかったため、映画.com編集部の面々も初日朝一の上映で鑑賞すべく劇場へ駆け込んだことは言うまでもありません。事前情報が何もない状態で作品を観賞することの意義を、ひとりひとりに問いかけてくれました。12月10日時点で興収86.1億円の大ヒットを飾りましたが、北米でも興行ランキングのトップ10で首位を獲得。日本映画が1位を飾るのは、「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」(22)以来の快挙となりました。
2023年にGoogleで最も検索された映画の第1位が「バービー」、第2位が「オッペンハイマー」でした。この2作の全米公開日が同じだったことから“バーベンハイマー”の造語が生まれ、今夏の一大ブームとなったのです。SNS上に“バーベンハイマー”のファンアートが溢れるなか、「オッペンハイマー」が「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と挫折を描いていることに絡め、原爆投下を連想させる画像が投稿されました。この画像に、「バービー」の米公式アカウントが好意的な反応を示したことで批判の的に。日本法人のワーナーブラザースジャパンが異例ともいえる遺憾の意を表明し、米ワーナー・ブラザースが正式に謝罪する事態にまで発展してしまいました。「オッペンハイマー」はなかなか日本公開が決まりませんでしたが、ビターズ・エンド配給で24年に公開されることが12月に入ってから発表されました。どのような興行になるのか、目を離すことができません。
第80回ベネチア国際映画祭では、濱口竜介監督の「悪は存在しない」が銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞しました。さらに、独立機関による国際批評家連盟賞も受賞。濱口監督は、映画「偶然と想像」で第71回ベルリン国際映画祭の審査員グランプリ(銀熊賞)を受賞、映画「ドライブ・マイ・カー」(21)では第74回カンヌ国際映画祭で日本映画初となる脚本賞を含む計3部門を受賞したほか、第94回米アカデミー賞では国際長編映画賞に輝いてます。それに続くベネチアでの受賞という快挙となり、世界3大映画祭とアカデミー賞を制したのは日本人では黒澤明監督以来となりました。
また、オリゾンティ部門に参加した塚本晋也監督の「ほかげ」は、アジア映画をサポートする独立機関(ザ・ネットワーク・フォー・ザ・プロモーション・オブ・アジアン・シネマ)が主催するNETPAC賞を受賞しました。
執筆者紹介
大塚史貴 (おおつか・ふみたか)
映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。
Twitter:@com56362672
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