O 僕は渋谷区に住んでいるので、劇中に出てくる2つのトイレを体験しています。特に坂茂さん設計の、透明のドアのトイレには驚きました。
W そうですね、最初は入るのが怖いのですが、1度入ると中がとてもきれいなので、楽しくなります。私はあの仕掛けが大好きです。
O 役所広司さんが演じる平山さんがフィルムカメラで撮る、木漏れ日が印象的です。僕は、この映画を試写で見てから“ヴェンダースごっこ”と称して散歩途中に木漏れ日の写真をモノクロで撮るようになりました。木漏れ日は、英語では何と言うのでしょうね?
W 木漏れ日に該当する言葉がないので、二つのセンテンスを用います。"Sunshine freeze leaves producing a game of light,on the wall on ceiling" このような感じで、“木漏れ日”のように美しくはないのです。
O 木漏れ日の光の広がり、奥行き、輝きは、撮影監督アンリ・アルカンのライティングを思わせますね。僕は1988年にミラノの家具の展示会で、アルカンの照明、ピーター・リンドバーグの撮影で、僕はオリジナル音楽のライブ演奏をしました。その時に、アンリ・アルカンの照明を体感し、正にコクトーの「美女と野獣(1946)」の世界に飛び込んだ気分でした。ヴェンダース監督の「ベルリン・天使の詩」でも彼の照明が美しかったです。あのマジックはどのようにできあがっているのでしょう?
W その通り、彼は“マスター・オブ・木漏れ日”ですね。私は、アルカンとの前に、ロビー・ミューラーとも多くの仕事をしています。ミューラーも照明を大事にしており、いろんな方向から光を当てても、床に落ちる影はひとつだけなのです。一方、アルカンは、多くの影を作りました。彼はそれを気にせず、多くの光源から多くの影ができることを楽しんでおり、それが彼のスタイルの豊かさでした。これはミューラーとアルカンの大きな違いです。
O 次はカメラの話を伺いたいです。「PERFECT DAYS」で、平山さんはフィルムカメラ(オリンパス μミュー)を使って、木漏れ日を撮っていましたね。今日、僕も持ってきたんです。このカメラを映画で使うことはヴェンダース監督のアイディアだったのですか?
W そうです。撮影監督のフランツ・ルスティグが、最高のコンパクトカメラのひとつだと勧めてくれたのです。
(ヴェンダース監督、オノ氏のカメラを使って取材風景を撮影する)
O ヴェンダース監督は3D映画も発表していますし、最新の撮影技術も使われますね。僕は、1990年頃にもヴェンダース監督と東京でお会いしているんです。僕はマイルス・デイビスが亡くなる2か月前のモントルージャズフェスティバルのハイビジョン用のミキシングをしていたタイミングで。その時はソニーのハイビジョンセンターの担当者が一緒でした。
W ああ、そのことは憶えていますよ。
O 「都会のアリス」では発売される前のポラロイドSX-70を使っていました。70~80年代の作品ではポータブルレコードプレイヤー、ジュークボックスも登場していました。最先端のガジェットを用いることもあれば、今回の「PERFECT DAYS」ではフィルムカメラと、カセットテープというアナログな小道具が平山さんのアイコンのような役割を果たしています。
W 僕は、ハイレゾリューションや3Dも大好きで、それはデジタルでしかできないことです。「PERFECT DAYS」は、フィルム撮影も考えましたが、時間的な制約があり不可能でした。16日間で撮影しましたから。真夜中のシーンでも、暗闇でも鮮やかに撮影できるデジタルカメラを選びました。
W 私も2台持っていますよ。ウォークマンプロフェッショナルD6を使って、1度だけサウンドエンジニアも自分でやりました。「東京画」の時です。カメラマンとふたり体制だったので、彼が16ミリカメラを回し、私が音を録りました。しかし、もう二度とやりたくない経験です。なぜなら、ヘッドホンをつけて下を向いていて、良い音が録れた!と思って、カメラマンが撮った映像を見たら、別のものを撮っていましたから(笑)。
W ゴルバチョフ氏は当時の政治を語る上で非常に重要な人物です。彼にはベルリンの壁の崩壊の責任があり、そして、彼は先見的な政治家でした。私にとって、彼以上に先見の明のある人はいません。ですから私は彼本人を映画に出演させたかったのです。そして彼は私たちに30分だけ時間をくれました。それで十分でした。ルー・リードとゴルバチョフをひとつの映画に撮ることができたのは、魔法のようでした。とても幸運なキャスティングですよね!