片渕須直監督が語る、「この世界の片隅に」と最新作「つるばみ色のなぎ子たち」のつながり【第36回東京国際映画祭】
2023年10月29日 12:00
こうの史代氏の漫画が原作の劇場アニメ「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」が10月28日、第36回東京国際映画祭のアニメーション部門で上映され、片渕須直監督が角川シネマ有楽町でのトークショーに臨んだ。
2019年12月に公開された本作は、16年公開の「この世界の片隅に」に、250カットを超える新エピソードを追加した長尺版。ロングラン上映を記録した「この世界の片隅に」は、第二次世界大戦下の広島・呉を舞台に、大切なものを失いながらも前向きに生きようとする女性すずの日常を丹念に描いた。「(さらにいくつもの)片隅に」では、すずと遊郭の女性リンとの交流などを掘り下げることで“さらにいくつもの人生”を映し出している。
「この世界の片隅に」は、フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭の長編コンペティション部門で審査員賞を受賞。片渕監督は、同映画祭について「確かオープニングに近い位置での上映だった」と振り返り、審査までの期間、会場にいない時は「日本からスーツケースいっぱいの平安時代の本を持っていって、可能なかぎりホテルでそれを読んでいた」と明かす。
ホテルで読んだという平安時代の本は、片渕監督の次回作「つるばみ色のなぎ子たち」へとつながっている。同作は平安時代の京都を舞台にしたオリジナル作品。「枕草子」の清少納言が生きた1000年前、疫病がまん延して数万人の死者がでて、時代が大きく変化していくなかで、日常のなかに希望を見いだしながら生きていく少女たちの姿が描かれる。すでにパイロット映像が公開されている。
片渕監督「2017年のアヌシー国際アニメーション映画祭の時に、それまで温めていたモチーフが映画になるかどうかを確かめたわけです。それを出発点にして作り始めました。疫病、パンデミックのことが描かれるのですが、『枕草子』や『源氏物語』が書かれた平安時代にこういうことがあったということがわかって、これを映画にしようと思いました」
さらに「この世界の片隅に」の制作時に抱いていた“ある思い”も、「つるばみ色のなぎ子たち」制作のきっかけのひとつとなった。
片渕監督「『この世界の片隅に』は、我々が体験していない戦争を体験したかのような気持ち、あたかも自分たちがそこに行ったかのような気持ちになれる映画、タイムマシンのような映画として作ろうと思い、ある意味でそれが実現されたと思った。そして、このタイムマシンはどこまで時をさかのぼれるんだろうと思ったことが、『1000年くらい前の時代を描きたい』というところにつながっていきました。そして(『この世界の片隅に』と)同じように、1000年前のそれぞれの日のお天気はどうだったのかというところからはじめたわけですね」
これをうけて、同部門のプログラミング・アドバイザーを務めるアニメ評論家の藤津亮太氏は「パイロット映像を見ると、記録的事実、確認できる事実を積み上げつつも、『この世界の片隅に』よりも、より広く命が循環していて、そのなかに生と死が含まれている。それは蚊が人間の血を吸うとか、魚の餌になるから人間が死ぬこと、あるいは生まれることも含めて、宇宙の摂理みたいなところまで風呂敷が広がっているのかなと思ったのですがいかがでしょうか」と問いかける。
片渕監督は、「『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』のすずさんは、子どもに恵まれない若い妻であり、しかし最後には別の形で子どもを得るというお話でした。どこかでは共通していると思います。やはりどこかで、自分が作った映画は自分に影響していて、次に作るものが何かを教えてくれる。それが『つるばみ色のなぎ子たち』の形になっていくんだなと思います」と、作品作りのなかにある“つながり”を明かした。
本作は、19年の第32回東京国際映画祭でも上映され、片渕監督は主演声優・のんとともにレッドカーペットにも登壇した。
第36回東京国際映画祭は、11月1日まで開催。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
犯罪が起きない町で、殺人事件が起きた――
【衝撃のAIサスペンス】映画ファンに熱烈にオススメ…睡眠時間を削ってでも、観てほしい
提供:hulu
映画料金が500円になる“裏ワザ”
【知らないと損】「映画は富裕層の娯楽」と思う、あなただけに教えます…期間限定の最強キャンペーン中!
提供:KDDI
グラディエーターII 英雄を呼ぶ声
【史上最高と激賞】人生ベストを更新し得る異次元の一作 “究極・極限・極上”の映画体験
提供:東和ピクチャーズ
クリスマス映画の新傑作、爆誕
【「ホーム・アローン」級の面白さ】映画ファンへの、ちょっと早いプレゼント的な超良作!
提供:ワーナー・ブラザース映画
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
死刑囚の告発をもとに、雑誌ジャーナリストが未解決の殺人事件を暴いていく過程をつづったベストセラーノンフィクション「凶悪 ある死刑囚の告発」(新潮45編集部編)を映画化。取材のため東京拘置所でヤクザの死刑囚・須藤と面会した雑誌ジャーナリストの藤井は、須藤が死刑判決を受けた事件のほかに、3つの殺人に関与しており、そのすべてに「先生」と呼ばれる首謀者がいるという告白を受ける。須藤は「先生」がのうのうと生きていることが許せず、藤井に「先生」の存在を記事にして世に暴くよう依頼。藤井が調査を進めると、やがて恐るべき凶悪事件の真相が明らかになっていく。ジャーナリストとしての使命感と狂気の間で揺れ動く藤井役を山田孝之、死刑囚・須藤をピエール瀧が演じ、「先生」役でリリー・フランキーが初の悪役に挑む。故・若松孝二監督に師事した白石和彌がメガホンをとった。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。