ヤンヨンヒ監督、モーリー・スリヤ監督との対談で後進にアドバイス「自分を信じるド厚かましさも才能」【第36回東京国際映画祭】
2023年10月31日 15:00
国際交流基金と東京国際映画祭の共催企画「交流ラウンジ」で10月31日、「かぞくのくに」(2012)などで知られるヤンヨンヒ監督と、17年「マルリナの明日」が世界的に高い評価を受けたインドネシアのモーリー・スリヤ監督の対談が行われた。
2人は20年の映画祭で対談しているが、コロナ禍だったためリモートでの実施。3年ぶりに念願の初対面を果たし、ヤン監督は「昨日も『マルリナの明日』を見て、興奮した状態で来ました」と声を弾ませた。
前回の対談時、ヤン監督は「スープとイデオロギー」の編集を始めた頃で韓国に滞在。「母の介護もあったので時々帰国していたが、2年くらい韓国にいたんです。国籍は韓国なのに暮らしたことがなく、韓国の映画業界や社会をがっつりと深くいいところも悪いところも見られた」と述懐。スリヤ監督も、2000年に撮る予定だった作品が延期となり、翌年に渡米し別の作品を撮影。「インドネシアに戻ってみたら、コロナ前と同じ状況には戻っていなかった」と振り返った。
インドネシアの映画事情については、「98年まではスハルノの独裁下で死に体と言っていいくらい。検閲も厳しく、公開も難しい状況。今は盛り上がっているが、まだまだ赤ちゃんのような業界。組合もあるが機能していないし、模索している状態」と説明。ヤン監督が、日本も韓国も大規模予算の商業映画に女性監督が登用されることがほとんどない現状を嘆くと、「インドネシアにはスタジオシステムも配給会社もないので、全てがインディペンデント。全国公開になっても、島が7000もあるのでプロモーションが難しい。ただ、ホラー映画が多く全体の半分くらい。女性監督の視点からのホラー映画はひとつのジャンルになっていて、商業的にも当たるんです」と明かした。
映画と配信の両立の難しさなどについて意見交換をした上で、後進へのアドバイスを求められたヤン監督は、「自分を信じるド厚かましさも才能。それが揺らぐと絶対に止まる。撮影が終わっても完成させられない、公開が決まっていても流れるなどいろいろな理由があって着手するのが恐ろしくなる作業だが、自分を信じ、信じられるスタッフとどう出会えるか。そのための精神力、体力も必要」と持論を展開。続けて、「小さな発信でも地球の裏側まで届くという意識を持って、踏ん張るしかない」とエールを送った。
スリヤ監督は、これまでの3作品の作風が全て違うという質問を受けたが「2度同じことはしたくないという思いはあるが、自分としてはそんなに変わっていない。映画学校時代はスタンリー・キューブリック監督にあこがれ、スタイルを踏襲しているところはある。彼の作品のジャンルも多岐にわたっているが、一つの同じ声があると思う」と解説。一つの同じ声の真意も聞かれたが、「言葉にできるなら映画にする必要はないわよね」と煙に巻いた。そして、“パート3”の開催を約束し、二人で固い握手を交わした。
第36回東京国際映画祭は、11月1日まで開催される。
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