スタジオポノック最新作試写会、天国の“イマジナリーフレンド”高畑勲監督のために席を用意
2023年11月16日 21:15
スタジオポノック最新作となる「屋根裏のラジャー」のジャパンプレミアが11月16日にTOHOシネマズ六本木ヒルズで行われ、寺田心、鈴木梨央、安藤サクラ、仲里依紗、山田孝之、イッセー尾形、百瀬義行監督、西村義明プロデューサーが出席した。
「メアリと魔女の花」のスタジオポノックが、イギリスの作家で詩人のA・F・ハロルドによる小説「ぼくが消えないうちに(The Imaginary)」を映画化した本作は、少女の想像によって生まれた“イマジナリーフレンド”を主人公に、現実と想像が交錯する世界で起こる冒険を描いたファンタジーアドベンチャー。高畑勲作品の「火垂るの墓」から「かぐや姫の物語」までの全作品に携わるなどスタジオジブリ作品で活躍したアニメーターで、スタジオポノックのオムニバス「ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間」にも参加した百瀬監督の最新作となる。
本作主人公ラジャーの声を担当するのは、現在15歳の寺田心。この1年で40センチ近く身長が伸び、かつ声変わりで声が低くなるなど、すっかり成長した姿を見せた寺田だが、本作の収録を行ったのは声変わり前の2022年の夏ごろだったという。西村プロデューサーは寺田のキャスティングについて「百瀬さんが描いたキャラクターを、モニターにあてながら、いろんな声を聞いて選んだんですが、寺田さんがスタジオに遊びに来たときに、百瀬監督が『ラジャーの声がした』と言っていたんです」と振り返る。
「中学に入ってから40センチくらい急に背が伸びて。だからこそ収録の時はすごく大変でした。声変わりの前に急がなきゃということで、皆さまより1年早く、プレスコという形で収録させていただきました」と明かした寺田は、「ちょうど声が不安定な時だったんで、声には気を付けました。大きな声を出さないように、白湯やはちみつを飲んだりして、気を付けました。ちょっとずつ変わっていくあの時期を『屋根裏のラジャー』に収めることができて、貴重な体験でした」としみじみ語った。
またラジャーという役について、「ラジャーからは諦めない心を教えてもらいました。僕との共通点は信念かなと。一度ものごとを信じたら疑わないところは同じですが、違うところは、15歳のこの時期で、僕は反抗期に入りかけていて、だから何か言われると斜に構えるところがあるんです。でもラジャーは素直でまっすぐで。いつまでもラジャーのようにありたいし、ラジャーが教えてくれたこの気持ちを忘れないようにしたいと思います」と思うところも多かったようだ。
そしてあらためて「僕は絶対にこの映画に出たいと思ってオーディションを受けました。この映画に選ばれた時はうれしくて泣きました」と語る寺田は、「本気のアニメーションをつくった作り手の皆さんを見たこと、そして完成した映画を見たときのこと、こうして皆さんに映画をお届けできること、スタッフ、俳優さんの皆さんが何年もかけてつくった映画です。たくさんの思いが詰まっています。この映画に出られたことは一生忘れられません」と力強く語った。
そして最後に西村プロデューサーが「この作品はつくるのが大変で、企画から6年くらいたちました。最後に友だちの話をしたいと思います」と切り出すと、「僕には40歳くらい歳の離れた友だちがいたんです。それは高畑勲という監督なんですけど」と2018年に逝去した高畑監督について言及。そして高畑監督の妻が交通事故に遭ったときに、病院を訪れたところ「ご関係は?」と言われ、とっさに「友だちです」と返してしまったこと。そしてそれを聞いた高畑夫妻が病室で「友だちと言われたけど、西村君じゃないかなと話していたんだよね」と笑っていたということなどを振り返る。
そんな高畑監督の作品が大好きで、スタジオジブリに入り、プロデューサーとして高畑監督と一緒に「かぐや姫の物語」をつくった。「その後、高畑さんともう1本映画をつくろうねと約束をしていました。でも、この原作の企画をしているときに高畑さんは亡くなってしまって。一緒につくることができなかった」とその思いをせつせつと語った西村プロデューサー。
そして「高畑さんと出会っていなければ百瀬さんとは出会っていないし、ましてや『屋根裏のラジャー』もない。ここにいるすばらしい俳優の方々も出られていなかった。人はいずれ消えていきますが、そこに何が残るのかと考えながら企画をしていました」と語る西村プロデューサーは、関係者にお願いして天国の“イマジナリーフレンド”である高畑監督のために、この日の上映会の座席を一席空けてもらったことを明かすと、「今日は手厳しい僕らの先輩に観てもらっているので。皆さんの横に座っていると思うんですが、ぜひ友だちと観てください」と呼びかけた。
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